トランプ氏が影の主役に 同盟軽視、身構える欧州―ミュンヘン安保会議
ドイツで16~18日の日程で開かれた今年のミュンヘン安全保障会議は、会場にいなかったトランプ前米大統領が「影の主役」となった。11月の米大統領選に向け、共和党の候補指名争いを独走するトランプ氏の同盟軽視の姿勢に、欧州の同盟国・友好国は身構え始めた。
◇「最前線に連れて行く」
「もしトランプ氏が来れば、最前線にお連れする用意がある」。2年近くにわたりロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は17日の演説で、ウクライナ支援に消極的なトランプ氏を首都キーウに招待した上で、戦場の視察を計画していると明らかにした。「インスタグラム上ではなく、本物の戦争」を見せるのが目的という。
トランプ氏はこれまで「もし私が大統領なら、戦争を24時間で終わらせる」と豪語。ロシアのプーチン大統領に好意的な発言も繰り返している。
トランプ氏は安保会議直前にも、防衛支出が不十分な北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対して「やりたいようにするようロシアに勧める」と攻撃を促すとも受け取れる発言をし、波紋を呼んだばかり。今回の会議では、トランプ氏が再登板した場合の影響が主要な議題となった。
◇防衛支出増額呼び掛け
会議開幕当日にロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の獄死が伝えられたことも、ロシアに融和的なトランプ氏に対する欧州の懸念をさらに強めた。
NATO次期事務総長の有力候補とされるオランダのルッテ首相は「もうトランプ氏に不平不満や愚痴を言うのはやめよう」と提案。「われわれは米国人ではないので(大統領選で)投票できない。ダンスフロアにいる誰とでも踊らなければならない」と述べ、欧州自身のために各国が防衛支出を増額し、米国に左右されないことが必要だと訴えた。
トランプ氏の言動は既に国際情勢に影を落としている。同氏が共和党の上下両院議員に圧力をかけたことで、ウクライナへの追加支援を盛り込んだ法案の米議会承認は見通せないまま。ゼレンスキー氏が武器の不足を嘆く中、東部の激戦地アウディイウカが陥落した。
米議会は昨年12月、大統領が独断でNATOを脱退できなくする法律を可決。欧州でもドイツが防衛支出の長期的な増額を打ち出すなど、トランプ氏の返り咲きを念頭に置いたような動きが欧米では目立ち始めた。
一方、ハリス米副大統領やブリンケン米国務長官はミュンヘン安保会議で欧州の同盟国・友好国の疑念払拭に追われた。ハリス氏は演説時間の大部分をNATOへの言及に割き、「バイデン大統領と私のNATOに対する神聖な責務は揺るがない」と訴えた。(ミュンヘン時事)