性ホルモンを学ぶ

⑩女性更年期に理解を 企業研修で離職防止

女性の社会進出が一般化するにつれ、長く働き続けられる環境を整えようと、更年期特有の心身の不調について学び合う研修を実施する企業が増えている。人口の多い団塊ジュニア世代が更年期を迎え、体調不良による離職リスクが高まっていることが背景にあるようだ。経営者も関心を寄せており、働く女性の健康を支える仕組みづくりは、組織運営に欠かせない課題として受け止められている。

関連会社から海外拠点まで

「私たちが開催する更年期研修や講演会の受講者数は年間5千人ほど。数年前に比べて倍以上に伸びています」。更年期に関する正しい知識の普及に取り組むNPO法人「ちぇぶら」代表、永田京子さんはそう話す。特に変化を感じるのは企業の受け止め方だ。

「おばさんを元気にしてどうするの?」「女性のヒステリックな症状のことでしょ」。8年前、永田さんが活動を始めたころは、企業の人事担当者に更年期研修を勧めても、偏ったイメージで語られることが少なくなかった。

だが、女性活躍推進法が全面施行された平成28年以降、大企業から研修の依頼が相次いでいる。

昨年、動画配信で研修を実施した自動車部品大手『デンソー』では、関連会社も加わり、動画再生数が3千回を超えた。数年前に国内の従業員向けに、ちぇぶらの研修を取り入れた日用品大手「花王」でも、対象をアジアの事業所や研究所まで拡大したという。

深刻な離職リスク

企業が女性の更年期研修に力を入れる背景には、更年期症状を抱えながら働く女性の急激な増加がある。

厚生労働白書(令和2年版)によると、令和元年の40~54歳の女性就業率は約8割。高い就業率に加え、人口数の多い団塊ジュニア世代(昭和46~49年生まれ)が次々と更年期を迎えている現状がある。

労働政策研究・研修機構(JILPT)の周燕飛客員研究員がNHKなどと共同で実施した「更年期と仕事に関する調査2021」によると、更年期症状が原因で離職した40~50代女性は約46万人と推計される。

更年期に特化したウェブサービスを運営する「よりそる」代表の高本玲代さんが、この数字と中途採用にかかるコストをもとに、企業損失を算出したところ、約3200億円にのぼったという。

高本さんは「更年期症状は婦人科にかかることで軽減することもできる。企業研修で受診の大切さを伝えることで、離職を防ぐことにつながるのではないか」と語る。

相談しやすい環境作り

経営者も女性の健康課題に関心を寄せている。1月中旬、コンサルティング大手「デロイト トーマツ」が地方経営者向けに開催したオンライン勉強会。高本さんが講師として招かれ、更年期障害と経営をテーマに討論が行われた。

43歳の女性部下から更年期障害かもしれないと相談を受けた。どう対応をすればよいか-。こうした想定に、「男性にも理解してもらうために知識の共有が必要」「早退や休暇がとりやすいように普段から業務の分担を考えておかなければならない」といった意見に加え、「体調を崩した従業員が負い目を感じないような相談しやすい環境づくり」の重要性を指摘する声もあがった。

勉強会に参加した岩手県宮古市で印刷会社を経営する花坂雄大さんは「地方は人材不足が深刻だが、それは近い将来、日本全体が直面する課題でもある。更年期女性に限らず、従業員一人一人の健康に気を配り、力を引きだすことが、経営者に求められるのではないか」と話した。

人生の節目節目に、身体的、精神的な影響をもたらす「性ホルモン」の作用に注目が集まっています。性に関する科学的な知識をもつことは、豊かな人生につながります。家庭で、職場で、学校で-。生物学的に異なる身体的特徴をもつ男女が、互いの身体の仕組みを知り、不調や生きづらさに寄り添うことを目指した特集記事を随時配信していきます。

性ホルモンを学ぶ

会員限定記事会員サービス詳細