(社説)マイナ保険証 強行続ける姿勢 改めよ

社説

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 政府が、今の健康保険証の発行を来年12月でやめると閣議決定した。マイナンバーカードを使う「マイナ保険証」に原則一本化するが、「資格確認書」や「顔認証マイナカード」も併用する。現場の負担と混乱を招いた末の見切り発車と言わざるをえない。強引な姿勢を改めるべきだ。

 岸田首相は今月中旬のマイナンバー情報総点検本部で、現行保険証の廃止を進める方針を表明した。同時に公表された総点検結果では、マイナンバーと健康保険証情報などとのひもづけの誤りが計約8千件みつかった。別に判明した分とあわせ、誤登録は約1万6千件になる。

 マイナンバー推進に躍起になる一方で、正確な処理が徹底されず、発覚後の対応も後手に回っていた。旗を振ってきた首相や河野太郎デジタル相の責任は重い。それでも首相は「国民の不安払拭(ふっしょく)のための措置の進捗(しんちょく)状況」を根拠に、現行保険証廃止に踏み出すというが、肝心の不安そのものは払拭されたのか。十分な説明はないままだ。

 マイナ保険証をめぐる問題は、誤登録だけではない。混乱を招いた主因の一つは、昨年10月に河野氏が突然、現行保険証廃止を打ち出したことにある。保険証を「人質」にカード取得を事実上強制するに等しい転換だった。

 カードのない人が保険を使えなくならないか。認知症などで暗証番号を使いづらい人や、保険証を預かる高齢者施設はどう対応するのか。疑問が噴き出ると、政府は後出しで「対策」をひねり出した。

 マイナ保険証を取得しない人には最長5年有効の「資格確認書」を申請なしで送る。さらに、暗証番号のない「顔認証マイナカード」を導入し、希望者は誰でも、通常のカードに代えて取得できるようにするという。

 結果として、現行保険証に代えてカードや書類が3種類併存することになる。今後1年で十分周知できるのか。移行時に利用者の混乱や現場の負担をさらに招かないのか。疑問が拭えない。

 しかも「顔認証」版の機能は保険証や身分証だけで、ネットを利用する他の行政サービスには使えないという。河野氏はじめ、政府はカード普及を急ぐ理由に、こうしたサービスの利点を訴えてきたはずだが、矛盾しないのか。

 そもそも、現行保険証を残しさえすれば、こうした複雑で本末転倒した仕組みをつくる必要は生じなかったはずだ。期限ありきで廃止を強行するのではなく、現場の声に耳を傾け、保険証とカードのあり方を再考すべきだ。

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