乖離T:いざ! 推しのためなら(ChapterⅠ)

乖離T:いざ! 推しのためなら(ChapterⅠ)

名無しの気ぶり🦊

「────俺が求めているのは…感動だ!」

「────貴方から聞こえてくる祭囃子は泣いてるよ!」

「────推しを止める、それだけですっ!」


今世界をバッドエンドに導きかねない者達を前に集った三人のライダーは、それぞれ異なる、けれど善き道を向いた確たる意志を胸に戦闘を開始する。


「仮面ライダー…ハアーーッ!」

 「そう。なら…憂いは無用よキタサン、今この嘆きを共有したいわけじゃないから!」

それを目にした道長は、仮面ライダーであるという認識からジーンを真っ先にターゲットに据えた。

クラウンはというと、自身が道長のことについて頭を悩ませているのは否定しないまま、けれど中途半端さは命取りだと、道長を守りたくてこうして戦っているのだと瞬時に再確認。

躊躇いなく複数枚のカード型光弾を背面を自分のほうに向けながらキタサンの周囲数m以内に配置する。

ジーンやデジタルも巻き添えにすることを想定した配置だった。


「うっ⁉︎」

「突進だけが君の芸じゃないだろう?」

その間、ジーンは淡々と道長を遇らう。

この落ちついた撃ち方ながら、その威力はマグナムシューター40Xのそれを容易く上回っている。

それが思いっきり直撃したため、道長は勢いよく後退させられた。ゾンビフォームの爪を破壊するほどの威力である。


「(開幕早々この距離で癇癪玉をぶっ放すとか…)キタサンらしいわねっ!」

(先手を取って、そこから譲らないのはほんとこの子らしい!)


同じスペースでキタサンは変装と合わせて彼女のイメージでバズーカモードに変化させたレイズライザーをまさかの器用に回転させながら、クラウンへの威嚇射撃を敢行していた。

バズーカという長身の武器を軽々回転させられるのは伊達に同期一、ウマ娘でも一二を争う頑丈さとタフさの持ち主ではない。変装したことによる身体能力への多少のブーストが掛かっていることを加味してもだ。


「クラちゃんのその攻撃は厄介っぽいから近づかせないよっ!」

(すでにいろんな場所から同時に銃撃を仕掛けてきてる…変に距離を詰めるほど危険だ!)


クラウンの仕込み杖型レイズライザーによる攻撃はおろか、サブサポーターとしてクラウンと事を構えるのも初めてにしては彼女への対策をキタサンは熟せていた。

というのはアスリートとしては、同級生で仲の良い友達同士で似た者同士としてはよく手の内を理解していたから。だからこそ同期一頭が回り策を弄してくるクラウンらしい戦法だと初見でも理解できたし、なら自分はレース同様逃げを打って勝つだけである。


「邪魔はさせないよ!」

「…」

「うわー⁉︎」


同じタイミングでジーンに仕掛けた大智が、モンスターレイジングフォームというなかなかに強いフォームであるにも関わらず容易く地面に転がされていた。あっという間の出来事である。ジーンはスーツに搭載された重力操作機能によりフェンスに立ちながら攻撃しており、強者の余裕に溢れていた。


「…ごめん、デジタルさん」

「…えっ、うそ私の攻撃をピンポイントで対策というかコピーしてくるっ⁉︎」

こちらはリッキーVSデジタル、手甲に変化したレイズライザーを介し五行のうちいずれかの属性を付与した攻撃を行うリッキーにデジタルが返したのは対となる五行の属性を付与した攻撃。

そう、デジタルの能力は彼女がこれまでに認識した人物のブロマイドカードを任意に選択し、そこに書かれたテキストをカメラに変化させたレイズライザーにセットすることで自分の特徴として反映させるというもの。

今回はリッキーを選択し、五行を使った戦闘法を見事コピーしているというわけだ。


「伊達にウマ娘オタクやってません! 推しの一挙手一投足、全て見逃しませんよ!」

(五行に準えた属性攻撃…なるほど、リッキーさんらしい個性に溢れた攻撃方法です)


ウマ娘オタクを自称するデジタルらしい能力であり、彼女が出会った人物であれば誰でもブロマイドカードを介してその癖をコピーできるという意味で万能性に満ちた能力でもあった。


「さすがジーンにデジタルね、フフッ。キタサンブラックもなかなか。でも…おあいにくさま。じゃあね♪」

「予想通りね(おい!)(危なかったあ〜!)(助かったよ)────



これらの戦闘を楽しげに観戦していたベロバは、しかし捕まってやるつもりはないゆえかヴィジョンドライバーに搭載された機能でテレポート。道長やクラウンら4名をジャマーガーデンに、自身はある別の空間に転移した。


「待て!」

 「まとめて消えちゃった…クラちゃん、リッキーさん…」


ベロバを捕獲するつもりだったジーンは当然これに反応するも時すでに遅く、キタサンもクラウンやリッキー、道長といった自身と良き仲な者達を止められなかったことに心残りを感じずにはいられないのだった。


「やっと会えたね、女神様。さあ、あたしの願いを叶えてもらうよ♪」

程なくしてベロバは、創世の女神が安置される空間を訪れていた。

女神の全容はベロバの体で隠され全容は未だ分からないまま。

そんなままベロバは、早速デザイアカードに書かれた彼女しか知らない彼女だけの倒錯的で破滅的な願いを叶えるように創世の女神に向かって言う。


────あら…?」


…が、何も起こらない。

要するに不発だった。


「勝手なことをしてもらっては困る」

「貴方の振る舞いは対策に容易い」


そこに現れた者達がその答え、ニラムとドゥラメンテである。

ヴィジョンドライバーを奪ったベロバがここに来ることは、チラミから情けない知らせを聞かされた時点で読めていた。


「ゲームマスターとプロデューサー、2つの権限が無ければ創世の女神の力は発動しない」


そしてそうした不届に対する対策は今回の件より前から既に講じてある。そう、ゲームマスターとプロデューサー、それぞれのぶんのヴィジョンドライバーをどちらも手に入れ起動しなければ女神にはアクセスできない仕様にしてあったのである。


「一つ手に入れただけで貴方が全能の力を手に入れられるなんて甘い現実はあり得ない」


ドゥラメンテもこう言っているようにベロバの見通しが甘い、情報収集不足が招いた事態と言えた。


「はあ…あーあ、残念。セキュリティーはすでに強化済みだったってことね」


ばっちり二段階認証になっていた事実にベロバはがっかりしていた。ここまで来てこのオチが待ち構えていたのだから。


「女神を我が物にしようとした野蛮な輩は、少し前にもいてね」

「以来、トレーナーが対策済みだ」


そう、今から一月ほど前、デザイアロワイヤルが無断復刻されたあの事件の余波というべきか反省というべきか、それ以来ニラム提案のもとヴィジョンドライバー×2を使わなければ創世の女神に謁見することは叶わないようにされていたのである。


「コラスのやつ、もっと上手くやりなさいよねえ。まあ上手く行かなかったから私が狙えてるんだけど♪」

コラスがやらかしたことの影響というわけである。とはいえそこで乗っ取りが上手く行かなかったのでベロバが今こうして動けていると考えると悪い話でもないのかと彼女は感じた。


「素直にそのドライバーを返しなさい」

「ならばトレーナーも私も、無力化はしないでおこう」


今回ニラムとドゥラメンテがこの場に来たのはあくまでヴィジョンドライバーを取り返すため。それさえ穏便に済むのであればこの場でベロバに暴力を行使する必要はないと考えていた。


「ベエーー!」

「ならば…実力公使に出るしかない」

「短絡的な振る舞いだな…了解した、捕縛する」


『CROWSHEA LOG IN』

『GAIZER LOG IN』

が、事を荒立てるのが性分なのがベロバという女。なのでニラムもドゥラメンテも迷いなく実力行使を決意。ヴィジョンドライバーとレイズライザーを取り出し起動した。


「また来るね、女神様。 今度は そいつのドライバーも手に入れて♪」


『INSTALL』

『INNOVATION & CONTROL GAIZER』

『LAZER ON』

『AERIAL OBSERVATION CROWSHEA』



力ずくで回収しようとゲイザーに変身、クロウシアに変装するが、ベロバ本人はというとこの空間へのアクセスを解除し離脱してしまった

二人が武力行使をしてこないわけがないということぐらい分かったうえで思いっきり煽ったのである。


「…由々しき事態だ」

「僅かでも女神へのアクセス権を簒奪されてしまったわけだからな…」


後に残されたニラムとドゥラメンテは今回の件が招きかねない事態、招く事態に今から頭を悩ませてしまうのだった。


「デザグラが続行不可能…?」

「ゲームマスターの権限を奪われたためあらゆるシステムが機能停止した状態です」


場面は変わってあれから休憩室に戻ってきた参加者達、そこでデザグラが続行不可能であると告げられていた。


「だから今回のゲーム並びにデザスター投票は中止よ!」

「そ、そうなんですか…」

(…良かった、のかな)

ツムリとスイープ曰く、ゲームマスターの権限が奪われたので、デザグラのシステム自体が停止しているとのこと

したがって鬼ゲームも、デザスター投票も無効になってしまったのである。


「良かったな、デザスター一行。 勝負は うやむやみたいだぞ」

「「うっ……」」

つまりはこれで祢音とシュヴァルの首の皮は何枚か繋がったわけで。

英寿も本心では嬉しかったのだが、それはそれとして自分を当事者に仕立て上げようとした祢音とシュヴァルに最低限の皮肉を返したいという気持ちもあり、それに従ってみせた。


「もうっトレーナーさんてば悪ノリですよ!」

「すまんすまん」

キタサンはそれを分かりつつこれまたそれはそれとして英寿を嗜め、本人もそれを受け入れていた。


「チラミ、やつらの狙いはなんだ?」

「あたし達に教えてほしいです…」

「創世の女神よ」

そして現状の再確認。

このままでは勝者はおろか敗者もこれ以上生まれず、ならば誰の願いも叶わない。

それはよろしくないと判断した英寿はチラミにベロバ達の狙いを問い質すと、返ってきた答えは創世の女神。チラミもお調子者ではあってもバ鹿ではなかった。


「余計なことを言うな」

 「ぶぅっ⁉︎」

ならそもそも創世の女神と口にすべきではなく、それに呆れたサマスによりチラミは軽いビンタをくらっていた。


「あっ…プロデューサー、ドゥラ! 私は何も悪くないのよ⁉︎ ジャマトのやつらが私のドライバーを…」

「ゲームマスターの権限を外部に奪われるとは…言語道断だ!」

おまけにニラムとドゥラメンテに自分は悪くないと責任転嫁し始めたので、ニラム直々にキツいお言葉をくらっていた。


「貴方はもう少し突発的に動かないことを意識するべきだ、チラミさん」

「ですよね~」


ドゥラメンテからも軽いがしっかりとした注意を受け、流石にその通りだとチラミもなっていた。


「あの…、創世の女神って…なんなんですか?」

「君たちが知る必要はない」

「…今知っても意味はない」

(プレイヤーであるトレーナーさんが知る必要はないこと…つまり超常的な存在なのかな)

そして創世の女神とは何なのか流石に気になってしまったのか、この場のプレイヤーやウマ娘の意思を代表するように景和がニラムに尋ねるもはっきり拒絶の意を示されていた。ドゥラメンテは少し端切れが悪くなっていたが。

それを見ていたダイヤは自分なりに創世の女神の実態について考えてみるのだった。


「運営のあんたらが慌ててるんだ。 デザイアグランプリの根幹に関わる事なんだろ?」

「もしかして、創世の女神は世界を創り変える力そのもの。…違うか?」

「えっ⁉︎…でも確かに、なら毎回の世界再構成も納得行くかもです」


英寿も同様で、なんならその正体にさえ心当たりが無くもなかった。これまでデザイアグランプリに関わるなかで見せられてきた、体感してきた数々の現代離れした技術や現象、それを思えば発言通りの想像が導かれたし、キタサンもそう言われればと納得できる程度には理に適った予測だった。


「……」


人間が何かしらの問いに対して示す無言の反応は肯定の意とよく言われるが、ニラムもその例に漏れてはいなかった。


「お前らは何者なんだ?」

「…ノーコメントだ」

「浮世トレーナー、今貴方が知る必要はない」

「ドゥラちゃん…」


がニラムは不敵な笑みを浮かべ、ドゥラメンテは顔を引き締め英寿の問いに答えることは決してなかった。

おおよそ英寿の推測通りだろうに、まだ核心を突いた答えではないためか余裕があった。


「デザイアグランプリを再開させるには、奪われたドライバーを取り返す必要があります」

「ここがジャマトのアジト、ジャマーガーデンよ」

さて、デザグラの再開には奪われたヴィジョンドライバーを取り返す必要があるため

スイープはジャマトの本拠地『ジャマーガーデン』をタブレット操作により空間上にホログラムの地図で表示する。常日頃様々な魔法に焦がれはしても根は現代っ子なのであった。


「なぜ運営がジャマトの本拠地を知ってる?」

「緊急事態に備え、情報は把握しておくものだ」


とはいえなぜ運営がジャマトの居場所、それも拠点にしている場所を把握しているのか。向こうの勢力に属しているわけではない英寿には解せないし、ニラムの返答もいまいちしっくり来なかった。


「けど、えらく準備が早いような…」

「平時から常に緊急の事態を想定しているというだけだ、キタサン」


キタサンも同様で、初めての緊急事態であるにしてはえらくスピーディーな対応が腑に落ちなかった。過去に二度も発生していないだろうと思えるようなアクシデント、ドゥラメンテの言うようにいかに予測していても初回であるならば対応にもたつきがどうしても発生するはずで、のわりには妙に熟れているのが不信感を感じさせた。

言ってしまえばマッチポンプな雰囲気さえあった。


「このジャマーガーデンはデザイアグランプリによって消されたエリアにあるの」

「仮面ライダーが全滅して守れなかったエリアを、ジャマトの育成に使ってるってことだよ」


「つまり、ジャマトは元から運営の一部…」

「和预想的一样(予想通り)、盛大なマッチポンプだったわけね…」

同じころ、そのジャマーガーデンで

ベロバが、当地の秘密について物語っていた。要はジャマーガーデンは過去のシーズンの折に歴代ジャマトによって消されたエリアにあるのである。正確には歴代の消滅エリアおよびその周辺の土地と運営が虚数空間を介して座標を重ね繋げることで同時に接続・偏在しており、何処とも繋がり繋がらない空間。

それがジャマーガーデンと言えた。

そしてそれが意味するところはジャマトという勢力自体運営の支配下、仕組まれた戦いであるということ。


「私が丹精込めて育てたジャマトを、好き放題にする運営が許せなくなってね。 ジャマト達が幸せになる世界を目指す事に したんだよ」

「(許せない気持ちは分からないけど)ジャマトちゃん達が可愛いのは分かります…」

ジャマトも普通に生物だと考えれば、運営がやっていることは虐待とも言える。あくまで生産者の目線に立った場合の思考だがアルキメデルはそれが人一倍強かった。

とはいえアルキメデルの場合は ジャマトが人を襲うことは容認している、なのでそれを助長するような世界が来ると考えるとリッキーは勘弁願いたかった。ジャマトには確かに可愛さを感じているが


「何なんだ? お前らは…!」

「…なんとなく予想はできてるけれど、私も知りたいわね」


ここまで言われれば彼等の正体が気になるというもので、道長とクラウンはベロバやアルキメデルが何者なのか問うた。


「フフフ…!気になる?あたしたちが何者か?」

「それはね──────



そう来ることは読めていたのか、楽しそうにベロバとアルキメデルは自分達の正体について語りだすのだった。

Report Page