「道になりたい」側溝男がまた盗撮逮捕 遠く果てしない更生への道

生まれ変わったら道になりたい-。8年前、側溝に潜んで女性のスカート内をのぞき見ようとしたとして逮捕された男が今年9月、スマートフォンを側溝に仕掛けた疑いで、再び兵庫県警に逮捕された。以前の逮捕時には「側溝男」として実名で大きく報じられ、厳しい社会的制裁を受けたにもかかわらず、男は改心することなく、またしても同様の手口の犯行に手を染めてしまった。常習性が高いとされる性犯罪の再犯を防ぐ有効な手立てはあるのだろうか。

「何してるんや」側溝内であとずさりする男

9月14日夕、学生らが行き交う神戸市東灘区内の路上脇の側溝内で息を潜める男。上方からグレーチング越しに側溝を確認する捜査員と目が合った。実際は、そのとき男の存在に気付いてなかったが、違和感を覚えた捜査員が数メートル後方の鉄板のない場所から側溝内をのぞきこむと、四つんばいであとずさりしながら逃走を図る男の尻が見えた。

捜査員が思わず「何してるんや」と叫ぶと、「何がや」と言い返してきたという。だが、側溝から出てきた男は警察手帳を示されると、急に素直になって「ごめんなさい」と謝罪。「溝に潜んでスカートの中をのぞこうとしてました」とその意図まで明かした。

翌日、動画撮影モードにしたスマホを側溝に仕掛けたとして、兵庫県警東灘署に性的姿態撮影処罰法違反の疑いで逮捕されたのは、神戸市東灘区の無職の男(36)。同署によると、容疑を認めている。

逮捕のきっかけは、約1週間前の同8日昼過ぎ、同区内の地下道の側溝に落ちていたスマホだ。通りかかった高校3年の女子生徒(18)が落とし物と思って拾ったところ、動画モードになっていたため、不審に思い、同署管内の交番へ届け出た。

スマホにはロックがかかっていたが、解析により電話番号が男のものと判明。同署が男の犯行とみて捜査し、側溝内にいるところを発見したという経緯だ。神戸地検は犯行が常態的で悪質と判断、この女子生徒を盗撮したとする同罪で先月5日に起訴した。

過去にも実名報道で社会的制裁

男が立件されたのは、これが初めてではない。平成25年6月にも同区の甲南女子大近くの道路にある側溝内に潜り込み、通行中の女性のスカート内をのぞき見したとして逮捕された。27年11月には、同区内の道路にある深さ約60センチの側溝にあおむけで約5時間寝そべり、格子状のふたの隙間から同様ののぞき見行為をしようとしたとして逮捕されている。

男は当時、警察の調べに「生まれ変わったら道になりたい」「短所は側溝に入ってしまうこと。興奮してやめられない」などと供述。こうした発言が取り沙汰され、実名で報道された。

だが、警察による逮捕も、実名報道という厳しい社会的制裁も、男の常習的な犯行を止めることはできなかった。男の特異ともいえる性癖をやめさせる手立てはあるのか。

一般に、性犯罪には再犯が多いイメージがあるが、実際は再犯率がそれほど高いわけではないという。性犯罪の問題に詳しい原田隆之・筑波大教授の「痴漢外来-性犯罪と闘う科学」(ちくま新書)によれば、その再犯率は5%程度にとどまるとされる。

ただ、性犯罪全体に比べ、痴漢や盗撮の再犯率は高い。法務総合研究所の統計によると、その同種再犯率は、保護観察付き執行猶予者で痴漢が36・9%、盗撮が25%、出所受刑者では痴漢が49・7%、盗撮が42・9%。原田氏は著書の中で同種犯罪ばかりを繰り返している者が多いのが特徴だと指摘する。

認知のゆがみに自ら気づく「認知行動療法」

性犯罪の再犯防止に一定の効果を上げているのが、認知行動療法だ。人の行動に関する心理学や行動科学を応用した心理療法で、問題行動の原因になる考え方や行動のゆがみに自ら気づく練習を行い、実際に同じ場面に直面したときに、自らをコントロールする。

法務省は、16年に奈良市の小学1年、有山楓ちゃん=当時(7)=が再犯者に誘拐、殺害された事件を機に再犯防止の検討に着手。18年の刑事収容施設法の施行に伴い、認知行動療法に基づく受刑者への再犯防止指導を始めた。

現在は、昨年度改定された処遇プログラムを基に、受刑者にグループワークやカウンセリングなどを実施。自身の性加害のパターンや特有の認知のゆがみを知り、日常生活でうまくいかないときの対処法を学ぶとともに、被害者の苦しみへの理解を促す。

受講者同士が意見を出し合って、再び罪を犯さないための方策を話し合う。例えば、痴漢なら満員電車に乗り合わせないため職場の近くに住む、盗撮ならスマホのカメラを壊したり、そもそもスマホを持たないようにしたりする対処法があるという。

法務省が24年から3年間、1768人を対象にプログラムの受講者と非受講者を比較調査した結果、受講者の再犯率が27・3%、非受講者が38%で、再犯の可能性が2割程度低下したことが確認されている。ただ、犯罪類型別にみると強姦の前歴者への抑止効果が高い一方、痴漢が大半とされる迷惑防止条例違反者への効果は認められなかった。また、盗撮犯は検証の対象になってはいない。

今回、男が下に潜んでいたのと同タイプのグレーチング。上からは人がいても分からない
今回、男が下に潜んでいたのと同タイプのグレーチング。上からは人がいても分からない

生まれ変わったら道になりたい-。こうした言動から強い覚悟すらにじませる男を、別の道へと進ませることは可能なのか。

性依存症の治療に詳しい専修大の松嶋祐子准教授(心理学)は、のぞきを繰り返す男の犯行態様から「のぞきへの性依存傾向がうかがえるが、8年間捕まっていなかったことから、犯行に及んでいなかった期間も相当に長いといえる。やめたいとも思っているのではないか」と指摘する。

その上で「痴漢や盗撮は、日常生活で行為を誘発するスイッチが多い。仮に刑務所で認知行動療法を受けたとしても年とともに効果は薄れてしまう。このため出所後も継続してカウンセリングや自助グループに参加できる環境整備や支援が必要だ」と話している。(吉国在)

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