ラムサール条約登録湿地の鶴岡市の大山下池で、市自然学習交流館「ほとりあ」は池底の泥の中で数十年間、眠っていたジュンサイの種子(埋土種子)を発芽させることに成功した。約60年前に池の水質が変化した影響で絶滅したとされていた。学芸員の上村剛司さん(41)は「発芽、成長に適した日光や水環境がうまく整った。運も味方した」と分析している。
下池では1953(昭和28)年ごろまで江戸時代から続く地元生産団体がジュンサイを収穫していたが、その後、池底の泥に窒素やリンが増えるなどして水質が変化したことが一因となり絶滅したとみられていた。
ほとりあは、埋土種子で浮葉植物などの再生を図ろうと、2021年6月に重機で池底の泥を回収し、丸型水槽に入れて観測していた。ほとりあによると、翌年7月に種子から発芽し、水槽内に3株が現れた。今年6月には初めて開花し、種子ができたという。県内で栽培されているジュンサイと同様に粘着質の若芽も見られた。
収穫できるほどの復活に対して夢が膨らむが、現実的には難しいという。ジュンサイ栽培に適した水質に戻すことは困難な上、茎を切ってしまう外来生物のアメリカザリガニが繁殖していることが理由という。
上村さんは「埋土種子は昔の環境を教えてくれるタイムカプセルのようなもの。ジュンサイを人と湿地との関わりを考える切り口にし、今後は子どもたちの自然学習の教材として活用していきたい」と話している。
下池は同市西部にあり、高館山と八森山などに囲まれ面積は24ヘクタール。大山上池とともに08年、国際的に重要な湿地を保全するラムサール条約に本県で初めて登録された。
◆埋土種子 落ち葉の下や土、池などの泥の中にとどまり、伐採や洪水などのきっかけで発芽する種子。発芽に適さない環境では機会を待ち、長い間休眠する。大山上池・下池にはかつて生育していた多くの貴重な埋土種子があると考えられている。