我ら地獄の音楽隊④

我ら地獄の音楽隊④


 「るううううぅぅぅぅうぅおおおぉぉおぉぉぉおおっ!!!!」

 「……噂に違わぬっつーか、噂以上のバケモンだなオイ……」

 「……ガードロボットが紙くず……」

 叫ぶ→突っ込む→あいてはしぬ。

 戦術シャーロット、とりあえずシャーロットが吼えてぶちかませば勝つという最高に頭のいい戦い方。事実として「BB海賊団」の面々が大暴れするシャーロットを止めようとするが話にならない。

 投入されたガードロボットさえ、機械鉞の一撃によって真っ二つに叩き割られてスクラップの仲間入り。改めてKBはこれほどの戦士と言うか最早戦略兵器の類が嫁さん志望でチン惚れ仲間入りになるとはどんな確率だよ、と思う。

 「ゴオオオオオァ!!!!」

 ブースターを噴き散らして振り抜かれる機械鉞の一撃が、フロアを貫通して破壊を撒き散らす。彼女の通った後には、見るも無残な姿のあれやこれやが転がり、施設の何某かの機械やら何やらが引き千切られ放題である。

 「ブシュウウウゥゥゥゥゥウ……船長さーん!お掃除完了で御座いまーす!」

 血やらオイルを身体中に浴びながら朗らかに笑って手を振るシャーロット。その姿にメグミは戦慄する。

 「どういう精神構造してんだアレ……この惨状産みだしてアレかよ……」

 可愛いだろう?うちの副船長兼乳牛兼1番目のお嫁さん。KBはどや顔を見せた。

 「およ……は?お?は?……は?」

 理解出来ない、イカレてんのかコイツも?と言いたげな顔をしてメグミがKBを見やるが、それを意に介さぬようにKBはメグミの身体を見る。

 乳は……シャーロットに比べれば貧乳だがまぁそれはそれ、普通に巨乳の類と言って良い。ケツは……シャーロットがデカすぎるだけで良い感じのケツだ、「産める」感が普通にエロい。

 君!いい身体しているね!我が家のハーレムに入らないかい!?

 「死ねオラッ!!」

 「ああっ!?船長さんの船長さんが……大丈夫!無事です!」

 返答は股間への一撃であった。悶絶して倒れ伏すKBの股間を撫で繰り回してシャーロットがその機能の確認を行う。

 「……何コレ」

 混沌に次ぐ混沌。海賊家業を開始したばかりの男、最強の戦士でありながらお嫁さん気分で男の情婦になった女、何故か自分を攫って逃げ出そうとしたSSPの婦警。

 軽い自己紹介があったが、そんな面子が集まって暴れて状況が動き過ぎている。HAL-01はあまりの混沌にそんな言葉しか吐き出す事が出来なかった。

 「それにしても……我々に騙し討ちと酷い事をして下さった困った外道は何処にいらっしゃるのですか?一撃ぶちかまして差し上げないと我慢なりません!」

 「アンタにぶっ叩かれたら死ぬだろ!奴はアタシが捕まえんだ!司法の裁きを受けさせてやんだよ!!」

 「その前に一発バチンと……」

 「だから死ぬっつってんだろ話聞けオラァ!!」

 ギャースカ騒ぐシャーロットとメグミ。HAL-01は突如降って湧いた「逃げるチャンス」に、しかし困惑する事しか出来ない。

 HAL-01は聡明な少女だ。自分の行っている事が悪い事であると知っていた、逃げ出せるのなら逃げ出すべきだと分かっていた、だが逃げられぬが故に諦めて、生きる為に従うほかに無かった。

 だが唐突に降って湧いた逃げるチャンス。逃げ出すべきだと分かっている、逃げて外で生きる事が大事で————でも、どう生きればいいのだろうか。

 改めて考えれば、どう生きればいいのか彼女は知らない。これまではずっと言いなりに情報を処理し、機械を動かし、敵を処理し、秘密を動かし—————

 『—————緊急警告。自爆装置が起動されました。残り五分の内に退避し、安全を確保して下さい』

 「……あ゛?」

 「あら?」

 「……えっ……」

 自爆装置か、ロマンよな。KBはそう一言呟いてうんうんと唸り……うん?と首を捻り、ううん?と考え……え?自爆?

 「……ブランチ……!!」

 「あらあらあら、自爆……大変、逃げませんと」

 「言ってる場合かテメェ!?言ってる場合何だろうなぁテメェはぁ!!クソ、五分以内って……チビ!何処まで逃げりゃ安全なんだ!?アンタ詳しいんだろ!?」

 メグミの問いかけに、HAL-01は目を見開いて歯を食い縛り、俯く。

 「……惑星外、且つそれより相当の距離への離脱」

 「……は?」

 「此処に仕込まれた自爆装置は、ただの自爆装置じゃない。この建物を吹っ飛ばす、なんてものじゃなくて—————」


                  🔶



 BB海賊団の頭目、裏世界において一角の人物とされていたブランチ・ブ・ローチは本拠地であった惑星から脱出しつつ、苛立たし気に歯噛みする。

 「事故だ……!事故が過ぎる……!何故、『流星』が此処に……!!」

 『流星』のシャーロット。この界隈において知らぬ者の無い、最強の戦士。機械鉞と己の身一つで惑星規模の武装要塞に吶喊し、たった一人で撃滅せしめたと言われる生ける伝説。

 その噂が真実であれ虚偽であれ、彼女にはそれを信じさせるだけの力があった。

 彼女を引き入れた側が勝利すると言われるほどに。戦場で彼女と出会う事は災害に遭う事と同義であると言われるほどに。

 SSPはその役割と組織の大きさ故に動向など手に取るように分かった。だがアレは、あの傭兵だけは何を指針に動いているのか分からない。そもそも本拠地へと唐突に表れた理由も分からない。

 「だ、だが……!」

 くふ、とブランチは冷や汗と共に笑みを溢す。

 「————地核へと干渉し強制的にエネルギーを暴走させ、惑星一つを丸ごと爆弾へと変える『強制的超新星誘発爆弾』……!!『END』からは逃れられまい……!」


                   🔶


 「わ……惑星一つを爆弾に変える自爆兵器だぁ!?」

 「……通称『END』。それが、この星には取り付けられている」

 「バッッッッッカじゃねぇのか!?何だってンなもん用意してんだよ!!」

 「こういう時の為にでは?」

 「黙ってろ『流星』!!!」

 ……何だか大変な事になってきたぞぅ?




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