サイエンス

物質と対の性質を持つ「反物質」が重力に従って落ちることがCERNの実験で判明して反重力が否定される


ある物質と質量やスピンが同じにもかかわらず電気的な性質が対になっている反物質について、科学者の中には「重力と反対方向に動く反重力が働くのではないか」と考える人もいました。ところが、欧州原子核研究機構(CERN)の研究チームが実際に反物質を用いた実験を行った結果、反物質も重力に従って落ちることが初めて直接観測され、「反物質に反重力は働かない」ことが示されました。

Observation of the effect of gravity on the motion of antimatter | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06527-1


Antimatter embraces Earth, falling downward l | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1002671

Major CERN experiment proves antigravity doesn't exist — at least when it comes to antimatter | Live Science
https://www.livescience.com/physics-mathematics/gravity/major-cern-experiment-proves-antigravity-doesnt-exist-at-least-when-it-comes-to-antimatter

Mind-Blowing Experiment Reveals Antimatter Falls in Gravity : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/mind-blowing-experiment-reveals-antimatter-falls-in-gravity-just-like-matter

反物質とは、通常の物質と電気的に対になる性質を持った物質のことです。通常の物質を構成する電子は負の電荷を、陽子は正の電荷を持っているのに対し、反物質を構成する陽電子は正の電荷を、反陽子は負の電荷を持っています。

1928年は物理学者のポール・ディラックが反粒子(陽電子・反陽子)の存在を予言し、1932年には陽電子が、1955年には反陽子が発見されました。そして1995年、CERNなどの研究チームが陽電子と反陽子を組み合わせて反物質の一種である反水素を生成することに成功し、その後の2002年には反水素の量産にも成功しています。

反物質は通常の物質とぶつかると対消滅を起こし、それぞれの質量が失われる代わりにエネルギーが放出されます。ところが、宇宙の始まりであるビッグバンでは物質と反物質が同じだけ生成されたと考えられており、それにもかかわらず現代の宇宙はなぜか反物質だけが一方的に消滅し、物質が宇宙のほとんどを構成するという非対称性が生まれています。

この矛盾を解決する可能性がある理論として、一部の科学者は「反物質には反重力が働いており、これによって初期宇宙で物質と反物質が分断され、現在の宇宙の非対称性が生まれた」という説を提唱しています。多くの科学者はこの説に懐疑的ですが、これまで反物質に対する重力の作用を直接観測する実験は行われていなかったため、この説が間違いだと確信を持つことは難しかったそうです。


そこでCERNやカリフォルニア大学などの国際的研究チームは、反物質である反水素を円筒形の磁気チャンバーに閉じ込め、重力の影響を受けるのかどうかを調べる実験を行いました。実験がどのようなものだったのかは、以下の動画を見るとよくわかります。

ALPHAg animation - YouTube


反水素は反陽子が陽電子を捕捉することで生成される反物質です。


国際的な「Antihydrogen Laser Physics Apparatus(反水素レーザー物理実験装置:ALPHA)」コラボレーション研究チームは、生成した約100個もの反水素を長さ約25cmの磁気ボトルに閉じ込めました。磁気ボトルに閉じ込められる反水素の温度は絶対零度に近い0.5ケルビンで、この状態でも反水素は毎秒約100mの速度で移動し、ボトルの端にある磁場で毎秒数百回も跳ね返っているとのこと。


実験ではこの磁気ボトルの磁場を徐々に弱めることで、反水素を少しずつボトルの外に逃がし、ボトルの上と下のどちらにより多く反水素が飛んでいったのかを検出しました。ボトルが垂直である場合、中の反水素が通常の物質と同じように重力の影響を受けているのであれば、上方向より多くの反水素が下方向に逃げ出すという仕組みです。論文の共著者でカリフォルニア大学バークレー校の物理学者であるジョエル・ファヤンス教授は、この実験はほとんど同じ重さの物体を天びんにかけるようなものであり、反物質に働くほんのわずかな重力を観測できるようにするものだと説明しています。


実験を繰り返した結果、反水素の約80%が下向きに逃げ出すことが観測されました。これにより、反水素には重力が作用しており、反重力は働いていないことが示されました。


今回の実験結果は、あくまで「反物質には重力が働く」という主流の説を確認するものです。論文の共著者でカリフォルニア大学バークレー校のプラズマ物理学者であるジョナサン・ウルテル教授は、「物理学部の廊下を歩いて物理学者に尋ねれば、誰もが皆『この結果は少しも驚きではない』と答えるでしょう。それが現実です。しかし、彼らのほとんどはそれに確信が持てなかったので、実験が行われる必要があったと言うでしょう」とコメントしました。

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in サイエンス,   動画, Posted by log1h_ik

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