TOKYOまち・ひと物語

施設出た若者に寄り添う 高橋亜美「ゆずりは」所長

施設を巣立った子供らの支援を行うアフターケア相談所「ゆずりは」の高橋亜美所長
施設を巣立った子供らの支援を行うアフターケア相談所「ゆずりは」の高橋亜美所長

 虐待や貧困といった家庭の事情から親元を離れ、児童養護施設などで暮らす子供たちがいる。多くは10代後半や20代前半になると、「自立」を求められるが、悩みを抱え込み、行き詰まる者は少なくない。「アフターケア相談所『ゆずりは』」(東京都国分寺市)の高橋亜美所長(47)は、伴走型の支援を通じ、施設を巣立った子供たちに寄り添い続けてきた。(三宅陽子)

 「ゆずりは」の拠点は国分寺駅からほど近く。児童養護施設や自立援助ホームを進学や就職で退所した人たちを中心に相談を受け、居場所の提供や就労支援なども行っている。

 活動の原点となったのは、大学卒業後に働いた自立援助ホームだった。そこには虐待を受けるなどして親元から離れた15~22歳が暮らしていた。「自宅が安心できる場所だった」という者は皆無で、多くが大人への不信感や怒りを抱えていた。「生きていることがつらい」と訴えてくる者もいた。

 不安定に揺れ動く子供たちの心と向き合うのは、たやすいことではなかった。何気なくかけた言葉や、よかれと思ってした行為が引き金となって突然怒り出したり、罵声を浴びせられたり…。だが、いつからか、子供たちのこうした感情の裏には、親や身近な大人から受けてきた悲しい思い出が潜んでいることに気付いた。怒りは「言葉にできない声」だった。

 信頼関係を築くのは、手探りだった。相手が見せた反応の真意が分からなければ、正直に「教えて」と伝える。食事を作ってともに食べ、会話し、日常を分かち合う中で、少しずつ距離を縮めていった。そして、こうした積み重ねこそが、子供たちの心の安定につながっていくのだと知った。

 ■「つらい」吐き出して

 「ゆずりは」を立ち上げたのは約9年前。児童養護施設などを退所後、社会に踏み出した子供たちの「苦悩」を目の当たりにしたことがきっかけだった。

 一定の年齢となり、施設を退所する子供たちの多くは家族を頼ることができない。自身で生計を立てていく中で生じる不安や悩みを誰にも打ち明けられず、孤立を深めていた。

 中には、性風俗産業で働き始めたり、望まない妊娠や借金を抱えたり、自死を選ぶ者もいた。「自立」の名の下、社会に送り出された子供たちが追い詰められていく現実があった。

 「施設から社会に出た子供たちはどんな困難も一人で乗り越え、頑張り続けることを求められる。だが、誰にも頼れずに生きていくことがどんなに大変か。『つらい』という気持ちを吐き出せ、直面した問題に一緒に向き合っていける仕組みを作りたいと思った」

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