遠い日のユメ 1

遠い日のユメ 1


「─────以上の我が社への多大な功績から、以下2名はN部隊へ転属とする」

「君たちのコールサインは本日付けで、『N.XV クライネレビン』、『N.XIV ナルコレプシー』となる。これからもハイコープス・カンパニー発展の為身を粉にして励むように」

「「はい!」」


──────


「つ、ついにやったね、ユメちゃん」

「……もうワタシはN.XIVよ。貴方はN.XV…私用ならともかく現場ではそう呼ばないようにしてもらえるかしら、レム…あっ」

「あはは…ユメちゃんも間違えてる〜」

「…これは貴方に釣られただけで………これは呼称の訓練が必要になりそうね」

「て、転属されるだけで登録名まで全部変えるなんて…私たちでもこれだけ混乱しているのに本部の人たちは困らないのかな」

「仕方ないわ、それが企業であるというのならワタシたちが逆らう道理はない…それにここまで来る間、まともな名前すら貰うのにどれだけ苦労したか忘れた訳じゃないのでしょう?」

「そ、それもそっか、そうだね…」


ワタシ達はハイコープス・カンパニー内で行われた次世代強化人間開発プロジェクト───そのセレクションを通過したたった2人の数少ない成功例である。

そして通常部隊で実績を積み、自分で言うのも何だけど…両者とも目覚ましい活躍の末、ついに念願の「N部隊」への転属が叶う事になったのだ。


「目指すはN.Iの座ただ一つよ。どちらが先に辿り着けるか競走ね、『クライネレビン』さん」

「…うん!けど…私は要領悪いし、やっぱりいつものようにユメちゃんが先になっちゃうんじゃない、かな」

「『ナルコレプシー』」

「あっ」

「…ふふっ」


しかし、いくら最新鋭の強化手術を受けたからといって個人個人の精神までは人類の手が及ぶというものでは無い。現にワタシたち2人は同様の強化を受けていながらここまで「違う」のだ。後になって聞いた話では、精神が肉体に適応できずセレクションに落とされた個体も何体か居た、という話も聞いた事がある。

────この時のワタシは本当の意味でそれを分かってはいなかった。

その「精神の違い」というものを。そして…それがどのような結末を齎すこととなってしまうのかを。


──────


「おーナル子さん、またデータバンクなんか漁ってるんですか?」


エイレーネ内データバンクを漁っていると、正直会いたくない人物と出くわした。あれから時が経ち、いまやワタシはN.IIIの立場にある。言うなればこいつの上司ではあるのだが…


「あら、誰かと思えばゴキブリのようにオムニスの地をカサカサ這い回るのがお得意のN.VIIIじゃない。またユニバーシティ7での作戦行動ログを覗き見られてるんじゃないか心配になってつけてきたのかしら」

「おいコラクソダサターバン野郎、おめぇまだ懲りとらんのか?そのよ〜〜〜く回るゴミみてぇな舌を刺身にしてやろうか?お?」


そうやって件の人物───『N.VIII スキゾフレニア』は挑発に乗る。


「…心にもない罵倒痛み入るわ。今回は貴方に関してじゃない…ちょっと前に起こったあの事件について整理してたのよ、ほら」

「あーそれ?確か『組織』絡みの…ホントクサレ脳ミソがカワイく見えるくらいやらかしてくれたこって…わーってますと思うけど、いくらナル子さんがハイコープス指折りの強化人間だからって限度があるってコトですからね?ハイコープスの顔に泥を塗るようなことやったら…」

「分かっているわ。ワタシはハイコープスを裏切ったりなんかしない。ワタシみたいな存在をこの世に産み落とした素晴らしい企業を裏切れる訳が無いでしょう?散々説明したと思うけど…存在感どころか知能まで薄くなったかしら」

「…チッ、尻拭いすんのはこっちだから警告してるんすよ。くれぐれもアタシに迷惑かけないでくださいね?」


ここまで読んで下さった方にはお分かり頂けただろうが、ワタシはこいつがハッキリ言って苦手だ。だから『いつもの手法』で追っ払うことにした。


「『アタシ』?『上層部』の間違いでしょう?」

「あ゛あ゛あ゛あ゛このビチクソターバンがァ!まるで会話が成立しねぇ…本当にボコしたろか?」


こいつはよくおちゃらけたり怒ったりするが実際のところワタシでも心の底が読めない。しかしこうやって一人称を『上層部』と指摘してやると柄にも無いバツの悪そうな態度を取る時がある。ある意味、根っからの組織人なのだろう…この姿勢にはワタシも見習わなければならない所がある。


「せいぜい期待してるわ」

「…帰る!」


そういって激昂しながら踵を返すN.VIIIを遠目で眺めながら、ワタシはデータログの閲覧を続ける。


「ワタシと貴方は『同じ』筈だった…同じ事を…成し遂げられる才能がある筈だった…なのに」


どうして。


「どうして道を誤ったの?レム…」

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