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国産初の新型コロナウイルスワクチンを目指して治験を進めてきた医療新興企業アンジェス(大阪府茨木市)が先月、DNAワクチンの開発を中止すると発表した。国から約75億円もの巨額支援を受け、大阪府の吉村洋文知事も「大阪発のワクチン」と期待を寄せていたが、実用化には至らなかった。失敗の要因と今後の教訓を探った。(辻田秀樹、松田俊輔)
「緊急対策」
同社がワクチン開発を始めると発表したのは2020年3月。第1波ピークの約1か月前で、社会に不安が広がりつつある頃だった。
創業者で同社メディカルアドバイザーの森下竜一・大阪大寄付講座教授(60)は記者会見で「DNAワクチンなら短期間に大量生産できる。緊急対策に適している」と自信を見せた。前年に条件付きで厚生労働省の承認を受けた脚の病気に対する遺伝子治療薬の技術を生かせると考えたからだ。
発表の約4か月後、大阪市立大病院(現・大阪公立大病院)で国内初の治験に着手した。だが、約1年半後の21年11月、「想定していた効果が得られなかった」と公表。560人のデータを分析した結果、米ファイザー製のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンなどと比べて効果が低かったという。投与量を増やしても十分な効果を確認できず、先月7日、中止の発表を余儀なくされた。
三つの要因
なぜ失敗したのか。専門家は三つの要因を挙げる。
一つめは、DNAワクチンという手法だ。超低温管理が必要なmRNAワクチンに比べて管理しやすく、効果も長期に及ぶとされる。ただし免疫が付きにくく、欧米の製薬会社も開発に苦戦している。
一方、mRNAワクチンにも体内で分解されやすく、強い炎症を引き起こす欠点があったが、課題を解消する画期的な手法が考案され、実用化に至った。開発した研究者はノーベル賞の有力候補になっている。
中山哲夫・北里大特任教授(臨床ウイルス学)は「成分が必要な場所に届きにくいDNAワクチンの課題を克服できず、行き詰まったのではないか」とみる。
二つめは、外国産のmRNAワクチンなどが速やかに実用化したことだ。多くの人が接種すれば、新たなワクチンは効果を検証しにくくなる。
三つめは、開発を新興企業が行うことの難しさだ。
治験に協力した松本哲哉・国際医療福祉大教授(感染症学)は「ワクチン開発には企業の体力が必要だ。人手が少ない新興企業には壁が高かったのかもしれない」と指摘。一方で、「失敗したから終わり、ではいけない。次のパンデミック(世界的流行)に備え、国は細くても長い支援を続けることが重要だ」と話す。
アンジェスは、変異株対応の新たなDNAワクチンの開発を目指すとしているが、困難な道のりが予想される。一方、これまでに交付された約75億円の補助金について、厚労省は「適切に使用されていれば返還の必要はない」としている。
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