【詳報】自民裏金「20年以上前から…」 聞き取り結果発表 不記載の理由は? 何に使った?(全文PDFあり)

2024年2月15日 20時28分
自民党は15日、派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、政治資金収支報告書に不記載があった安倍派や二階派の議員らへの聞き取り調査の結果を公表した。
「裏金」の使い道については「会合費」や「車両購入費」、「手土産代」などの回答があった。「気持ち悪いと思っていたので使わなかった」など不明朗な金銭を理由に使用しなかったという議員も多数いた。
報告書は、安倍派での収支報告書に記載しない取り扱いについて、議員の証言をもとに「20年以上前から行われていたこともうかがえる」と指摘した。ただし、不記載とするようになった経緯は今回の聞き取りでも明らかになっていない。
調査結果で公表した証言は、すべて匿名だった。
自民党が公表した調査結果の概要は以下の通り。(デジタル編集部)
【聞き取り調査の対象】
収支報告書への不記載を認めている安倍派や二階派の現職国会議員82人と選挙区支部長(党の公認候補)3人の計85人と、8つの派閥の代表者または事務総長

裏金問題を受けた自民党の聞き取り調査の報告書

① 自民党派閥のパーティー券の販売代金の取り扱い

・安倍派、二階派では、派閥のパーティー券の販売について所属議員にノルマが課されていた。
・ノルマを超えて販売した場合、いったん全額を派閥に支払った後にノルマ超過分が派閥からキックバックされる「還付方式」と、パーティー券の代金は議員側で支払いを受けて、ノルマ分だけを派閥に渡す「留保方式」の2つの方式があった。
▽還付方式 53人
▽留保方式 16人
▽還付方式+留保方式 16人
【2018~2022年のキックバックや中抜きの金額】
総額 5億7949万円

② キックバック、中抜きについて議員の認識は?

▽キックバック、中抜きを認識していた 32人
▽そのうち、不記載を認識していた 11人(いずれも安倍派)
・この11人の不記載の理由は「派閥からの指示、説明」だった。
「収支報告する必要はないと言われたのを信じていた」
「記載不要との説明を受けて、記載しなくても合法なのだと認識した」
▽キックバック、中抜きを認識していなかった 53人
▽そのうち、「派閥からの指示、説明」があった 29人(いずれも安倍派)
【裏金が始まった時期】
・安倍派について、以下のような説明から「遅くとも10数年前から行われていた可能性が高い(場合によっては20年以上前から行われていたことも窺われる)」と指摘した。
「おそらく30年くらい前からの慣習がそのまま残ってしまったのだと思う」
「20数年前の当選後に先輩から聞いたような記憶がある」と述べる者、「10年ほど前に、派閥の事務局から、収支報告書に計上しないでほしいという申し入れが私の事務所に対してあった」
・二階派は「少なくとも10年前から」と説明した。

③キックバック、中抜きした金銭の管理方法

【管理していた主体】
▽議員本人 12人(秘書と管理した場合も含む)
▽秘書や事務所の経理担当者等 73名
【管理方法】
▽現金 39人
▽銀行口座 30人
▽現金+銀行口座 12人
▽不明、確認していない 4人
・現金の保管場所は、「事務所の金庫」「鍵の掛かった事務所の引き出し」、「専用の箱(物理的なボックス)」「引き出しの中の小さい金庫」など。

④ キックバック、中抜きした金銭の使い道

【還付金等の使用の有無】
▽使用していた 53人
▽使用していなかった 31人
▽キックバックを受けていたことを議員や秘書が認識していなかった 1人
【主な使い道】
・会合費
・研修会の施設経費
・懇親費用
・小口現金
・事務費
・車両購入費
・書籍代
・人件費
・通信費
・手土産代
・備品・消耗品費
・弁当代
・リース代
・旅費・交通費
・翌年以降の派閥パーティー券購入費用
※「政治活動費以外に用いた」または「違法な使途に使用した」と答えた人は誰もいなかった。
【使用しなかった理由】
▽不明朗な金銭だったから 13人
「気持ち悪いと思っていたので使わなかった」
「秘書によれば、受領時も、領収書は出しておらず、金額確認と署名のみであり、処理できないお金という認識だった」
「秘書が使うと危ないと考えて、受領した現金をそのまま保管していた」
「派閥から記載しなくていいと言われたので『裏金』みたいなものではないかと思い、全額残した。疑義がないように『清和研』の文字が入った口座で保管していた。細田氏に返すと言ったし、安倍氏にもおかしいと言った」
▽将来のパーティー券ノルマへの備え 5人
▽派閥からの預り金ととらえていた 3人

⑤ 裏金問題に関する各議員の思い

【反省、再発防止策】
「当選したときからこのような制度となっており、『こういうものなんだ』と思っていた。このような感覚自体が良くないことである」
「ポストと金との関係は断ち切ったほうがよい」
「還付金を現金で渡していた点を含めて、透明性の点でも改善すべき点が多々ある」
「還付を拒否したのに受領するように押し付けられた議員、返還しようとして安倍総理が了承したのに実現しなかった議員もいる」
【派閥幹部の責任を問う意見、不満の声】
「安倍総理が還付は止めると決定しながら、結局、還付が行われたのが残念。誰がその決定をしたのかについては、誰も語らない」
「派閥の若手議員よりも重鎮議員の方の危機意識が低かった」
「派閥の上に立つ人間が責任をとらないといけないと思う」

「安倍さんが還流しないと宣言していたことは確実で、誰が復活させたのか。議員総会でかなりの人数が言ったが答えない」
「派閥の総会で、誰も責任を取ろうとしない」
「派閥が不適切な処理をしているとは思いもよらなかった。言い訳にはならないが、派閥の一会員は、派閥から指示されると、そこから外れたことはできない」
「自民党には、政治にお金がどれだけかかるかということをしっかり表に出して欲しい。選挙区内の移動にお金が非常にかかるが、そういうことは表に出ない」

⑥ 各派閥、グループ(G)のパーティー収入の訂正状況

【2020~2022年の訂正金額】
▽森山派 0円
▽岸田派 896万0000円
▽麻生派 0円
▽二階派 1億3614万1109円
▽石破G 0円 
▽安倍派 4億3588万0000円
▽茂木派 280万0000円
▽谷垣G 0円
【各派閥が未計上とした原因】
▽岸田派 所属議員が売った派閥パーティー券のうち、誰が売ったか分からないものが、収入額の計上の際に漏れていた。
▽二階派 所属議員が売った派閥パーティー券の売上のうち、各議員のノルマ超過分として、派閥から各議員に対して還付し、又は各議員側で留保された金額のうち、派閥の収入として計上していないものがあった。
▽安倍派 所属議員が売った派閥パーティー券の売上のうち、各議員のノルマ超過分として、派閥から各議員に対して還付し、又は各議員側で留保された金額を、派閥の収入として計上していなかった。
▽茂木派 前年開催の派閥パーティー券の販売代金が年を越えて入金されたものの見落としなど。
【不記載が始まった経緯】
・二階派、安倍派で、各議員が売ったパーティー券のノルマ超過分が、派閥の収支報告書に記載されていなかった理由について、各事務総長はいずれも「把握していない」としており、今回の聞き取りでも明らかにならなかった。
・事情を知っている可能性がある安倍派、二階派の各会計責任者は今回の聞き取り調査への同席がなかった。

⑦ 専門家の提言

再発防止に向けて厳罰化、外部窓口の設置、適正なモニタリングの3点の提言があった。
【妥協なき法令遵守の継続と違反に対する厳罰化】
最も重く捉えたのは、議員やその秘書等のスタッフで疑問や違和感を抱いた者が相当数いたにもかかわらず、それを根本的な是正の端緒とできなかったことだ。その原因は、一人一人の議員秘書において、法令違反やコンプライアンス上グレーな状況を把握した際に、追求する姿勢が徹底できなかったことにある。
「政治とカネ」に関する不正行為に厳罰を科していくなど党としてペナルティを強化していくことは、国民の信頼回復のためにも不可欠だ。また、研修やルール作りという地味なコンプライアンス活動を続けることが、再発を防止する無二の方法だ。
【声を上げることへの称賛の実践と外部窓口の設置】
当選回数による序列や人事への懸念から、若手議員が意見しにくい閉鎖的な組織風土が派閥内に生まれてしまっていたのではないか。反対意見・耳ざわりな指摘こそが議論を深めるものであるとして真に称賛し、サポートする行動の実践が求められる。
声を上げる手段の多様化・オープン化も欠かせない。追い詰められた秘書や若手議員でも拠り所とできる外部通報窓口の設置も有効な手段である。
【適正なモニタリングとトレーサビリティの確保】
多くの聴き取り対象者が述べたのは、秘書などのスタッフへの任せきりという実態を恥じ、しかるべき責任を果たせていなかったことだ。定期的に報告を得て、フィードバックを欠かさない適正なモニタリングが必要で、記録保全のために、業務のデジタル化をさらに推進することが有効と考えられる。
不透明さを生む現金が、不正の温床であることを再認識し、口座振り込みの徹底(現金授受の排除)、一定額以上の金銭の口座管理を義務付けるなどの取り決めが求められる。
身内の論理が優先されることを防ぐために、「自民党外の目」を取り入れることが不可欠だ。

◆聞き取り調査の方法

聞き取り調査は、森山裕総務会長ら党執行部6人が分担して今月2~8日に実施した。外部の弁護士も同席し、結果をまとめた。

記者団の取材に応じる自民党の森山総務会長=2月15日、首相官邸で

自民党は、今回の聞き取り調査と並行して、所属全議員らへのアンケートも実施し、結果を公表している。しかし、アンケートは記載漏れの有無と、2018~2022年の不記載額の2問だけで、裏金の使い道や不記載の経緯などは尋ねていない。
アンケートの中で記載漏れや誤記載があったのは85人で、総額は5億7949万円だった。最多は、二階俊博元幹事長の3526万円だった。


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