日本代表がベスト8をかけたクロアチア戦を控える、サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会。2大会連続のベスト16に導いたスペイン戦での田中碧選手のゴールは日本中を熱狂させたが、その直前の三笘薫選手のパスを巡っては、触れる直前にボールがゴールラインの外に出たかどうか、サッカーファンをやきもきさせた。最終的にゴールラインは割っていないとの判定でゴールが認められたが、この判断を助けたのはあのソニーグループだった。

スペイン戦での田中選手の逆転ゴールを生んだ三笘選手のラストパスの瞬間。この時にボールがゴールラインを割っていたかどうか、審判の肉眼だけでははっきりと判断しにくかったことだろう(写真:AP/アフロ)
スペイン戦での田中選手の逆転ゴールを生んだ三笘選手のラストパスの瞬間。この時にボールがゴールラインを割っていたかどうか、審判の肉眼だけでははっきりと判断しにくかったことだろう(写真:AP/アフロ)

 1966年夏、W杯の開催地となっていた英国は熱狂のただ中にいた。開催国としてイングランドは快進撃を続け、サッカーの「聖地」、ロンドンのウェンブリー競技場を舞台とした決勝で“皇帝”ベッケンバウアー擁する西ドイツを迎え撃つ。互いに2ゴールを決め、延長にもつれ込んだ同カード。試合を決めたのはチーム1点目を決めていたイングランドのジェフ・ハーストだった。右サイドからの折り返しをゴール前で受けたエースは右足を振り抜き、貴重な決勝ゴールをたたき出す。ハーストは終了間際にもゴールネットを揺らし、1試合3得点を記録。サッカーの「母国」ともされるイングランドを初めての、そして現在に至るまで唯一のW杯優勝に導いた。

 もっとも、イングランドの3点目は「いわく付き」だ。ハーストの鋭いシュートはクロスバーの下側をたたき、ほぼ真下にバウンドしている。西ドイツの選手はボールをすぐにヘディングでピッチ外にはじき出したが、審判はその前にボールがゴールラインを越えていたと判定し、得点を認めた。ただ、当時の映像を見るとクロスバーに当たったボールはゴールライン上でバウンドしているようにも見える。サッカーのルールでは、ボールがゴールラインを完全に越えない限り、得点は認められない。西ドイツ側は猛抗議するも、判定が覆ることはなかった。試合後はゴールだったかどうかの大論争が巻き起こり、現在でもイングランドとドイツの試合は「因縁の戦い」と位置づけられることが多い。

 あれから56年。「ボールはイン、ドイツはアウト」。こんな見出しで英タイムズ紙が伝えたのは熱狂が続くサッカーW杯カタール大会の1次リーグ最終戦、日本と強豪国のスペインとの戦いだ。

1966年のサッカーW杯決勝でイングランドのハーストのシュートはクロスバー下部を直撃し、ほぼ真下に落下。ゴール判定となりイングランドを優勝に導いたが、いまだにそのジャッジが正しかったのかは論争の種になっている(写真:L'EQUIPE/アフロ)
1966年のサッカーW杯決勝でイングランドのハーストのシュートはクロスバー下部を直撃し、ほぼ真下に落下。ゴール判定となりイングランドを優勝に導いたが、いまだにそのジャッジが正しかったのかは論争の種になっている(写真:L'EQUIPE/アフロ)

 ペナルティーエリア内でパスを受けた堂安律選手がゴール前へ折り返すもシュートには至らない。ボールはそのままゴールラインを割っていくかと思いきや、逆サイドに走り込んでいた三笘選手がラインギリギリでもう一度折り返し、中央に詰めていた田中選手がスペインゴールに押し込む――。日本時間の12月2日未明にキックオフされた試合は前半に先制された日本が後半開始直後、堂安選手の左足で同点に追いつくとその後すぐに田中選手のゴールで逆転し、そのまま勝利した。日本をベスト16に導き、強豪のドイツを敗退に追い込んだ日本にとって2点目のゴール。ただテレビ画面で見ると三笘選手がラストパスを出す直前にボールがゴールラインを割ったかのようにも見えた。

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