チョキ宮とルナの話

チョキ宮とルナの話



 やあ、面白い話があるんだけど聞いてくれるかな?

 これは俺が実際に体験した事なんだけどね、俺は青い監獄に呼ばれて『世界選抜戦』と言うイベントに参加したんだ。内容は至ってシンプル、そこにいるエゴイストとやらとサッカーの試合をすること。実に分かりやすい。

 まあ試合自体は俺の勝ちで終わったしちょっとしたお小遣いも稼げたし楽しいイベントだったよ、また暇があったら行っても良いかもしれないね。弱い彼等に胸を貸してあげるのも先輩としての役割だからさ。監獄限定の先輩だけどね、ハハッ!

 ああ話が逸れちゃった、それで試合が終わってシャワーを浴びたあと暇だったから監獄内を探検する事にしたんだ。外から見た時も思ったんだけど凄く広かった、部屋もいっぱいあったから適当に開けて回っていたけど興味を惹かれる物は無かったね。

 そろそろ戻ろうかと考え始めた時にとある部屋の前に辿り着いたんだ。おかしい所は見当たらないのにこの部屋には何かがあるって感じた、いわゆるシックスセンスだ。不思議な事もあるものだよ。

 直感に従ってドアを開けた先には今まで見てきた部屋と同じくらいの空間が広がっていたんだ、床には人工芝が敷き詰められていて日当たりも良くてちょっとしたリフレッシュルームみたいだった。

 で、肝心なのはここからだ。そこには先客がいたんだよ。部屋の真ん中に横たわっていて全く微動だにしない、サスペンスドラマだと俺が第一発見者になるシチュエーションだったわけだ。俺はすぐに駆け寄ったさ、この監獄にいるのは基本未成年だから善良な大人として当然の行いだね。

 俺が近付いたからか先客はゆっくりした動きで起き上がった、細身の青年だったよ。彼は恐らく監獄支給であろう青いスウェットを着て赤橙色の眼をこっちに向けて微笑んでいたんだ。正直言って綺麗だと思ったさ、でも綺麗なだけでどうにも人間味が感じられなかったんだよね。生気が無いって言えば良いのかな、精巧な人形みたいだった。

 動いている瞬間を見ていなかったら、ここがリフレッシュルームじゃない豪奢な一室とかだったら変わり者のセレブが金を積んで作らせた人形を置いていたって思えたかもしれない。えらく褒めるじゃないかって?綺麗なものを見たら綺麗だって思えるだろう?俺はそういう心の余裕を大事にしているのさ。

 話を戻すけど俺も人形くんも何も言わずただただ見つめあっていた、冷静になったら相手の観察も出来るようになってね、人形くんの首にチョーカーが付けられているのを見付けたわけだ。よくあるチョーカーで人の名前も縫い付けられていた、どうして人だと分かったかだって?俺は監獄にいる選手たちのデータを全て記憶しているからね、当然名前も入っているのさ。

 縫い付けられていた文字はNAGI、そんな名前のブランドは無いし監獄にはそれに当てはまる選手がいる、顔写真もセットだから人形くんが別人なのも分かる。問題はどうしてその人物の名前が縫い付けられているチョーカーを付けているかなんだ。

 選手たちのデータを記憶しているならその人形も誰か分かるんじゃないかって?君は察しが悪いってよく言われてそうだね、データが無かったから誰か分からないのは当然だろう?ちょっといきなり怒らないでくれないかな、それ逆ギレって言うんだよ知ってる?

 あっ、話はまだ終わって…行っちゃった。短気だね全く…別の暇そうな誰かに話そっと。

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