(社説)デジ庁に指導 個人情報の重み自覚を

社説

[PR]

 マイナンバー制度を担う組織としての責任を自覚しているのか。膨大な個人情報を扱う能力があるのか。根本的な疑念すら持たれかねない事態だ。デジタル庁は、再発防止と信頼回復に全力を挙げなければならない。

 預貯金口座を別人の番号にひもづける誤りが多発した問題で、デジ庁が、自ら所管するマイナンバー法に基づく行政指導個人情報保護委員会(個情委)から受けた。立ち入り検査で本人確認の不備や法令に反する対応が見つかり、是正状況を報告するよう求められている。

 調査結果で驚くのは、事態の把握や組織的対応にあたってのデジ庁の鈍さだ。

 自治体から最初に誤登録の報告があったのは昨年7月だったが、情報は担当者と上司にとどまった。デジ庁のシステムを使う登録なのに、保有する個人情報の漏洩(ろうえい)との認識がなかったという。

 その後も複数の自治体で誤登録が起きたが、上層部への報告は今年4月、河野太郎デジタル相に届いたのは5月だった。その結果、公表やシステムの改修が遅れた。

 しかもデジ庁は「法律に基づく漏洩の報告対象には当たらない」と誤認し、指摘されるまで個情委に正式に報告しなかった。プライバシーを扱う意識の薄さや、法令の理解不足は深刻だ。

 デジ庁は、指摘を重く受け止め、組織運営の改善を急ぐ必要がある。個人情報保護の専門人材の登用や研修の強化、情報共有の徹底などを打ち出したが、かたちだけに終わってはならない。

 2年前に発足したデジ庁には民間出身の非常勤職員が多く、事案ごとにチームを組むといった特徴がある。機動性の一方で無責任さを広げた面はないか。検証すべきだ。

 河野氏の責任も重い。マイナンバー推進に前のめりになるあまり、現場の状況や個人情報保護への目配りがおろそかになっていなかったか、改めて省みてほしい。

 岸田首相が、河野氏に個情委の担当閣僚を兼ね続けさせているのも疑問だ。個情委は「全く独立して職権行使した」と説明しているが、個人情報の保護と活用を同一人物が担当する分かりにくさは否めない。

 マイナンバーをめぐっては今回の指導対象以外でも多くの分野でトラブルが生じ、総点検が進められている。個情委はこの際、厚生労働省など他の組織も調べ、課題を洗い出すべきだ。行政機関を監督し、個人情報の適切な取り扱いを徹底させる役割を果たしてほしい。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません