どうなってる?国の「防災予算」 災害大国の日本、この使い方で本当にいいのか 防衛費は過去最高だけど…

2024年1月12日 12時00分
 能登半島地震は発生から10日以上たってもなお、被害の全容がはっきりせず、孤立地域が存在する状態だ。災害大国の日本で、改めて防災の重要性が浮かび上がる。防衛費は2024年度当初予算で約7兆9000億円と過去最高を記録したが、防災関係の予算はどの程度なのか。災害を巡る予算運用は適切になされているのだろうか。(西田直晃、岸本拓也)

◆今のトレンドは「下り坂」

 内閣府は各省庁の毎年度の防災関係予算を積算し、防災白書で発表している。
 最新の23年版の同白書によると、23年度は約1兆6000億円で、22年度の約3兆円の半分程度。ただ、23年度分については当初予算段階の速報値で、国土交通省の担当者は「防災関係予算は、災害発生時に事後の補正予算などで対応するのが一般的」と説明する。今後、補正予算や予備費からの支出が上積みされ、確定値となる見通しだ。
 グラフにしてみると、過去に二つの山があり、現在は下り斜面にいるようにみえる。
 最大のピークは阪神大震災直後の1995年度。前年度から急増し、過去最多となる約7兆5000億円に上った。その後は減少傾向にあったが、東日本大震災直後の2011年度には再び増加に転じ、約4兆7000億円に達した。能登半島地震により24年度は再び増加する可能性が高い。

◆「研究予算」は一貫して2%以下

 内閣府は防災関係予算を4項目に分類している。各種災害や防災・減災の調査研究を指す「科学技術の研究」、防災施設の整備や建物の耐震化、訓練や教育といった「災害予防」、地盤沈下対策や治水・治山事業などの「国土保全」、被災者の生活再建支援や災害復旧事業を含む「災害復旧等」だ。
 年度を追って防災関係予算の使途の内訳を4項目別にみると、「災害復旧等」が自然災害の動向次第で1~7割と上下する一方、「科学技術の研究」は一貫して2%以下で推移する。「災害予防」の比率が増加傾向にあるとともに、かつては関係予算の4~6割を占めていた「国土保全」は1~2割程度にとどまる。

予備費47億円の支出を閣議決定後、能登半島地震に関する非常災害対策本部会議で発言する岸田首相(左から2人目)=首相官邸で

 「昭和期に自然災害を防ぐための土木工事が求められたが、公共事業が右肩下がりになってきた1990年代後半以降は防災関係の工事も相対的に減っている」と国交省の担当者。東日本大震災以降、災害予防の重要性が増したのは、発生を前提に被害軽減を図る「減災」の考え方が広まったことも大きいという。
 一般会計予算に占める防災関係予算の割合をみてみると、災害対策基本法が成立した60年代に比べて低下している。集計が始まった62年度には8.1%だったが、22年度は2.2%にとどまった。

◆予算を集約した資料は「この白書しかない」

 内閣府の担当者は「大きな災害が発生すると、防災関係予算が増やされ、全体の予算に占める割合も大きくなる」と話すが、長期的な割合の低下傾向の説明としてはすっきりしない。

土砂崩れで安否不明となった人の捜索活動が続く現場=11日、石川県珠洲市で

 さらに「防災関係予算と一口に言っても、年度ごとにどの範囲を含んでいるかの違いもある。国立機関の独立行政法人化で集計から除外された事業などもある」(担当者)とも。
 なお、防災関係予算を集約した資料は「この防災白書しかない」という。災害大国・日本の防災関係予算の全体像はつかみづらい印象だ。

◆減災、復興、強靱化…本当に適切に使われていたのか

 過去の災害を振り返ると、防災や減災、震災復興などの名目で多額の予算が使われてきた。ニーズに沿って適切に使われてきたのかというと実態は怪しい。
 例えば、西日本豪雨などを受け、2018〜20年度の計画で実施された国土強靱(きょうじん)化緊急対策事業を巡り、会計検査院が昨年5月、緊急輸送道路でない道を無電柱化するなど、目的外の支出が計672億円あったと指摘した。東日本大震災のときも、各省庁が復興との関係が疑わしい事業を復興予算に潜り込ませ、「便乗」と批判された。

雪の中、火災現場の捜索活動を続ける警察官=石川県輪島市で

 能登半島地震では、政府は23年度の一般予備費から、被災者支援のために約47億円を支出することを決めた。自然災害などに備え、使途を決めずに毎年、予算計上されている予備費は約4666億円残っており、必要に応じてここから追加支出していくという。さらに政府は24年度予算案を変更して予備費を現状の5000億円から1兆円に倍増させる方向で検討している。

◆また「予備費」 ずさんな運用で多額の繰り越しも

 予備費は国会審議を経ないで政府の裁量で支出できるが、たびたびその使途が問題視されてきた。新型コロナ禍の20年度にそれまで数千億円程度だった予備費を10兆円超に拡大。その後、物価高対策やウクライナ問題にも使途を広げた。会計検査院も昨年9月、多額の予備費が繰り越されるなど、ずさんな予算運用があったと指摘した。

倒壊した民家で行方不明者の捜索をする消防隊員ら=5日、石川県輪島市で、本社ヘリ「あさづる」から

 今回の予備費支出について、白鷗大の藤井亮二教授(財政政策)は「震災の復旧にどれだけ費用がかかるか見通せない状況で予備費を使うのはやむを得ない」と理解を示しつつ、野放図に拡大しないように歯止めが必要と指摘する。
 「政府は新年度予算で、『一般予備費』を倍増すると報道されているが、一般予備費の増額は政府への白紙委任を広げるだけ。能登半島地震の対応に使途を制限する『特定予備費』とするべきだ。予備費の使用はやむを得ない場合に限定し、傷んだ地域経済の立て直しなど必要な予算は、補正予算を編成して国会の審議を経た上で執行することが求められる」

◆住宅の耐震化が急務 何が必要なのか

 一方、能登半島地震を巡っては、石川県の地震被害想定が1998年から更新されず、県が2022年9月から想定の見直しを進めていたさなかに地震に見舞われた。古い木造住宅を中心に大きな被害が生じたことを踏まえると、適切な現状分析に基づいて予算を効果的に使い、住宅の耐震化などの対策を推進する重要性が高まっている。
 名古屋大の福和伸夫名誉教授(建築耐震工学)は、能登半島で住宅耐震化が進んでいなかった理由を「耐震化は住宅の建て替えが中心。だが、高齢者が多い過疎地では『次住む人がいないから』となかなか進まない。国も自治体も私有財産である民間の建物に対して強く言えず、結果的に過疎地ほど耐震化は遅れている」と指摘し、「まず実情を知り、国民の間で耐震化を進めようと意識を高めていくことが大事だ」と説く。

雨にぬれる倒壊した家屋。警察官らが辺りを見回る姿が見られた=10日、石川県輪島市門前町道下で

 第一歩として、耐震基準を改定した国の責任で全国の住宅や建物を耐震診断して、その結果を公表するよう提案する。「自分の家や普段利用する建物が安全なのか、国民には知る権利がある。安全への意識が高まれば、行政は耐震化への予算を支出しやすくなる。耐震補強だけでなく、耐震シェルターの設置など、できる範囲で対策を進めるきっかけにもなる」とした上で、こう呼びかける。
 「南海トラフ地震の想定被災地域は、能登半島地震の25倍、揺れの震度は一つ上がる。住んでいる人は100倍以上だ。いま本気で耐震化をやらないと取り返しが付かなくなる」

◆デスクメモ

 厳しい冷え込みの中、避難生活を強いられる被災者が多数いる。支援のための迅速な財政措置を望む。だが、野放図であってはならない。被害の甚大さを鑑みると、備えの大切さも痛感する。防災の予算が効果的に使われているか。誰もがわが事として目を光らせることが重要だ。(北)

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