家庭用のエレクトロポレーションを目指して、クリニック級〝浸透〟を科学する美肌機器の匠。

立田茂 立田茂

さまざまなスキンケアコスメに配合されている、魅力的な「美容成分」。その効果を実感するには、自分に合うものを選ぶことはもちろん、成分をしっかり角質層へ浸透させることも大切です。スキンケアの効率を上げるために、パナソニックの高い技術力を活かせないかと考えた立田 茂は、美容クリニックでも使われている「エレクトロポレーション」という技術に着目。この技術を参考に、安全かつ高い効果を目指して、家庭用に応用すべく研究を重ねています。

生活者のQOLが上がる美容機器という視点で研究

パナソニックに入社して、もう30年弱たちます。そのうち半分はビューティのジャンルで研究を担当してきました。美容機器そのものは〝生活必需品〟というわけではないので、それがあることでQOLが上がるような商品がつくれればいいなと考えています。

写真:パソコンを操作しながら、金子翔太さんと白衣を着た女性が話している様子

こうした考えのもと、研究を進めてきたのが、スキンケア化粧品に含まれる成分の「経皮浸透技術」という分野です。

スキンケアは大多数の人にとって日々のルーティンであり、その効果をサポートするような美容機器があれば、お手入れの満足度が上がり、化粧品の効果もより活かせるのではと考えました。

「エレクトロポレーション」と「イオン導入」

美容機器の研究において、美容クリニックで使われている技術にヒントを得ることもあります。クリニックの技術やマシンには、確かなエビデンスがあるためです。今注力している技術も、美容クリニックの「エレクトロポレーション」という技術がベースになっています。

エレクトロポレーションは、日本語だと電気穿孔法といいます。肌に短いパルス電圧による電界を与えることで、バリア機能である角層のラメラ構造に、一時的に電気穿孔と呼ばれる美容成分の通り道を形成させます。
ただし、通り道の形成には、高電界の発生と時間が重要で、高電圧、狭い電極構造、連続した作用時間などがないと、美容成分の十分な通り道が形成されないことが分かってきました。また、形成された通り道は、個人差はありますが、5分程度で元に戻るとされています。

この数分の間に、浸透技術としてはよく知られている「イオン導入」を行い、そしてエレクトロポレーションで角質層に空いたスペースに、イオンの力で美容成分を押し込む。この掛け合せを美容機器に取り入れられたら、クリニックの施術のような浸透倍率で美容成分を効率よく角質層の奥まで浸透させ、クリニックに通わなくても、高い美肌効果を得ることができるのではと考えました。

写真:女性が顔を機器に向けていて、立田茂さんが、その女性の顔が映し出されたパソコンの画面を見ている様子

浸透させようとしているのは、ヒアルロン酸やコラーゲン、プラセンタ成分である成長因子など、いわゆる〝高分子〟と呼ばれる美容成分です。分子が小さいものは、手塗りでも浸透していくので浸透技術を使っても大差がないのですが、高分子の美容成分は、手で塗布しても角質層の中までは浸透せず、表面に残っています。もちろん表面にあっても保湿効果など限られ役割は果たしていますが、角質層の中まで入れ込むことで、より高い保湿などの肌効果を得られることになります。

電流を通さず電圧を上げる

実は、一般的なエレクトロポレーションにはひとつの難点がありました。それは、通電によるピリピリとした電気刺激です。エレクトロポレーションによって角質層にできる美容成分の通り道は、パワーを上げることで増えていくのですが、同時に刺激も増してしまいます。

しかし、実際に通り道を形成するのは、電流ではなく電圧による電界です。私たちはこのことを突き止め、痛みの原因である電流を絶縁体でカットしながら、高電圧・高電界を肌に作用させることに成功しました。これにより、美容クリニック級のハイパワーと肌への安全性を両立できる技術を確立できると考えています。

写真:パソコンの画面を見ている立田茂さんと女性

さらに、高電界の方向性がエレクトロポレーションの通り道の形成に効果的であることを突き止め、一般的な円環状や櫛歯形状ではない〝積層型〟という新しい立体電極構造を開発し、特許出願しています。

多方面にアンテナを張り、美容機器の〝種〟を探す

高分子の美容成分には、さまざまな種類とサイズのものがあります。今後はさらなるハイパワーと安全性を両立させ、さらに高分子なヒアルロン酸やコラーゲンなども安全に浸透させるような技術が開発できたらと考えています。

経皮浸透技術は、一般的にまだまだわかっていないことも多く、研究が進められている分野です。美容以外の医療分野でも使われている技術なので、それらを参考にしながら仮説を立て、検証していく作業を行なっています。社外の経皮吸収分野専門家ともコミュニケーションを取り、勉強させていただくことで、知識の幅を広げています。それらをベースに自由な発想でいろいろと妄想しながら、面白いことを提案できたらと日々考えています。

プロフィール

立田茂(たつたしげる)

1970年生まれ。高校時代は担任の先生に憧れて教育関係の仕事、大学時代は地球環境に関わる仕事をしようと思っていた。新卒で松下電工(現パナソニック)に入社し、さまざまな分野で研究開発の仕事を経験したのち、ビューティのジャンルへ。新商品のための調査や研究、肌効果や安全性の検証などを担当。

写真:立田茂さん
  • インタビュー内容は2023年9月現在のものです
  • 「Panasonic Beauty Laboratory」に掲載の情報は、当社の研究や開発の取組み内容です