慟哭Ⅰ :ジャマトグランプリ(ChapterⅣ)
名無しの気ぶり🦊「ぐすっ…」
「どうかしたのか?」
その頃、寺の境内で俯きながら泣く正太がいた。近くにいた英寿とキタサンは当然それ様子が気になり話しかけずにはいられなかった。
「お母さんがね、入院しちゃってて…。明日のお祭りで鬼から鈴を取れば、帰ってくると思ったのに…」
「そうか…」
「…お母さん、大好きなんだよね、正太君は?」
「うん。でも病気だから、明日のお祭りで鬼から鈴を取れば帰ってくると思ったのに…」
今回正太が寺に来たのはすずなり鬼祭りに参加するため、もっと言えばその祭のメインイベントである鬼に扮した人間とウマ娘数名のいずれかから鈴を取ればその時々の厄災を取り払えるとされている。
元々鈴はその神秘的な音色から古代より魔除けの楽器とし神事に使われてきた。
例えば西洋で言うならキリスト教旧約聖書の一つでありゼカリア書、その14章20には当時ウマ娘に鈴がつけられていたことが記されている。このウマ娘の鈴は主の聖なる者(コーデシューラヤフェ)というヤハウェのためのものであると示す文字が刻まれ風鈴のような形をしていたとされ、一種の魔除けの役割を果たしていたと考えられている。
聖なる物、魔を祓う物、それが鈴に抱かれる幻想的なイメージというわけである。
ゆえに病気もまた魔、この寺の鈴の加護を得ることで間接的にその悪しき力を取り除けるということ。
所詮風聞、イメージと言われればそれまでだが、この祭を信じ参加し一時でも気持ちが救われた者は現代人だけで見ても大勢いる。
逆に言えば何かしらの理由で祭が中止に追い込まれれば、精神的に疲弊する者や病む者は大勢出るというわけで。
ジャマトグランプリが、ベロバが鬼祭りを一時的にでも中止に追い込んだことで発生する被害とはそういうことなのである。
「…ああ、そうだな」
「…あたし達がなんとかしてみせる…ううん、なんとかするよ!」
それを思えばなんとしてもこのゲームによる祭への被害を防ぎながら祭を無事執り行わせるという意識は英寿とキタサンの中に強く芽生えた。
(母親が大切…奇しくも同じだな、俺と)
(お母さんが、家族が大切なその気持ち…トレーナーさんもあたしもよく分かるから)
何より母を、家族を大切に思うその意思は英寿もキタサンもよく理解できた。
英寿は言わずもがな、デザイアグランプリの先代ナビゲーターであり自身の母であるミツメと再会したいがためにここまで歩んできた。
母という存在への想いは人一倍。
キタサンは母もそうだが演歌歌手で父であるキタサン三朗や父の弟子達に可愛がられて育った。弟が生まれてからはその愛を自分も弟という別の誰かに向けるようになった。
家族という存在によって人間やウマ娘に育まれる思いやりや愛情、精神的な強さは決してバ鹿にできる物ではないとよく知っている。
なんとしてもこのふざけた遊戯を止めると強く誓うのだった。
「こうして また2人で戦う事に なるとはな」
まるで何かを演じるように道長の元にそう言いながらナイトがやって来る。ナイトが透に擬態してこともあってか、二人を歪めて映し出す水晶玉がこのやり取りがただただ空虚なものだと示しているようだった。
そしてナイトは透に擬態した自分の手を見る。
その傷に道長は見覚えがあった。
「思い出すよ。親方に拾われる前、二人でケンカ買ってたあの頃を──────
そう言ってナイトは自分のものでは決してない想い出をまるで自分のもののように振り返りだす。
『おいおい、なんだ? おめえら』
『ビビってんのか? おい』
『上等だ!』
『おう!』
当時の透と道長はよく同校や他校のチンピラに絡まれていた。
つっぱることが男のたった一つの勲章なんてある漫画のドラマの主題歌にあるフレーズのようなやんちゃな生き方を当時の二人はしていた。
「忘れたのか?」
「忘れるかよ…」
そう返しながら道長は内心複雑そうな表情を浮かべる。
透本人が今でも生きていてこれを言ったならともかく、言ったのは透に擬態したジャマト。
まるで虚しい、ただの嘘に過ぎないそれを聞いているだけなのだからそうもなるというものだった。
「今度こそぶっ潰そうぜ、仮面ライダーのやつらを。やられた仕返しだ」
この発言から分かるように『力を合わせて叶えよう』といい、『今度こそ』といい、透に擬態してる今回のナイトの願いは、今の道長と同じく全ての仮面ライダーをぶっ潰すこと。
透が故郷の皆のために抱いたでっかいランドマークを建てる夢は最初からインプットされていない。ちなみにその地元とは沢芽市。ユグドラシルタワーとは別に市の象徴となる建物を故郷の皆の協力と了解を得ていずれ建築したいと透は長い間考えていたというわけである。
「ミッチー、かつての親友と友情を育む気分はどう?」
「それにクラウンはそれ見てるとさぞかし腹が立ったんじゃない? うふふ♪」
ナイトが去ったのと入れ替わりにベロバが姿を見せる。このやり取りの当事者である道長、このやり取りの目撃者であるクラウンの内心を想像し、こんな無粋なやり取りを仕込んだ。
「…有毒(呆れた)。ほんと、ふざけた真似しかしないのね」
つくづくふざけた女怪だとクラウンは再認識する。こいつは現代はおろか未来の常識で見ても悪党なのだと何度でも理解させられる。
「ゲーム進行のために仕込むべき策、ミッチーが最終的にジャマ神に至れるようにできる真っ当な助力は幾らでもあるでしょうに」
思えばベロバはゲームマスターらしいことを何もしていないとクラウンは思う。
とはいえいつまでもそんなままでは道長に余計な被害が及びかねない。だから急かした、あくまで冷静に。
「ああ。くだらない話をする暇があったらゲームを攻略するアイテムでも用意しろ。ゲームマスターなんだろ?」
(ふふ、唔該晒。ミッチー本人も理解してくれてるなら渡りに船ね)
道長も自分の危機に直結しかねないようなベロバの性格には思うところがあったようで、自分が有利にゲームを進められるような支援をベロバに催促した。
ゲームマスターだからこそ公平にはする。いや、劇中のゲームマスター不公平な事する人達しかいなかったわ。
「あんた達やる気満々ね? フフフッ、お望みとあらばシークレットミッションを用意してあげてもいいけど♪」
「そういうのでいいのよ、そういうので」
(咄嗟に私が言ったのに反応したにしては随分合理的。伊達に商売人で慣らした頭じゃないってところかしら…)
そんな真意に気づいているのかいないのかは分からせないまま、ベロバはその意気や良しと道長専用のシークレットミッションを用意することを決意した。
クラウンも自分が急かしたにしてはわりと理想的なアイデアをベロバが打ち出したことに伊達にビジネスマンとして長年生きているだろう人物ではないなと感じさせた。
「ついでにぃ…クラウン、あんたのレイズライザーの制限を解除しといてやるわ」
「! それはつまり…」
サブサポーターの使用するレーザーレイズライザーは原則としてフィニッシュモードが封じられており、使用するには脳始めとした全身への負荷を承知で力ずくで解除するか、今回のようにサポーターの許可により解除されるかしなくてはならない。
「それで誰かを手にかけるも別の何かを為すもあんたの自由よ。せいぜいあたしを楽しませなさい♪」
(クラウン…ベロバのやつ、余計なことを!)
ベロバとしてはこれでクラウンが彼女の友人である他のサブサポーターらに止を刺そうが、はたまた他の目的に使用しようがどうでもよかった。気が向かないならまた封じればいいだけだし、この状態で刃向かわれても容易く御しきれる自信もあった。
そんなベロバにクラウンが傷つくような余計なことをしてくれてと道長は内心苛立ちながら場を後にするのだった。
「さあ、かみなりジャマト祭り、第2ターンの始まりだ! 思う存分、暴れておいで!」
それから少し時は過ぎ
ノリノリなアルキメデルの太鼓を合図に、かみなりジャマト祭り第2ターン開始。
ジャマトが叩く太鼓の音色で櫓1つが建つスピードは早く、5つ建つまでそう時間はかからないと思えるような早さだった。
「やめろ!」
「こんな暴挙はもう許しません!」
当然それを無視しておくような連中はデザイアグランプリ側の現代人にはおらず、変身済みの景和と変装済みのダイヤが駆けつけた。
「お祭りは町のみんなが楽しみにしてるんだよ!」
「これ以上鬼祭をめちゃくちゃにさせない…!」
祢音も変身を、シュヴァルも変装を済ませ駆けつける。人々の由緒正しき日常を守りたいという想いは二人も同じだった。
「よう」
「二人と…そこのジャマトさんを止めに来ました!」
同じころゲームエリアの別区画を訪れた道長とクラウンとナイトの前に、英寿とキタサンが現れる。二手に別れて来るだろうと予想をつけて待ち構えていた。つまりジャマーガーデンでの一件とは奇しくも逆になったわけである。
「ギーツとマトイ1体か。数は、こっちに分がある」
「悪いけどここで倒されてもらうわよ。浮世トレーナー、キタサン」
とはいえ数的優位はまだジャマト側にあり、その意味では待ち構えていた現状であっても不利と言えた。英寿とキタサンが組んでいるとよほどでないかぎり手痛い目には合わない可能性が高かったがそれでもだ。
「そいつは困るなサトノクラウン」
「! やはりデジタルさんと別れて来たわね、ジーンさん」
と、そこに現れたのはジーン。窮地にぴったり登場した。
けれどもこれはクラウンも予測していたのか、なんならデジタルと別れてやってくるところまで読めていた。
「彼女にはタイクーンやラディア達のほうに回ってもらった。ということで…フェアに3対3と 行くか♪」
「ジーンさん…ありがとうございます!」
そう、デジタルには景和達のほうのサポートに回ってもらっている。
こちらよりサブサポーターの数が多い向こうには戦い方のサポートを考慮してサポートサポーターなデジタルがいたほうが都合が良いだろうという判断だ。
そしてこの状況なので、味方側のライダーが一人でも多くいてくれたほうが嬉しいのはキタサンに限らず間違いなかった。
「いいさ、推しとそのサブサポーターを手助けするのは至極当然だからね」
ジーンとしてもあくまで当たり前な行動の延長線上のそれとしてここにいる。
「上等だ」
「旗鼓相当(ある意味互角)、けどつまりはようやく数の上で対等になっただけだもの」
これで互いに数の上では互角だが、だからといって負けてやるつもりは毛頭なく、なんならまだ数しか互角じゃないとさえジャマト側は考えていた。
「祭りを邪魔させたりはしない」
けれどそんなことは今の英寿には然程気にならず、ただ鬼祭りの邪魔は決してこの3人にさせないという気持ちが頭を支配していた。
端的に言って怒っていた。正太の母に会いたいという気持ちに強く共感できたから。
「お祭りはそこにいる皆が笑顔に、幸せな気分になれるイベント。…たとえ誰であってもそれを壊させたりしない!」
「あたしがかつて仲良くした人達が相手でも!」
『『『『(ZIIN)(MATOI)SET』』』』
キタサンはこの場の面子の中で誰よりお祭りという文化に詳しく好きな自信があるぶん、それをぶち壊そうとする今回のゲームにはずっと怒りの念を抱いていた。
ゆえに敵が道長とクラウンという普段なら仲がいい、今だってキタサンとしては仲がいいと思っている相手であっても容赦はしないとばかりに、今までと変わらないかそれ以上の意思の強さを放っている。
英寿とジーンと合わせて変身用アイテムを組み合わせる手にも思わず力が籠っていた。
「キタサン…」
(ああ…それでこそよキタサン! 私が認めた貴方はそうやって周りのためにこそ輝く!)
今は敵対してしまっている身ながら、自分の同期のその曇りなき眼、その迷いなき誰かのための振る舞いにかつてサトノクラウンというウマ娘が友と認めたキタサンブラックというウマ娘とはかくある者だと再認識でき無性に嬉しく思えていた。
こんな状況でなければ、柄にもなく思わず近寄って抱きしめて頭を撫で撫でしてあげたいと思う程度には今のキタサンに対しクラウンは誇らしげに感じていた。
「「「変身(変装)!」」」
そうこうしている間に英寿・キタサン・ジーンはそれぞれの構えと共に変身あるいは変装を開始。
『DUAL ON』
『GET READY FOR BOOST & MAGNUM』
『『LASER ON』』
『ZIIN LOADING』
『MATOI LOG IN』
鳴り響く未来式変身・変装音声。粒子状の物質が徐々に徐々にアーマーを成し3人の体を覆っていく。
「オラ!」
「らあッ!」
「係(それ)ッ!」
そのままギーツ/英寿はバッファ/道長と、マトイ/キタサンはリベラ/クラウンと、ジーン/ジーンはナイトと戦闘開始。
「感動の瞬間だね。ギーツとバッファ、マトイとリベラ。因縁のライバル対決、お互い仲間を従えて勝つのはどっちか」
ジーンはこんなことを戦闘中に呟ける程度には余裕を持った戦い方を繰り出せていた。
シンプルな見た目に反して搭載されたスペックや機能は敵に容赦がないレベルで高クオリティなので、この程度の相手なら難なくあしらえるのである。
「仲間だと思った覚えは無いけどな」
「そう言うなって」
とはいえ英寿はジーンのことを仲間とも気安い仲だとも思ったことは実はない。デジタルはトレセンでちょくちょく頼ることがあったので普通に仲がいい。
担当でたまに、なんなら一時期ずっと自宅に泊めていたキタサンに関しては言うまでもなく。
「トレーナーさんもあたしも頼りにしてます、ジーンさんっ!」
「ありがとう、俺も俺の役割を頑張ろう」
とはいえ英寿は口では悪ぶりながらも共闘した相手に対し徐々に徐々に仲間意識を抱いていく人間だということはジーンは解っていた。
キタサンも英寿なりの照れ隠しの部分はあるんだろうと察しながらジーンにそんなことを告げ、ジーンもそれを素直に受け止めた。
「やるぞ、道長」
「…ああ。クラウンもやるぞ」
「OK呀、もちろんよ」
それを見ていたナイトが何を思ったか道長に合わせるように告げ、擬態ゆえにあまり響かなかったけれど道長は納得しクラウンにも合わせるように告げる。
「「オラァッ(くらいなさい)!」」
「「うわっ⁉︎」」
そのまま戦闘が再開され、ジーンがナイトを引き続き振り回すなか、道長は英寿に頭突きからのぶん投げ、クラウンは地面近くに設置したカード型光弾の背面を繋げての引っ掛けでキタサンを脚から勢いよく宙に飛ばしてみせる。
『SECRET MISSION CLEAR』
「追加アイテムか」
それにより戦いの中、道長はベロバが設定したシークレットミッションをクリア。
『プレイヤーとサブサポーターで合わせて至近距離からそれぞれライダーと擬似ライダーに攻撃をヒットさせる』か。
飛び道具を持たず、かつ担当ウマ娘であるクラウンとはそれはもう息が合う道長には存外でもなく簡単なミッションだったと言えた。
「…というかこいつは!」
(ギーツやタイクーンが使ってたやつ…サポーター特権か)
『DUAL ON』
『GREAT』『ZOMBIE』
『READY FIGHT』
ミッションボックス内には、コマンドジェットバックルとコマンドキャノンバックルが1セット。躊躇わずジャマトバックルを外しコマンドジェットバックルをセット、ゾンビレイジングフォームに変身。右手にゾンビブレイカー、左手にレイジングソードを構える。
「オラァ!」
「ぐっ…相変わらず重いですね!」
しかしレイジングフォームになって早々、けん制にレイジングソードを英寿に投げつける。
けれど当たらないのを確認した道長はそのまま駆け出し英寿にキックを繰り出して追い詰め、ついでに拾い上げたレイジングソードで英寿を、ゾンビブレイカーでキタサンを各々の武器越しに斬りつける。
「ミッチーらしいわね…」
(でも、なら次にどうするかも読めるってものよね)
それを見ていたクラウンは自らのトレーナーの変わらない戦い方に心配と安堵を同時に抱きつつ、ゆえにこそ次に来る手も予測することは容易かった。
えぇ?
「貯まらねえのか…なら二刀流だしこうすりゃいいだろ!」
「自傷⁉︎」
そう、自傷行為。別にコマンドキャノンバックルがセットされたリアクトメーターのゲージを一定の閾値に達させるためには何を切ってはいけないということはなく、ならば自分を切ってもOKということ。必要とあらば、否必要でなくても自分を削る戦い方をする道長ならばレイジングフォームになったならいずれ必ず自傷チャージを選択するだろうとクラウンは読めていたのである。
『FULL CHARGE』
「で、交差させたと。考えなしではない、か」
そして次にゾンビブレイカーとレイジングソードの刀身を交差させるようにぶつけ、これによりチャージが完了、即ちコマンドキャノンバックルが使用可能となる。
初見のフォームながら彼なりに使い熟しているその様に英寿は戦闘中ながら感心させられていた。決して見下しているわけではなかったけれど、それでも吾妻道長という男の戦闘に関する才を低く見積もってしまっていた。
(相変わらず我が身さえ躊躇わず削るような危なっかしい戦い方だけれど…でも目が離せない。それが吾妻道長、私のトレーナーよね)
予期してはいたけれど、それでもなお己が血を肉を骨を、全身を削るような荒削りで、されど合理的な戦い方に毎度ながら少し自分を思い出してしまうクラウンは、今回もまた目が離せずにいた。
『TWIN SET』
『TAKE OFF COMPLETE JET AND CANNON』
『READY FIGHT』
その間に道長は手早くゾンビバックルを取り外し代わりにコマンドキャノンバックルをセット。軽快で疾走感のある電子音が高く数秒鳴り響き、その合間にレバーを開き戻す。
すると見覚えのある輝きが道長の全身を包み込み、後にはバッファコマンドフォームジェットモードとなった道長が残っていた。
──────ッ!」
「くっ!」
「トレーナーさん⁉︎」
瞬間、一陣の風のように何かが英寿を攫う。
空中においてはブーストやニンジャフォーム以上に素早い動きと戦闘を可能とするコマンドフォームジェットモードは今回もまた同様で、それをかつての景和の戦闘を通してよく知っていた道長は同様に韋駄天のように早く対象に迎えたというわけである
「お前はいらん!」
「げうッ⁉︎」
悲鳴から分かるように英寿に飛びついていたキタサンだが、それに気づいた道長により空中戦から締め出されてしまった。
とはいえあくまで英寿以外に対しては強い闘志を燃やすわけではない道長のこと、地面に限りなく近づいてからキタサンだけ腹から蹴り落としたのである
「空中じゃさしものスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズも無力かァ⁉︎」
「チッ…!」
そのまま道長は、英寿を空中でいたぶる。殴ると蹴るを繰り返す。
なおレイジングソードはキタサンを蹴り落とした際に近くに投げ捨て、それを読んでいたクラウンが光弾の背面を介して回収済みだった。
「くっ、空中であんなに高いと狙いが定まらないっ!」
それを黙って見ているなんてキタサンにはできず、どうにか英寿を助けようと地上からレイズライザーバズーカモードで砲撃を何発か道長目掛けて放ってみるも絶妙にリーチが足りそうで足りず、見事自身が思い描いた攻撃の軌道上に道長を捉え砲撃を迫らせられても直前で回避されてしまう程度にはジェットフォームの速度が速く、砲撃の速度が足りない。
(フィニッシュモードならワンチャン…でも使えないし)
ただそれは通常攻撃ならという枕詞が付く。
レイズライザーに封じられたフィニッシュモードの機能を解除すれば使用可能となる必殺技、これであれば通常攻撃の優に倍の速度であるため、少なくとも今よりは命中する可能性が確実に上がる。
(未使用の機能、闇雲に使えばどうなるか分かったものじゃないよね…)
「ぐっ⁉︎ おまけに…」
「輕鬆? よそ見なんてしている場合じゃないでしょキタサン!」
しかし疲弊したこの状況でまだ一度も使ったことがない機能を許可をもらって使ったとしても如何な負荷が襲ってくるか分からない。自力でそれを解除するならなおのこと。
そう思えばその手は躊躇してしまったし、何より悩んでいればクラウンの攻撃をくらってしまう。使うか使わないかはっきり決めなければ命取りな状況だった。
「ぐぅッ⁉︎」
「見たかギーツ!」
その間、道長はというと高度から英寿を地面に落とす。生身でなく、加えてどうにか受け身を取れたものの、それなりに全身が軋んだ。
「ギーツ! お前を超えてみせる!」
「やれやれ…!」
道長はそのままクラウンからレイジングソードを捥ぎ取るように受け取り、振り翳しながら英寿に迫る。
『FINISH MODE』
「うそっ、サブサポーターは使えないはずじゃ⁉︎」
(まさかベロバが解除したの⁉︎)
レイジングソードを手渡したクラウンは澱みなくレバーを操作しフィニッシュモード起動。
まさか使えるなんて思っていなかったキタサンにはただひたすらに脅威に映って。
(でも…殺しはしないわ)
「これでチェックメイトよ、キタサン!」
瞬間、数えきれないほどのカード型光弾がキタサンを囲うように配置され、そのどれもが背面を向いている。そうして自身の前に配置されたやはり背面をこちらに向けた光弾目掛けてフィニッシュモードにより高まったビームを解き放つ。
ビームはキタサンの前に配置された三つの光弾へ向かうように背面を潜りながら加速していく。光弾同士が擬似的な粒子加速器の役割を果たしていた。
そうしてビームは三方から姿を現しキタサンに向かう。
英寿とキタサンはまさに窮地に追い込まれてしまったのだった。