相模川支流の魚から340倍のPFAS検出 1週間に身を8g食べれば「健康リスク」も 京大と共同調査

2024年1月12日 06時00分
 相模原市東部の河川や地下水が発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)で汚染されている問題で、東京新聞は京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)と共同で、市内の道保川に生息する魚などに含まれるPFASの濃度を調査した。濃度が最も高い魚は全国平均の約340倍に相当。欧州の指標では、体重50キロの人が身の部分を1週間に8グラム以上摂取した場合に「健康リスクの恐れがある」とされる数値だった。(松島京太)

◆国内は指標なし、早急な議論を

 PFASは全国の米軍施設や工場などの周辺で検出されており、飲み水以外でも汚染された魚など食べ物から体内に取り込み蓄積される恐れが指摘されている。国内では食品に含まれるPFASの指標はなく、早急な議論が求められる。
 道保川は、市内の中部から南部に流れる長さ約3.7キロの相模川支流の一つ。中央区の道保川公園の湧水などを水源としている。

東京新聞などのPFAS共同調査に協力し、川で魚を採る子どもら=2023年10月21日、相模原市南区で

 本調査は、相模川流域の環境保護に取り組む団体「相模川さがみ地域協議会」の協力の下、小川遊び体験イベントで捕獲した魚類などを原田准教授の研究室で分析した。2023年10月下旬の調査では、道保川の上流から約3.5キロの地点でカワムツ2匹、ドンコ4匹、アメリカザリガニ2匹を採取。「身」と「肝臓」に分け、それぞれに含まれるPFASの一種PFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)の合計値を調べた。

◆ヨーロッパの食品安全基準によれば

 最も高濃度だったのは、いずれもカワムツで肝臓が1キロ当たり14万ナノグラム(ナノは10億分の1)。身が同2万9000ナノグラムだった。
 環境省は毎年、大気や河川、生物中に含まれる化学物質の量を調査しており、2021年度の調査では魚類に含まれるPFAS濃度の平均値は同85ナノグラムで、カワムツの身は約340倍だった。

有機フッ素化合物(PFAS)の一種PFOA=京都大の原田浩二准教授提供

 欧州食品安全機関が定める耐容週間摂取量(TWI)では、1週間に体重1キロ当たり4.4ナノグラム以上のPFASを摂取し続けると「健康被害の恐れがある」としている。体重50キロで換算した場合のTWIは220ナノグラム。調査では、最高値のカワムツの身に1グラム当たり29ナノグラム含まれており、8グラム摂取すれば232ナノグラムと、TWIの220ナノグラムを超える計算となる。

◆「食用にするのは控えるべき」

 神奈川県や相模原市の調査によると、道保川は21年から源流付近で1リットル当たり300ナノグラム前後、今回の魚類の採取地点付近で同100ナノグラム前後のPFASが検出され続けている。原田准教授によると、魚類は主にえら呼吸で汚染水を取り込むことでPFASが蓄積されるという。
 原田准教授は「汚染された魚類を食べた場合、ほぼ全てのPFASが人体に取り込まれる。PFASの汚染地域では、魚類で同じような状況が懸念され、むやみに食用にするのは控えるべきだ」と指摘する。
 相模原市によると、道保川で漁業は営まれていないという。今回の調査結果に対し、市の担当者は「対応を検討したい」とした。
   ◇

◆水道水の「暫定目標値」は設定、食品はまだ

 「見た目はきれいな川なのに本当にショック」。道保川近くに住む相模原市南区の会社員白鳥淳子さん(40)は、今回の調査結果にため息をついた。子どもの食育に役立てようと、川で捕ったドンコやアメリカザリガニを調理して食べていた。「どれだけPFASが食品に含まれていたら危険なのかが分からないと、安心できない」
 厚労省は2020年、水道水の「暫定目標値」として、1リットル当たりのPFASを50ナノグラムと設定。一方で、食品に含まれるPFAS濃度の目安は国内にはない。

水道の蛇口(イメージ)

 食品を通じたPFAS摂取については、内閣府の食品安全委員会が2023年1月、専門家会議「PFASワーキンググループ」を発足させて議論している。12月25日に開かれた第6回会合では、国内外の健康影響に関する研究をまとめた評価書の案を提示したが、食品の耐容摂取量など具体的な規制値は示されなかった。
 欧州食品安全機関は2020年、PFASの耐容週間摂取量を設定。米国やカナダでは五大湖周辺の州などでつくる協会は19年、魚のPFAS濃度と摂取頻度の目安について指針をつくっている。
 京都大の原田浩二准教授は「PFASの製造規制は進んでいるが、環境中に長く残留するため、過去の汚染がいまだに食品にも影響を及ぼし続けている。国は危機感を持って対策を進めるべきだ」と訴える。

 相模原のPFAS汚染 神奈川県の2020年度の調査で、相模原市東部を流れる道保川から高濃度で検出されたことを受け、市が翌年度から調査を開始し、中央区南橋本の地点で1リットル当たり約1500ナノグラムのPFASを検出。市内の水道水は高濃度で検出されていない河川から取水している。市は汚染が懸念される飲用井戸の使用を控えるよう注意喚起したが、一部の集合住宅などで飲み水として使っていたことが本紙と京大の調査で判明。道保川源流の約2キロ北に米軍相模総合補給廠(しょう)や工場密集地域があるが、汚染源は分かっていない。隣接する座間市の調査によると、付近の地下水はおおむね南方向へと流れている。


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