本当に今必要?「能登にブルーインパルス」案 断水と停電が地震から2カ月たっても解消されないのに…

2024年3月2日 12時00分
 能登半島地震の被災地上空で今月、航空自衛隊の「ブルーインパルス」による飛行が検討されている。被災者の激励が目的というが、北陸新幹線の延伸開業を祝い、石川、福井両県を飛行する計画が元々あって、それに追加される形だ。震災発生から2カ月。なお日常生活がままならない被災地にいま求められるものとは。(山田雄之)

◆北陸新幹線延伸の「ついで」

能登半島地震の被災地を飛行する方向で調整されているブルーインパルス=岐阜県各務原市の航空自衛隊岐阜基地で

 2月27日の衆院予算委員会分科会。石川1区選出の小森卓郎氏(自民)が「現在も厳しい生活を送っている皆さんが復旧復興へと気持ちを奮い立たせることができるよう、飛行してもらえないか」と被災地上空でのブルーインパルスの飛行を提案した。木原稔防衛相は「被災者を元気づける方法として大変意義がある。能登半島の人々を激励したい思いは私も同じ」と応じ、実現に向けて調整する意向を示した。
 ブルーインパルスの正式名称は、宮城県松島基地の第4航空団に所属する「第11飛行隊」。空自の存在を多くの人々に知ってもらう目的で、各基地などの行事で飛行を披露する専門チームだ。青と白にカラーリングされた複数機で一糸乱れぬフォーメーションやアクロバット飛行を展開する。
 3月16日は北陸新幹線の金沢—敦賀間の延伸開業日。その開業を祝うとして石川、福井両県での飛行実施が昨年12月に発表された。新たに開業する6駅の上空飛行が予定されているが、被災地にも足を延ばす形となりそうだ。

◆まだ「日常生活がままならない」

自衛隊の入浴支援=2月11日、石川県珠洲市で

 交流サイト(SNS)では歓迎の声も上がるが、地震発生後から3回被災地に入り、取材してきたフリージャーナリストの仁尾淳史氏は「ブルーインパルスによる飛行は、時期尚早ではないか」と首をひねる。
 先月22〜26日に被災地入りした際、輪島朝市があった現場を訪れた。地震による火災でお土産店の数々が焼け焦げ、なお残るがれきの前に無造作に漆器が集められていたという。避難所となった小学校の体育館には90人が身を寄せ、中年の男性から「断水で洗濯できずバスタオルや下着が足りない。日常生活がままならない」との訴えを聞いた。

 仁尾氏は「生活物資が行き渡らず混乱する被災地に、ブルーインパルスは元気を与えられるだろうか。断水や停電の解消などに尽力すべきだと思う」と話す。

◆「病院上空で爆音、迷惑」コロナ禍で賛否

 2011年の東日本大震災で松島基地は被災したが、ブルーインパルスは9機のうち8機が基地外にいて難を逃れた。2年ぶりの帰還の際には安倍晋三首相(当時)に「雄姿は希望の象徴」と称された。20年のコロナ禍では医療従事者に感謝を示すとして東京都心を飛んだが、好意的な声の一方で「病院上空を爆音で飛行するのは迷惑」などと賛否を呼んだこともある。
 21年の東京パラリンピック開会式当日の低空飛行の際は、噴射したカラースモークの染料が埼玉県入間基地周辺の約1200台の車に付着したとして問い合わせが相次いだ。

◆「国民感情からずれている」

 被災地では、陸上自衛隊による入浴や炊事の支援活動も継続している。今求められているのは、ブルーインパルスだろうか。空自の担当者は「こちら特報部」に対し「いろいろなご意見があることは承知していますが、現時点で(飛行は)調整段階です」と話した。
 軍事史に詳しい山口大の纐纈厚名誉教授(政治学)は「被災地の復旧復興がままならない中で、ブルーインパルスの話が唐突に出てきたことに驚いている」と受け止める。ブルーインパルスは、その華やかなパフォーマンスで、日本人の軍事アレルギーを解消してきた側面があるとする。「政治利用にも見え、被災地の深刻な状況を思う国民感情からは大きくずれている」

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