パフォーマンスマーケティングにおけるデジタル広告の価値とは、データを活⽤しその効果をロジカルに導き出せることにある。現在、Cookie規制やプライバシー保護規制など、デジタル広告を取り巻く環境が変化するなか、投下した広告 […]
パフォーマンスマーケティングにおけるデジタル広告の価値とは、データを活⽤しその効果をロジカルに導き出せることにある。現在、Cookie規制やプライバシー保護規制など、デジタル広告を取り巻く環境が変化するなか、投下した広告予算に対して広告効果が出しづらく、ROIを伸ばすことも難しくなっている。
そのなかにおいて、KIYONOはマーケティングコンサルファーム×SIer×広告代理店の「ハイブリッド組織」によってテックとマーケを融合させ、Cookieレス問題やデジタルマーケティングのコンバージョン最適化にとどまらず、ROI最大化に取り組んでいる。今回、KIYONO代表の清野賢一氏に、Cookieレス時代、デジタル広告の競争激化時代に勝ち残るための本質的な課題と対策、考え方について聞いた。
ROI最大化から逆算して考える
――デジタル広告を取り巻く環境が変化するなか、デジタル広告の「あるべき姿」をどのように捉えていますか?
マーケティング全体の広告宣伝活動の中でデジタル広告の利点は、ターゲティングの精度が高い、測定が容易、運用可能である、この3点だと捉えています。
一方で、それらはデジタルだけではなく、オフラインでも同じように実現されるべきだと考えています。これは、消費者目線に立って考えれば、当たり前のことです。私たちはその状況を踏まえ、認知から興味関心、アクションまでを実現するための、広告予算の最適な配分方法を見つけることで、デジタル広告全般に関係する大きな課題を解決したいと思っています。
――その際に問題になってくることは何ですか?
メディアごとにコンバージョンが異なることです。テレビCMとデジタル広告では、それぞれコンバージョンとされる指標は異なります。だからこそ、テレビCMだけ、デジタル広告だけとバラバラの指標で広告効果を語るのではなく、それらを統合し、ROIで考えていくべきではないかというのが、私たちの課題提起です。
清野 賢一/2005年にオプトに入社し、2008年には同社のテクノロジー部門長に就任。2011年CCCとオプトが出資したデータマーケティング会社PlatformID取締役に就任、その後代表取締役に。2017年にKIYONOを設立し、2019年にOracleの最優秀パートナー獲得。2020年に住友商事100%子会社のSCデジタルと資本業務提携をする。2021年には日本Sansanとの提携や、Google Cloud Platform、Salesforce、Lookerとのパートナー契約など、大手企業とのアライアンスを進める。2024年には大日本印刷と資本業務提携。コンサルファーム×SIer×広告代理店のハイブリッド組織を構築し、企業のデジタルマーケティング活動を支援している。
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――広告の効果がメディアごとにバラバラに語られるのはなぜなのでしょうか?
縦割り組織で、メディアごとに予算を立てていることは大きな要因です。しかしそれ以上に重要な問題なのは、もはやオンライン/オフラインの垣根がなくなりつつある世界であるにもかかわらず、今なおそれぞれが別の世界であることを前提にマーケティングを行っている会社がとても多いということです。
テレビCMの視聴、スマホでの広告接触、PCでの広告接触などは本来、オンライン/オフライン問わず統合して測定した方が良く、それがあるべき姿だと思います。そうすれば、どれくらいの予算をどのメディアに投下すればマーケティング目標が達成できるか逆算でき、予算のアロケーションがスムーズに行えるようになります。また、オンラインデータであるコンバージョンというKPIだけではなく、最終的にどれくらいの売上につながったのかというKGIも把握できた方が良いに決まっています。
サードパーティCookie廃止によって起こりうる危機
――今年予定されているサードパーティCookie廃止によって、マーケターにはどのような問題が起こることが予想されるでしょうか?
そもそもすでに、各ブラウザや法律などでサードパーティCookieへの規制が進んでいます。さらに今年2024年に、Google ChromeですべてのユーザーのサードパーティCookieが段階的に廃止されるという事象は、マーケターや広告担当者に、影響を及ぼす恐れがあります。すでに、広告主にとっては測定上の効果と実際の効果が損なわれる、という悪循環が起こり始めています。そもそも、デジタル広告の利点は、ターゲティングの精度が高いこと、測定が容易であること、運用可能であること、この3点であるとお伝えしましたが、それらがどうやらこれまで通りにはできなくなる、というのは深刻な問題であると考えています。
まず、これまでのようなターゲティングができなくなる理由は、ユーザーのサイト訪問の情報を従来のように追えなくなるためです。ユーザーの属性情報や行動履歴情報などを組み合わせたデータを利用して広告を配信するオーディエンスターゲティングの実施も難しくなる可能性があります。もっとも成果に影響が出るのがリターゲティング広告の配信量の減少だと思います。
また、広告配信においては、クリック後にCookieがブラウザに格納されるわけですが、Cookieレス化により、ブラウザに格納されたCookieの保存期間が短くなります。そのため保存期間を過ぎた後のコンバージョンが計測できず、広告の効果が測れなくなってしまいます。その結果、運用型広告で機械学習が適切に回せなくなることにも注意が必要です。運用型広告では、過去のコンバージョンデータを元に機械学習を回し、運用効率を改善していきます。ただ、コンバージョン計測が不完全になると、学習するデータ自体が学習する意味のないものになってしまうのです。
Cookie規制による負のサイクル。計測精度が下がると負の連鎖で広告効果の悪化の連鎖が始まる
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――Cookie廃止によって発生する問題について、対策はあるのでしょうか?
もちろん対策はあります。対策は3つに分けて整理しています。私たちは、「計測」「成果の可視化」「集客施策」の3つの軸による処方箋が必要だと考えています。
1つ目の「計測」の処方箋は、コンバージョンAPI(CAPI)です。CAPIの対応により、メタ(Meta)では平均約10%、Googleでは約37%のCPAが改善したという発表があります。もちろん補足できるコンバージョンはすべてではなく一部です。それでもGoogleで37%の改善ができるということは、それだけコンバージョン計測が適切に計測されていないということがわかります。必要なことは、クッキーの代わりにサーバーを立てて暗号化された個人情報を入力フォームの情報と媒体の情報で紐づけて行うことです。言うは易しですが、マーケティングとテックの双方の知識とケイパビリティが必要なタスクです。ほかにもGA4を活用した手法などをご支援しています。
CAPI(コンバージョンAPI)で使用される識別子のイメージ。Cookieの代わりに暗号化された個人情報を照合する
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2つ目は「成果の可視化」という処方箋です。こちらは先ほども少し触れましたが、本来中間KPIであるコンバージョンや1回のROASではなく、最終契約や売上、LTVを加味したROIを、広告効果として可視化するということです。これにより、中間KPIであるコンバージョンの数値の信ぴょう性が低いとしても、最終KGIへの効果は正しく確認できます。この施策はそもそもクッキー規制関係なく、本来実施すべき内容でもあります。
ROI可視化をベースとした分析イメージ。ROIで可視化すると、CPA運用とは広告成果の評価が逆転することも少なくない
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中間KPIだけでなく、最終KGIを可視化することで初めて見えてくるデータがあります。一例を紹介します。
- CPAや1回のROASでみると、検索広告のテールワード経由の効率が良い。そのため、検索広告のテールワードへ予算の比重を多く割いて配信する。CPAや1回のROASでみると効率の良いテールワードだが、LTVで見ると実は継続率が低く、ほかの施策より効率が悪かった。テールワードの検索ユーザーなので比較検討が多く、ロイヤル化しづらいと想定。
- BIGワードよりもテールワードの方がCPAが安くとれる。やはり具体的に検討している層の方が良いお客様である。BIGワード経由のお客様は客単価が高く、アップセルがしやすい、テールワード経由は特定の商品しか購入しない、そのため契約ベースでみるとBIGワードの方がROIが高いということがわかった。
やはりCVはあくまでも中間指標なのです。クリック単価が良いからCPAが良いわけではないことと同様で、CPAで見て、ROIで見ないということは非常にもったいないことなのです。
広告管理画面やアクセス解析データと顧客側のデータベースが繋がっていないことで、この施策はできていない、そもそも発想がないという事業者さんも多いですが、Google Cloudのビッグクエリを活用するなどして技術的に解決することが可能なのです。ちなみに、広告に限らず、SEOやSNS、メールなどの効果の可視化も可能です。
ここまではある意味、計測や評価の基盤の構築です。3つ目は具体的な集客施策の処方箋です。1stパーティデータ(=自社の顧客データ)を活用した広告配信です。
1stパーティデータを活用した広告のイメージ図。顧客データを媒体保有のデータと照合後し、オーディエンスリストが作成される。高精度のオーディエンスにアプローチが可能
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売上、契約、商談、商品などの自社の保有する顧客に関するデータと媒体保有のデータを照合し、リストを作成します。新規であればそのリストに類似したユーザーへ配信したり、既存顧客であればそのリストのユーザーに配信するなどの手法が実現可能です。結論からお伝えすると、クッキーと比較して高精度なターゲティング手法であり、当社ではリターゲティング広告よりも質量ともに成果が良い事例もあります。今後はこの1stパーティデータを活用した広告配信手法は運用型広告の軸になると思います。1stパーティデータを戦略的に取得しながらセグメントを構築しマネジメントする、という考え方が必要になるでしょう。
1stパーティデータのセグメントイメージ例。質や母数を考慮しながら1stパーティデータ自体を収集しマネジメントしていく視点が求められる
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このアクションもプライバシーポリシーの問題や、個人情報の代理店との受け渡し問題、SQLを使ったリスト作成など、実施における課題はありますが、このあたりの解決策を踏まえてご支援しています。
――Cookieレスへの対策について、必要な処方箋は何かが理解できたと思います。その先にあるデジタルマーケティング担当者が意識すべきポイントは何でしょうか?
ここまでお話してきたのは、あくまで新規集客でウェブ広告に関わるお話が中心です。上述の通り、クッキーレスに対する解決策として、結果的に顧客の1ID化を進める動きがあります。確かにそうした点からも1ID化は重要ではあるのですが、私たちはそうした目先のCookieレスの問題解決の視点からだけで1ID化の推進を提唱しているわけではない、ということです。
先にお話しした通り、オンライン/オフライン施策をそれぞれバラバラに管理していることで発生している無駄をなくし、マーケティング施策全体のROIを向上させるために1ID化を推進するべきだと考えています。これは目新しい話ではありません。私がこの仕事を始めた20年ほど前から、多くの人が何度も提起している問題です。
――1ID化を進めるキーとなるのは、CDPの導入でしょうか?
基本的にはそうです。CDPの機能をざっくり説明すると、クラウド上のサーバーに複数のテーブルを置いて、APIでプラットフォームに接続し、一意の顧客ID(UID)をキーにして作ったセグメントに対して広告を出稿するなどの施策を実施していく、というものです。こうした機能は、かつてのデータウェアハウスと同じとも言えます。基本的な機能は、ベンダーの高価なCDPを導入しなくても、Google Cloud、AWS、Microsoft Azureを使えばデータ統合ができますし、KIYONOもMAGNET(マグネット)というGoogle CloudベースのCDPを提供しています(※KIYONOではMAGNETに限らず各種CDPの支援実績があり対応可能)。
KIYONOの自社ソリューションMAGNETの全体像。アウトプットをよく使われる広告やLINEに絞ったことで、低価格で成果の出しやすいCDPを実現している
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重要なことは、きちんと自社で1stパーティデータを保有して、顧客に一意のIDを振り、すべての部署でデータを一元化して管理する、ということ。それこそが1ID化であり、CDPやMAといったツールの検討は、この次の段階の話です。
――ツールありきではなく、組織としての方針、運用がすごく大事だということですね。
その通りです。まずは、「1ID化する」という意思決定があるかどうか。その次に、それらを運用できるような組織や考え方ができているか。ここまで踏まえて考えれば、どのようなツールが必要かの判断も明確に出てくるはずです。
たとえば、「我が社はExcelで顧客管理できている。顧客は高年齢層が中心なので、施策はDMだけでいい」という企業ならばExcelでもいいと思います。また、「うちの施策はアプリプッシュ中心。ただ、アプリプッシュに反応しない人に向けてLINEメッセージを打ちたい」などのように、AND条件が重なった施策を実施したい企業ならば、パッケージでCDPを導入して、AND条件に対応したセグメントを作る方法がいいでしょう。このように、意思決定が明確であれば、おのずとツールは選べるようになります。
――1ID化とデータ統合は、ミニマムでスモールスタートした方がいいのでしょうか?
この質問は非常によくいただきますし、お答えするのが難しい問いでもあるのですが、個人的な印象を言うと、「スモールスタートで」と口にされる企業は、1ID化の本質をご理解いただけていないことが多い気がします。1ID化やデータ統合の重要性を理解している企業の多くは、「CDPを導入したから来期はこれぐらい売上が上がるだろう」といった、短期的なROIで物事を見ていません。マーケティング活動の主軸たるCDP導入は、短期的な施策コストから検討するものではなく、中長期的な目的をベースに検討するものだからです。
一方で、CDPを導入するという意思決定をしている企業は、CDP導入ありきであることが多い。トップダウンで1ID化、データ統合を命じられた場合、導入自体が目的となり、せっかく導入したCDPを使いこなせていないケースがよく見られます。
意外に多い? データの利活用ができていない3つの事例
――CDPを入れたけども使えていない企業は、どうすれば良いのでしょうか?
使えていない状況を大別すると、①使える状態になっていないケース、②構築が間違っているケース、③オペレーションが間に合ってないケース、この3つに分類できます。
①のケースは、トップダウンでCDPを導入した場合によく見られます。具体的には、各種データがテーブルに入っていて、データの名寄せができていても、それだけで終わっているという状況です。また、テーブルが適切に連携されていなかったり、逆に、プライバシーポリシー的に連携してはダメなものを連携していたりということもあります。こうした状況は、導入を行ったSIerへの指示が曖昧で、用途を明確に規定していないときに起こります。これをリカバーするには、改めて詳細な指示を出し直すか、代理店もしくはマーケティング系のパートナーを新たに入れる必要があります。
②のケースも①と同じで、要件定義書の作成が甘いがゆえに起こります。やはりこの場合も、代理店もしくはマーケティング系のパートナーに依頼すべきです。
③のケースは人材不足が原因です。要件定義も、構築ミスもなく、問題なくCDPを導入できたものの、実際に運用する人材が社内にいないという状況です。テレビ広告、デジタル広告、デジタル広告制作、データベースに関する理解があり、既存部門と調整しながら運用ができる人材というのは、昨今、なかなかいません。トップダウンで統合管理基盤を運用する部門を作って、その部門が横串で運用するか、もしくは、関連する各部門からメンバーを集めてタスクフォース的に行う必要があります。
一般に、問題が発生した段階でご相談いただいても、対応することが難しいので、弊社の場合は、設計・構築の段階から担当し、SIerや代理店と伴走していきます。運用段階に入った際には、マーケターとオペレーターを入れ、スキルトランスファーによってクライアント企業が自走化するところまで行います。
上記はよく見られる構造的問題。クライアントからの依頼をゴールから逆算してワンストップで提供できるプレイヤーが不足している。KIYONOは戦略設計→システム構築→運用を一気通貫で支援している
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新しい形のマーケティングエージェンシーとして
――今後、さらに注力していきたい取り組みはありますか?
これまでお話ししてきた通り、クライアント企業のIDを統合し、共通のデータベース化することで、予算のアロケーションができる基盤作成を推進することが第一ですが、それと同時に、「見える化」にも力を入れていきたいと思っています。具体的には、データの可視化と、効果の可視化です。
見える化にはさまざまなメリットがあります。特に大きいのは、現状の問題や課題への理解の解像度が上がることです。「ECと店舗でカニバリゼーションを起こしています」と説明するだけでは、問題の本質を理解できる社員は少ないでしょうが、関連データをグラフにしてビジュアルと数値でプレゼンすれば、誰もがその問題をすぐに理解できるはずです。これに関しては、Cookieレスの処方箋のお話でも多少触れましたが、弊社では「広告効果ちゃんとみえ〜る」というデジタル広告費のROIを可視化、最適化するBIソリューションを提供しています。こうしたツールなども使いながら、クライアント企業においてデータと効果の「見える化」をサポートしていきたいと思っています。
また今後は、事業支援も強化していく予定です。KIYONOは、広告代理店とSIerのケイパビリティを兼ね備えた、新しい形のマーケティング支援エージェンシーであると自らを定義しています。将来的には、マーケティング支援からさらに一歩進んで、企業の事業支援まで行っていきたいと考えています。4、5年後には、フィービジネスや請負契約だけではなく、レベニューシェアでも契約できるビジネスを軌道に乗せたいと思っています。
Sponsored by KIYONO
Written by DIGIDAY Brand STUDIO(内藤貴志)
Photo by 渡部幸和