乖離T:いざ! 推しのためなら(ChapterⅣ)
名無しの気ぶり🦊「おお…感動的な戦いだなあ!」
「あら~! 楽しいもの見てるじゃない。どっちの推しが勝つのか、賭・け・る?」
「悪趣味ですね、相変わらず…」
「これがあたしよ、あはははッ!」
あれから数分、英寿と道長、キタサンとクラウンにより始まった戦いはほぼ互角の様相を見せていた。
結果論ではあるが力押しという感じのバッファ/道長相手なら、パワードビルダーフォームだけでなくギーツのIDコアと相性が良いマグナムのほうが有効、手練手管で罠を張り攻めるリベル/クラウンには遠距離から先手を取りながら直感的にそうした仕込みを避けつつ強い一撃を戦うキタサンは相性がいいと思えるような戦いになっていた。
そんな二組の戦いをジーンとデジタルが感動的な戦いと言いつつ観戦していると、ベロバが空気を読まずにやって来る。
「…ヴィジョンドライバーを運営に返せよ。本来、俺達は傍観者だったはずだ」
「推しやデザグラへの過干渉が過ぎますよ!」
「アハハハハッ! いいじゃない、どうせ すでに終わってる大昔の世界なんだから♪」
なので元々ウマが合わないということもあってかジーンとデジタルは、ヴィジョンドライバーを返すようにベロバに告げる。
しかしベロバはそれを意に介さず、なんならとんでもない爆弾発言をこの場に投下してみせた。
「「────えっ?」」
「既に、終わった…⁉︎」
(…大昔…まさかな)
(どういうこと? あたし達が生きるこの時代が既に終わってしまったもの…まさか!!??)
戦闘中だが、英寿とキタサンはその言葉を聞き逃さなかった。
言葉通りであれば、自分達ははたしてどこで戦っているのか分からない。
おまけにこれがきっかけとなって、ある予想が二人の脳内に浮上する。
「よそ見してる場合か!」
「うっ⁉︎」
「脚元がお留守よ、キタサン!」
「うあっ⁉︎」
(ついにキタサン達も知ることになるのね、デザイアグランプリの真の正体を…)
とはいえ少なからず衝撃を受け動きを止めたりコントロールできなくなってしまったのも事実でそれを見逃す道長とクラウンではなく、英寿は道長のゾンビブレイカーの、キタサンはクラウンがカード型光弾で作り出した空間に思わず踏み込み光弾の背面を幾重にも中継した銃撃の餌食になってしまう。
英寿は脇腹を思いっきりチェーンソーで切られ、キタサンは足元から抜け出るように急カーブ&ワープで現れた銃撃に腹をやられ思わず転がりながら変身解除してしまった。
それを見ていたクラウンは今二人が脳内に描いている予想は少し前に自分が知ったこととさして変わらないだろうと予感していた。
「フッ…そういうことか」
「「えっ…?」」
「あたし今…トレーナーさんと同じこと考えてる自信あります」
「だろうな。この事態に思いつくことは一つだけ」
しかし二人の目は挫けることなんてもちろんなく、むしろ先のベロバの発言で浮かび上がったある事実に近い予想に対する我ながらな驚きと興奮に脳内含めて支配されていた。
端からそれを見たジーンとデジタルは思わず動きを止める。
「次元を旅する観光客…すでに終わっている大昔の世界…そして世界を創り変える女神…」
「視聴者参加型リアリティライダーショー…現代離れした設備や技術の数々…全てを知れば全てを忘れる事になる、我々は一切合切を引き揚げ、全て無かったことにする」
ジーンが、ベロバが、チラミが、ニラムが、デザイアグランプリ関係者が言い放った幾つものキーワードを二人は脳内で改めて繋ぎ合わせていく。およそ現代に普通に生きていれば知ることなんてない現代離れしたデザイアグランプリに関する幾つかのワードは改めて二人の脳内にある事実に近いと思えるような予想を浮かび上がらせる。
「「これらの事実が…全てを物語る(ってます)」」
そして、ついに吐き出す。その予想を、極めて確信に近い二人の考察を。
「──────デザイアグランプリの運営とオーディエンスの正体。お前達は…遥か未来の存在!!」
「10年や100年じゃ足りないぐらい、果てしなく人類史が続いた先の未来からの旅人…それが貴方達なんですよね?」
そう、デザイアグランプリとは、それに関わるスタッフやオーディエンス、サポーター達はスイープ・ドゥラメンテ・デジタルを除いて、今より遥かも遥かに離れた未来において生まれ出で来訪した存在ばかりということだ。
現代の科学云々では説明できないという予想は かねてより英寿やキタサンにはあったが今回出たフレーズがそれを確信に至らせた。
「ああ、そうさ。君達がギリシャ神話や戦国時代をエンターテイメントとして楽しむように、俺達も楽しんでいるんだよ」
「この素晴らしき3.5次元の世界を♪」
ジーンは変身を解いて、そう呟く。
3.5次元。
我々のいる世界を3次元として時間軸を加えると4次元になるそうだが、はたして3.5次元とは何なのか。
それは現代における2.5次元舞台という娯楽に端を発するもの。2.5次元がアニメや漫画と実写・特撮の間という意味合いを持つならばそれより1次元繰り上がった3.5次元が意味するものとは即ち実写・特撮と現実の間。
過去という未来から見ればさながら立体的なフィクションと変わらない時間軸を舞台に未来という現実の人間が取り仕切るコンテンツ、ゆえに3.5次元、ゆえにデザイアグランプリである。
ちなみに似た形の未来の番組に神話系ドキュメンタリー番組『ミソロジー・リポート』というものが存在している。
スタッフやスポンサー、オーディエンスの移動は四次元ゲートや専用のデンライナーを通して行われる。
──────残念ながら、この世界を舞台にしたシリーズもそう長くはないようだな。ゲームマスターのドライバーを回収次第、最終判断を下すことになるだろう」
このことを同時刻に予感していたニラムは遠からず訪れるだろう現代日本でのデザイアグランプリとの別れに、この時代で体感した幾つものリアリティやリアルを思い出し、ふと寂しさに浸っていた。
「…トレーナーとお別れか。寂しくなるな」
「何、私に着いてきてもいい。記憶を残し連絡手段も残す形でもいい」
「私が君に出してやれる給料の代替え、それぐらい幾らでも思いつくというものさ」
そしてそれは即ちドゥラメンテとの別れをも意味していて。とはいえここまで間近で自分に着いてきてくれた現代人ということもあって、未来に連れ帰ることや、はたまた例外的に記憶を消去しないぐらいは容易くやってみせようと柄にもなく私情に突き動かされた判断をニラムは脳内で組んでいた。そのぐらいにはドゥラメンテという担当ウマ娘に愛着がいつの間にか湧いていたのである。
「とうとうバレてしまいましたね…。もう少し長く、この世界を見届けたかったのですが…」
これをデザイア神殿のモニター越しに聞いていたツムリも、ついにこの日が来てしまったかとどこか寂しい気持ちになっていた。
「キタサン…」
「スイープちゃん…そうですね、貴方にとっては初めてのお別れですものね…」
そしてそれはスイープも同じで。サブナビゲーター、つまり次期ナビゲーターとして担当ウマ娘としてこの数年ツムリに指導されてきた彼女は今シーズンのデザイアグランプリが終わればそのまま未来に旅立つこととなっていた。
もちろん彼女の祖母ことグランマはこれを承知しており、しかし大の仲良しであるキタサンにはこれを告げていなかった。
「ううっ、使い魔ぁ…」
「よしよし」
(…残りわずかなこの時代での生活、噛み締めていきましょう)
というのは言ってしまえば自分達の関係性が明確に変わってしまう気がして怖かったから。
そうして今日まで来たからか、後悔や寂しさ、辛さといった感情が別れるその日ではないというのに涙と嗚咽と共に溢れて止まらず、その気持ちがよく分かるツムリは、トレーナーとして当代ナビゲーターとしてただ彼女を優しく抱きしめ頭を撫でるに留めていた。
──────あーあ。 このジャマーガーデンも もう使い捨てね」
「ちょっとベロバ⁉︎」
そして英寿とキタサンの指摘を聞いたベロバはならばその記憶の消去も含めてこの時代から去る日が近いと予感し…この場に飽きた、端的に言って。
そして、だったら最後にこの場をめちゃくちゃにしてやろうと動く。
意図はともかく今から何をするかは漠然とだが読めたクラウンはそれを制止するも、嫌いな女の言うことに聞く耳をなかなか持たないベロバはそのままライズカートリッジを取り出し────
『BEROBA SET』
────変身♪」
自身のレーザーレイズライザー本体と組み合わせ起動し、どこか道長やクラウンに似た構えで変身。すると──────
『LASER ON』
『BEROBA LOADING』
────巨大。あまりに巨大。
容易く高層ビルクラスの大きさを誇る仮面ライダー、仮面ライダーベロバがそこに構えていた。
「う、うええええええええええッ!!!???」
「なんて偉容だ…」
当然キタサンと英寿は驚いた。スケールが違いすぎる。象と蟻どころか、象とミジンコを比べるような愚かなスケール差だった。
ある時英寿が迷い込んだ異世界で見た巨大なロボにも似たそれ。
「えぇーっ⁉︎ 何あれ⁉︎」
「巨大な…ライダー…⁉︎」
祢音とシュヴァルも同様で、ただひたすらにそのサイズに圧倒されていた。
「でっか……⁉︎」
「あんな、ガンダムのようなサイズのライダーがジャマトのスポンサーだったなんて…⁉︎」
そう、正しくガンダム。サイズで表すならガンダムやウルトラマンが近かった。
「相変わらずとんでもないデカさだな…」
「私やミッチーが正攻法では決して勝てないと思えるようなあの巨躯…場違いとさえ思えるわ」
その巨大な姿のままベロバは上空へ浮かび上がり、それを見た道長とクラウンは先の戦いでチラミを容易く捻ったその巨躯に変わらず驚かされていた。
そう、先の戦いでチラミに対してベロバが行ったことがまさに変身しての捕縛。その巨大さであればクラウンが真正面から挑んでなお勝てないと悟るのも無理はなかった。
「ああ! ベロバ様! おやめください! せっかく育てたのに!」
アルキメデルがたまらず悲鳴と懇願を上げる。
各シーズンでのジャマーガーデンの取り壊しは毎度毎度彼女の発案で行われてきた。
ちなみにライダーになったのは現代換算でここ数年のこと、なのでライダーとしてジャマーガーデンを取り潰すのはこれが初めてである。
とはいえこのサイズで空中からやる取り潰しなんて初見でも想像に容易い。なのでアルキメデルはやめてくれと叫んでいるわけである。
「要らなくなったら、また創り変えればいい♪ そうやって遊び場所にしてきたのよ、この世界をッ!!」
『FINISH MODE』
そうして空中でベロバはサイズに合わせて巨大に調整されたレイズライザーを操作しフィニッシュモードを起動。
それは、つまり────
「ッ!!??」
「マズいよ…⁉︎」
(あたしは経験したことないけど肌で分かる、今から来るだろうあれは途轍もない威力だって!)
────そう、必殺技を繰り出すということ。
このサイズで繰り出されるだろうそれは深く頭を捻らずとも、まるで経験したことがなくともただひたすらに危険だとアルキメデルだけでなく英寿が、キタサンが、この場にいる誰もが知覚するに容易かった。
「来るぞ、英寿!」
「備えてください、浮世トレーナー、キタさんッ!!」
そしてベロバが右腕に光を纏いながら落下し始める。自重+必殺技発動による加速で巨体らしからぬ速さでこちらへ向かい始めるベロバを見たジーンとデジタルは素早くレイズライザーを起動し、英寿とキタサンにもそれぞれの変身アイテムの起動を促す。
なので迷わず二人もそれぞれデザイアドライバーとレイズライザーを起動し、そして起動中のタイミングで────
『LASER VICTORY』
──────ハアアアアアッ!!!!!」
ベロバが地面に勢いよく着地し、そのまま右腕で地面を抉る。即ちレーザービクトリー発動。
その威力は端的に言って一同が想像していた以上に強大で────
「「「「「「「「「「「ッ…⁉︎」」」」」」」」」」」
英寿が、キタサンが、ジーンが、デジタルが、景和が、ダイヤが、祢音がシュヴァルが、道長が、クラウンが、大智が、リッキーが、アルキメデルが、この場にいた誰もが、もちろんこの場そのものが円形に広がるその威力の余波と衝撃に巻き込まれ────
──────フフフ…ハハハハハ…! ハハハハハハ…! ハハハハハハハ…♪」
終わった後に残っていたのは周辺を木っ端微塵に吹き飛ばし、静寂とジャマーガーデンを焼く炎の中で一人高らかに楽しげに笑うベロバだけ。
後に残るものは何も無く、はたして英寿達の安否がどうなったのか分からないほどに辺りは地獄絵図、惨憺としているのだった。