五つ子良い子スレ-セル初登場シーンSS

五つ子良い子スレ-セル初登場シーンSS

いつか全部書きたいマン

※好き勝手書いたのでなんでも許せる人向け

※戦闘シーンってどうかけばいいのか分かんないよー!!

※三人称?のつもりなので割と視点があっちゃこっちゃしてます。読みにくかったらごめんなさい


※原作漫画読みながら原作沿いで書いたはずなのになんかアビス君が刺されずに終わりそうで焦った…あれアベル-アビス間の重要イベントだから飛ばせないのに…

 と思ってぶち込んだはいいがマッシュ→アベルの台詞が丸々削られてしまったので結局原作ほど重要なイベントにならなかった……多分この後幕裏のどっかで似たような会話がなされたってことでユルシテ……



────

「ああ、負けちゃったんだね。アベル」


 七魔牙のトップ、アベル・ウォーカーとの戦いに勝利し喜びの舞を舞っていたドット達の前にふわりとその男は降り立った。

 気配も前置きもない、突然の襲来。

 温度のない声音、だがよく通るそれは騒いでいたドット達の間を通り抜けてアベルへと向けられた。


「セル……」

「正直想定外だね。レインやマカロン以外に君が負けてしまうなんて」


 ちらりと濃い金色の目がドット達へと向けられる。

 途端に身体に走る緊張。悪寒。これまで戦ったどの相手よりも強いと確信を持って言える、静かな立ち姿の裏に微かに察せられる膨大な魔力。…ともすれば一介の教師よりもその力は大きいかも知れない。


「…そうだね、僕も負けるなんて思ってなかったよ」

「そこの一年生たち? それほど強いようには見えないんだけど」

「彼ならお手洗いだって先ほど出て行ったよ」

「緊張感のない子だね?」


 名前を呼び合い、ゆるく言葉を返すアベルの様子からして知己の仲なのだろう。

 しかし明らかに生徒ではない人間が校内の、しかもこんな奥まった場所に居るというのはおかしい。

 ドットはフィンとレモンを庇うように前に立って杖を構える。もう魔力は少ないが攻撃の盾になることぐらいはできるだろう。

 ちらと開かれたままの扉を見る。マッシュはまだ戻ってこないし、そもそもランスはどこに行ったのだ。アイツの実力から言って負けるということはないだろうから迷っているのか。何してるんだはよ来いや。


「────……ごめんね、アベル」


 唐突に黙りこみ会話を切った男が謝りながらも杖を構える。真っ直ぐと、震えることもなくそれはアベルへと向けられた。

 黒い砂のようなものがアベルの足を拘束する。発射された石礫のようなものがアベルの手から母と呼ぶ人形ごと杖をはじき飛ばす。


「本当に残念だけど、僕は君を始末しに来たんだ。君はもう用済みだ。“こちら”に関わりすぎた。それでも強ければ何とかなったんだろうけど…」

「セル、やめるんだ。望んでもいないことをするものじゃない」


 そんな状況であるのにアベルはあくまで冷静だった。

 自らを殺すと告げる男へ向けられる静かな言葉。それは命乞いというよりも懇願に近かった。


「君にも理由があるのは聞いている。それでもどうにかならないものなのか? 今回のことは学校に知られた。すぐにウォールバーグ校長にも話が行くだろう。そこで君の現状を訴えてみるのも手ではないのか?」


 少ない彼の抑揚に確かに相手を案じるものを混ぜながら、触れられない距離に立つ目の前の男へと手を伸ばす。


「君が優しい男だということは僕たちが知っている。僕が言えたことではないけれど、これ以上君が罪を重ねるのは見たくはないよ」

「…………ごめんね。それでも、僕は──生き残るために君を殺す」


 突きつけられた杖に魔力が流れ込む。

 アベルが身構え、ドットが割り込むべきかと逡巡した時──


「じゃあ打ち上げはオレンジジュースとシュークリームで。…え?」


 ひどく呑気な声が、とても気の抜ける台詞とともに緊迫した空気に殴り込んできた。


「なんか雰囲気が…」

「マッシュくん、まずいですよ。今そういう感じじゃないんで…」


 大皿に山盛りのシュークリームを乗せていつも通りの何を考えてるか分からない顔をしたマッシュとそれに律儀に声をかけるレモン。

 すっかりと緊迫感が霧散してしまった空気の中で、男はアベルに向けていた杖を一度下げて緩慢にマッシュへと向き直った。


(………? マッシュくんに、にて、る?)


 髪色の違い、化粧と目つきの違いから分かりづらいが、どことなく向き合った二人の顔が似ているような気がしてフィンは二人の顔を交互に見比べる。

 そんなフィンのことをちらりと眺めた男は、流れるようにマッシュの方を向き口を開く。


「君がアベルに勝ったっていう子?」

「うす」

「ふぅん…まあいいさ。そのまま振り返って帰りなよ。今なら見逃してあげる」


 お友達も一緒にね。という男は確かにアベルの言うように優しいのだろう。

 まあ、そういう気遣いを天然で無碍にしていくのがマッシュという少年なのだけど。


「え、なんでですか。今から戦勝シュークリームパーチーするんですよ。誰か知りませんけどあなたも混ざります?」

「マッシュくん、マッシュくーん、今そういう雰囲気じゃないんでーす」


 あまりの呑気さに男も驚いたのか頭を抱えている。分かる…とちょっとフィンは心の中で同意した。

 はあ…とため息を吐いた男はマッシュの説得を諦めたのか、もう一度アベルに向きなおって杖を構える。


「子供を怖がらせるのは本位ではなんだけど…仕方ないね」

「セル…!」

「ごめんね、アベル。僕のために死んでくれ」


 男の魔法が発動する。

 黒い槍のような棘がアベルに向かい──その間に割り込んだアビスの腹に突き刺さった。


「アビス…ッ!」

「仮面さん…」

「ごめんなさい…マッシュくん。一緒に、シュークリーム食べれそうにないです……セル、私の命で、アベル様は見逃して、もらえませんか……」


 駆け寄ってきたマッシュに血を吐きながら謝り、アビスは苦々しい顔をした“友人”を見上げてお願いする。

 そんな顔をしながら人を殺そうだなんて、おかしいなと微かに場違いな笑いがこみ上げる。


「……馬鹿なやつ。わざわざ死にに来なくても良かったろうに…お前たちなら、見逃してあげられたのになぁ…」


 平坦な声が独り言を呟いて、また杖を構え呪文を唱え──ようとして、マッシュの震脚が床をカチ割ったことでそれは中断された。

 浮いた瓦礫の一つを蹴り飛ばし、正確に男の顔面を狙う。だがなんの魔法か、直撃したと思われた瓦礫がふわりと浮き上がり男のイラついたような顔が覗く。


「出しゃばるんじゃないよ。折角見逃してやるって言ってるのに」

「いや、友達(予定)なんで。そりゃ普通に助けるでしょ」


 男の魔力の膨大さが分からないのか気にもしてないのか、普段通りの不遜な態度を崩さない…否、少なからず怒っているマッシュはパキパキと手首を鳴らしながら男に言い返す。


「僕と君の力の差が分からない? ま、適当に痛めつけてやるよ」

「いや僕の方が強いんで。その顔ぶん殴ってやりますよ」


 口が減らないなぁ、と零した男の周囲から黒い槍…尖った炭素の塊が弾丸のようにマッシュに降り注ぐ。

 それをマッシュは一撃目を拳で殴って壊し、割れた欠片を武器にして二撃目を防ぐが間髪入れずに三撃目が降り注ぎ、迎撃が間に合わず正面から食らう事になった。


「あ、意外と強い。どうしよ」

「いや君、本当に緊張感がないね」


 ぼやっとボヤくマッシュにアベルもアビスの傷口にハンカチを当てながら思わずツッコミを入れてしまう。


「…彼はセル・ウォー。犯罪組織《無邪気な深淵》の幹部だ。一学生が適う相手ではないよ。……僕は罰を受けるべきだ。君が傷つくことはない…」

「うわ、変な名前。いやそれっておかしいじゃないですか。悪いことしたら叱られるべきですけど、なんで関係ない人に殺されなきゃいけないんですか?」


 雨あられと矢継ぎ早に降り注ぐ炭素の槍に流石のマッシュも防戦一方になっている。

 それをつまらなそうに見ていた男がさっさと諦めなよ、とまた薦めながらため息を吐く。


「ふぅん、こんなものか。アベルに勝ったっていうからどんな強力な魔法を使うのかと思ったけど…見たところそれほど魔力量も………あれ?」


 攻撃を止め、じっくりと観察するようにマッシュを見ていた男が目を瞬かせた。口元に手を当てて首を傾げ、不思議そうにもう一度頭から足まで頭ごと目線を動かす。


「君、魔力不全者か?」


 ぽいっと放り投げられた質問にマッシュは大いに動揺した。「そ、そそそそ、そんなこと、なななないですよよよ」と口ごもりながらする返答は明らかに嘘と分かる。

 フィン達は今までのマッシュの戦い方を思い出して、キュピーンと全部が繋がった。なるほどね……思い返せば明らかに魔法じゃなくて筋肉だった……いやもう逆にファンタジーじゃんそれは……

 男もなにか納得したのか頷きながら杖を下げる。そしてあろうことかそのままツカツカとマッシュに近寄ってきた。顔面に向かって拳を振るうマッシュをいなして、逆にマッシュの頬を両手で挟んで覗き込んできた。


「なにするんですk」

「黒髪、金の目、魔力不全者…一年生ってことは15か16歳…年齢も合う……君、名前は?」

「マッシュ・バーンデットですけど」


 ブツブツと何かを確認するように呟いた後、男はパッと手を離して踵を返した。


「うん、いいや。今回は見逃してあげるよ」

「え、なに勝手言ってるんですか」

「僕はずっと勝手にしてるだろ。君に会えたからね、多分それでアベルの件はうやむやに出来る。僕に構うよりアビスを早く医者に見せてやれよ。致命傷は避けてるとはいえその出血量じゃ30分もせず手遅れになるよ」


 バキバキと空間を割って現れた枯れ枝のような巨大な手に包み込まれながら、男は緩やかに手を振った。

 その背中にアベルが声をかける。


「セル……役に立てなくて、すまない」

「うん。別に元からそれほど期待してなかったからいいよ。…もうこんな怪しいヤツと関わるんじゃないぞー」


 最後の最後、おどけたような忠告を残して、そうしてセルと呼ばれた男はなんの痕跡も残さずに消えた。



【終】


Report Page