前節のザスパ群馬戦に快勝し、6位(前節終了時点)に浮上したレノファ山口FC。10試合を終えた段階でJ1昇格プレーオフ圏内に位置できているのは非常にポジティブな要素で、志垣レノファの快進撃にさらなる期待が懸かる。ただJ2はまだまだ混戦模様。一つの試合結果で大きく順位が上下するだけに、一喜一憂してはいられない。
今節も愚直にハードワークし、勝利を引き寄せたい。
志垣良監督が「J2は何が起きるか分からないリーグ」と話すように、リーグを主導するチームはころころと入れ替わる。その中を戦い抜く“秘策”というわけでもないが、今週のトレーニングで指揮官は長袖着用を命じた。気温が20度を超え、初夏を思わせる気候の中、選手はロングスリーブのウェアに袖を通し、志垣監督ももちろん長袖で指導。暑熱順化、平たく言えば暑さ慣れを図った。
「ゴールデンウィークくらいからもっと暑くなると思いますが、ベースにあるハードワーク、走るということのためには、暑さに慣れていかないといけない。そういうことをしっかりやっていかないと、実際の試合で動けないという状況にもなりかねないです」(志垣監督)
志垣監督が以前に指揮を執ったヴァンラーレ八戸やFC大阪でも行っていた手法で、13.板倉洸は「八戸は寒い地域だったので、暖かいところに行ったら動けないということがありました。そういうことがあったので、(長袖での練習は)しんどいですが、試合に勝つためには必要な準備でもあると思います」と話す。暑さへの順応は、90分を通してハードワークするには欠かせない準備だ。
今節は水戸ホーリーホックをホームに迎える。前線からハイプレスを仕掛けたり、素早い切り替えで攻守にしっかりと人数を掛けたりし、レノファと同様、チームとしてハードワークを徹底している。レノファが勝機をつかむには、まずは信条の総力&走力で相手に走り負けないことが重要になる。
細かな部分では、相手の攻め方に応じた柔軟な対応が求められる。前節の群馬戦では最も警戒すべきボランチを確実に封じ込めたものの、想定以上にシャドーの選手が起点になり、対応が少し遅れた。選手負傷で試合が止まったタイミングやハーフタイムでプレッシングを整理できたとはいえ、もう少し早い段階で修正をしていきたい。
水戸は前線に長身で得点力の高い寺沼星文(背番号45)を配置する。寺沼はボールが良く収まる選手で、レノファ守備陣はファーストボールへのチャレンジと、セカンドボールの回収にしっかりと意識を向ける必要がある。
しかし、寺沼以外にもボールを呼び込める安藤瑞季(同9)や質の高いチャンスを創出する黒川淳史(同96)などが揃う。レノファは前節の反省を生かし、相手が誰を使ってきているかを敏感に感じ取って、効果的にプレッシャーを与えていくようにしたい。
攻撃局面では相手のプレスをはがして前進する場面は増えるだろう。レノファには相手のプレスを個の力で交わして進撃できる選手もいれば、リズムの良いパス交換を使って組織で相手をいなせる選手もいる。前者の筆頭は左サイドバックの48.新保海鈴。後者ではボランチの10.池上丈二や18.相田勇樹などが軸になる。いずれにしてもプロサッカー選手の技術を存分に感じられる個と組織の戦いに大いに注目してほしい。
悩ましいのは天候だ。試合時間帯は天気が回復しているとみられるが、土曜日からの雨はピッチ状況を難しくさせる可能性がある。
ただ、暑さにも慣れ、雨にも適応してきているチームは臆せず戦ってくれるはず!
相手の戦い方やピッチ状況などを適切に判断してチームで共有できれば、あとは全員の力でゴールに向かって突き進むのみ。颯爽と走り抜けていくレノファイレブンとともに、2連勝の勝点3を手にしよう!
連戦も厭わず、雨中でも、強風下でも、積極的なプレーを続けている左サイドバックの48.新保海鈴。セットプレーのプレースキックも担い、前節のザスパ群馬戦では20.河野孝汰の先制点と55.五十嵐太陽のバースデーゴールにつながる流れを作り出している。
五十嵐のゴールは右の高い位置で得たフリーキックから生まれたもので、キッカーの新保はニアサイドに動く19.山本駿亮に最初のボールを供給。上手く反応した山本がマイナス方向にボールを反らし、五十嵐がダイレクトに振り抜いた。
「セットプレーは狙ったところに蹴れていると思います。もうちょっとのところを修正していきたいですが、チームとしての形は出せているし、その中で自分たちでもアレンジを加えながらやっています。4点目も『ここが空いてきている』ということを駿くん(山本駿亮選手)に伝えていました」
そう手応えを語った新保は、今やレノファに欠かせぬ選手だ。来歴を振り返ると、柏レイソルやセレッソ大阪のアカデミーで育ち、ユース時代にはセレッソ大阪U-23の一員としてJ3リーグ戦にも出場。2021年にレノファに加入したが、同年のJ2は3試合の出場にとどまり、22年はテゲバジャーロ宮崎、23年はいわてグルージャ盛岡に育成型期限付き移籍で“武者修行”に臨んだ。
岩手ではサイドバックに加え、ウイングバックでもプレーし、主力選手として37試合に先発出場した。試合経験を積み、一回りも二回りも成長して戻ってきた新保は、攻撃での迫力はもちろん、守備でも頼もしく、今年は左サイドバックで定位置を確保。ボールを奪いに来る相手を緩急を付けた動きで交わし、クロスボールは中央で飛び込む味方の頭にぴたりと合わせる。
圧巻の新保劇場を支えるのは、試合に出ることで培ってきた技術と強度、それに豊富という言葉では言い表せないくらいの運動量だ。4月上旬の3連戦でもフル稼働し、最後までトップスピードを維持した。記者陣から飛ぶ「疲労はないのか?」という質問にもどこ吹く風。「連戦の影響はなかったですね。試合が終わったあとに、久々に疲れたという感じがあったので、疲れているんだなと思いましたが」とさらり――。
タフネスの源泉は自分に限界を定めず、やれるところまでやりきるというメンタリティーにある。新保は「活躍しているとは思っていないです。まだまだです」と謙虚に自己分析し、記者が「将来像や夢はあるか?」と問うと、短くこう即答した。
「行けるところまで行く」
彼らしい答えかもしれない。飽くなきチャレンジャーであり続けるべきだし、その姿勢が似合う。プレーを見ても全方位に全力を投じ、守備でのプレスバックも俊敏だ。新保自身は「相田(勇樹)選手が全部カバーしてくれている」と謙遜するが、サボらずに走り、左肩上がりの攻撃に潜むリスクを低減。戻れるところまで戻りきり、奪えば行けるところまで出て行く。
来たる試合はサイドでの1対1も増えそうな水戸ホーリーホック戦。新保は「プレススピードを上げたい」と語るとともに、「群馬戦はボールに触れなかったですが、(相手からの)プレッシャーははがせる自信はあります。(プレスに)来てもらう分には構わないです」と力を込め、さらにこう続ける。
「相手の残っている枚数にもよりますが、積極的に上がろうと思います。得点も取りたいです。ドリブルで交わしてのシュートもあるし、右からのクロスのこぼれ球とかもイメージしています」
持ち味でもある縦の動きを繰り出し、自身のゴールも視野に入れる新保海鈴。自陣のゴールラインから敵陣のゴールラインまで、レッドラインを引くことなく走り続ける現代サッカーのタフガイが、今節も爽やかに、レノファの勝てるサッカーを表現する。
群馬戦は早い段階で1点取れたのは良かったですが、その後の試合運びでは修正しなければいけないところがあったと思います。ただ監督とも話せて修正できたところがありましたし、ピッチ内で選手同士のコミュニケーションも取れていると思います。相手に押し込まれていても乗り越えればチャンスは来ると思っていて、それをタカくん(前貴之選手)、関さん(関憲太郎選手)とも話せています。僕自身もそうですが、今度の試合もコミュニケーションを取って試合展開を見ながらやっていければと思います。
センターバック、サイドバックからのボールを受けてたくさん触ることはもちろんですが、もう一つ先の位置で前向きにチャンスメークするということも増やしていかないと、ゴール、アシストの結果はついてこないと思います。(FWへの縦パスは)もっともっと出せるシーンはありますし、相手陣地でゲームを進めたいです。そこはユウキ(相田勇樹選手)とも話せているので、やっていきたいです。
水戸戦も相手への対策もそうですが、ホームで前節はあのような勝ち方ができたので、今度の試合は本当により大事になってくると思います。上を目指していくためには連勝というのがすごく大事です。練習から一つ一つのことにこだわってきていますし、チームとして連勝を目指してやっていきたいです。
(群馬戦は)試合に入る時は押し込まれている時間帯だったので、相手をひっくり返そうと思って入りました。押し込まれる時間帯もありましたが、逆に押し込む時間も作れて、そうなった時に実際に得点も取れたのは良かったです。プレスは前から行くというコンセプトはありますし、真ん中を通されなければ大丈夫だという意思統一もあります。そういう意思統一が全員でできていたので、うまく試合を運べたと思います。
勝利はみんなでつかんだものだと思います。僕自身は今年はこんなに早く得点を取れるとは思っていなかったですし、バースデーゴールは今までたぶんなかったと思います。人生初です。誕生日に試合が来ることもなかったので嬉しいです。ここから順調に、どんどん得点を重ねていきたいと思います。
水戸戦でも自分たちのやることをしっかりやれれば、今いる順位以上を狙えると思います。
チームとしてしっかり準備し、絶対に勝って、もう一つ、二つと順位を上げていきたいです。(長袖での練習は)むちゃくちゃ暑いですが、これで試合の時に楽になれれば良いと思います。
前節フォーメーション
前節ハイライト
前回対戦ハイライト
スタッツ
水戸ホーリーホック PICK UP PLAYER
黒川淳史 選手(背番号96)
警戒必須の水戸のキーマン
前節はチーム合流後の初ゴール
2018年と19年の2シーズン、大宮アルディージャからの期限付き移籍で水戸ホーリーホックに加入し、J2リーグ戦で計67試合に出場、10ゴールを挙げる活躍を見せた。水戸で頭角を現した黒川淳史は大宮に戻ったあともコンスタントにピッチに立ち、22年はJ1ジュビロ磐田でリーグ戦8試合に出場している。
23年からはFC町田ゼルビアに所属。今季は3月に水戸への期限付き移籍を決断し、5年ぶりに水戸のユニフォームに袖を通すことが決まった。直近2連続はいずれもスタメン出場。前節の北関東ダービーでは新井晴樹のクロスにファーサイドで飛びつき、ヘディングシュートで水戸復帰後の初ゴールを奪取している。試合を通じてシュートも数多く放っており、レノファとしてはフリーにはしたくない選手の一人だ。
右サイドハーフが主戦場で、得点シーンのように左からのクロスに合わせたり、カットインやワンツーからシュートゾーンに入る。レノファはサイドでは48.新保海鈴が対応する場面が増えることになり、ベクトルを前に向ける選手同士のマッチアップは、迫力のあるバトルになりそう。黒川が内側へと走る場合は新保以外の選手のカバーリングも重要。勢いに乗る水戸のキーマンに仕事をさせないため、連動した守備で対応していきたい。
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