嘘つき猫と元許嫁

嘘つき猫と元許嫁

エイプリルフール 猫耳娘と繋がってません

平子の頭を彩る金色の髪のそのまた上に、三角の耳が二つ、髪の隙間から覗いていてる。

藍染の熱視線が降り注ぐおんなの柔肌、そして、それを覆うには頼りなすぎる白一色の肌着から覗く足はすらりと長い。しなやかな太腿の間では、本来存在するはずのない尻尾がぱたん、ぱたんと揺れ、首元に付けた大きな鈴が、チリンと澄んだ音色を立てる。 

どこからどう見ても、猫だった。正確には、ピンと張った耳が外に向けられていて、猫耳と尻尾が生え、どこからみても不機嫌そうな平子真子だった。

「お似合いです」

「さっきも言っとったやろ、それ」

平子は不機嫌を隠さない。藍染が笑みを崩さないことで、更に苛立ちを募らせている。

「褒めているんですよ」

――どっちの真子さんも、いい。真子さんなら何でもいい。

「惣右介、お前ホンマ何してくれてん」

「ですから僕は無実です。四番隊と十二番隊の検査結果が分かるまでの間、検証出来ることはしてみましょう」

「じゃあ俺に着けたこの紅いリボンと鈴は、何の検証に必要やねん。趣味が悪い」

平子は己の胸元に揺れる赤いリボンの端を摘むと、不機嫌を隠すこともせず藍染に問いかけた。

「猫になったあなたがどんな仕草をして、どんな目で僕を見てくれるのか……」

言いながら、毛先を弄ぶ。平子の尻尾がぱたんと揺れた。

「検証できる事は全てしてみたいんです。幸いにも、時間は十分ありますから」

肉の無い平子の身体に手を這わせながら、藍染は頰に口付けを落とす。

――ヒゲも生えていたら良かったのに、残念だ。

「何の答えにもなっとらんやんけ」

舌打ちを零す平子にもう一度口付ける。

「まず、耳を触っても?」

「アカン、絶対アカン」

藍染の手を避けるように、平子は身を引く。

「では尻尾を」

「それもアカン」

どうせロクな事にならないのは目に見えているが、気持ちの問題だ。

「こうも嫌がられると、何が何でも撫で回したくなりますね」

「ほんまエエ性格しとるやっちゃなァ。どこに温厚な副隊長がおんねん……ってオイ、聞いとるか惣右介」

「僕も自分自身、驚いていますよ」

まあ、それはいいとして。

平子の抗議の声を右から左へ受け流し、言葉を切ると同時に藍染は平子の尻尾の上辺りを優しく叩いてやる。

「~~~~!…惣右介、尻尾はアカン、付け根アカン言うとるやろ」

身体の性質まで猫のようになっているのか、敏感な部位を触られた平子は声を裏返らせ怒り出す。

「これは失礼しました、隊長」

藍染はさも残念だという態を装いながら、臀部をそのままやわやわと弄ぶ。

「んっ……クソッ!」

まるで情事の最中のような、鼻に掛かった声。

自然と平子の腰が揺れ、上に伸びていく。

「……腰が動いていますね」

「アカンて、言うてるやろ」

「何がですか?隊長、我儘はいけませんよ。検証はきちんと行わなければ」

「こんなのが、検証になるワケあらへんやんけ」

再び平子の尻尾の付け根辺りに手を置き、ぐるりと円を描くようにして付け根から先まで撫で上げた。

「ッ……くぅッ……アカン、もう触ンな!さぶいぼ立つわ!」

ぞわり、と鳥肌の浮いた皮膚に舌を這わせる。塩気を含んだ肌の味がした。

「いい加減にしろや、アホォ」

「隊長、あまり大きな声を出されると、隊員に気づかれてしまいます」

「誰のせいや思てんねん……ってオイ、何して……」

畳に直に敷かれた布団へ平子を押し倒すと、藍染はその上にのしかかる。

猫耳と尻尾の生えた、平子のあられもない姿。

その背徳感に、藍染は興奮を隠せない。

――ああ、この人は本当に嘘が上手い。理由を作って、私を狂わせ強く抱かれる事を望んでいるのに。


変人、聡明、女、切れ者、五番隊隊長。

それらの顔とは別に、平子の内側の奥深くには、得体の知れない副隊長とでなく、疎遠になる前、好奇心と興味本位で互いで発散し合う遊びを覚えた良く見知った昔馴染の『そうすけ』と交わって、快楽に溺れてしまいたい雌猫の顔も存在する。

「シンジさん」

耳元で囁くと、平子の体がびくりと震えるのが分かった。

「……っ、アカンて、言うてるやろ!」

「どうして?今のあなたは『ねこ』ですよ?…可愛い…語尾にニャアって付けて見て」

耳朶を食みながら、吐息を吹きかける。かわいい、きれいだ。そんな言葉を繰り返し囁くと、平子の体が大きく震えた。

――知性も理性も、さっさと手放してしまえば、楽になれるのに。真子さんは往生際が悪い。

平子の身体の上を、藍染の手が這い回る。

「ッ……お前、ホンマに性格悪いな」

「ありがとうございます、褒め言葉として受け取っておきますね」

「褒めてへんわ」

「……このままずっとこの姿も悪くないですね、あなたの感情が手に取るように分かるので」

「……そうすけ、お前何か気付いとるやろ」

「何の事かわかりません。僕は平子隊長の事を心から尊敬していますし、シンジさんの事は本当に可愛いと思っているよ」

そう言って平子の首筋に顔を埋めると、チリンと鈴がなる。

「ッ……もう、ホンマに、タメ口もやめろて……」

今日だけ、いや今夜だけは。嘘つきな平子真子は幼馴染のねこなのだ。


「アッ!」

藍染の唇が、平子の首筋を這い、なじるようにうなじを噛んだ。

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