我ら地獄の音楽隊③

我ら地獄の音楽隊③


 どうして僕たちはこんなところに来ているのだろう……。

 KBは船の中で逆さまになりながら考えた。

 この船に乗った、それまでは良い。色々とコンソールを動かしてエンジンを点火させた、そこまでも良い。だがそこからが問題である。

 勝手に目的地を設定して勝手にとんでもない速度でカッとんで勝手に惑星開発企業の所有する小型惑星にぶっ刺さったのである。これ俺らのせいになるのかな?たぶんなるよなぁ、逃げてぇなぁ。

 そんなわけで途方に暮れていたKBであるが、そんな事はお構いなしとばかりに受け止めてくれたシャーロットが暢気に言う。

 「とりあえず、外に出てみましょうか」

 念の為に持っていきましょ、と機械鉞を担いでのしのし歩いていくシャーロット。KBは情けなく足をプルプルとさせつつその後を追い、ひょこひょこと廊下を歩く。

 途中でんもう!とばかりにぷりぷり怒ったシャーロットに股間を一撫でされ、股間と共に背筋が伸びる。おほう。

 「シャキッとなさいまし!私の船長さんなのですから!!」

 そうは言ってもシャロえもん、状況がわけ分らん過ぎておいちゃん困っちまうよ。

 そんな言い訳をするが、シャーロットは手を交差させてばってんを作る。船長たるもの、どんな状況でも虚勢ぐらいは張って貰わねばとの事だ。

 「何より私の旦那様なのですから、ドーンと胸を張って居て貰わねば!」

 ムンッ!とばかりに気合を入れるシャーロットにじゃあがんばるかぁ、と足腰に力を入れなおすKB。腰の熱線銃と電磁鞭(マグネウィップ)の所在を確認し、いざと扉に向き直る。

 さぁ行くぞ!と気合を入れ、ドアロックを解除しようとしたその瞬間である。

 パーパーラパッパーパパーパラパッパーパドンガガガッガッドンガガガッガッピープーペードォーン

 なんとも気の抜けた音楽が流れ始めた。

 思わずずっこけそうになるKBの首根っこを掴んだシャーロットは、まぁ、と船内を見回す。

 「出発前の景気づけでしょうか?」

 景気づけでこんなテキトーで気の抜ける音楽を流して欲しくは無いのだが。そんな事を思いつつシャーロットに礼を言い、KBはもう一度姿勢を正した。

 この船が何なのかすら良く分からないが、兎も角。まずは外の状況を確かめねばなるまい。

 ドアロックを解除。プシュウ、という音と共に扉が開き、外の景色が———

 「あらやだ、岩ですわ」

 あらやだ、嫌ですわみたいなニュアンスで岩ですわじゃないのですわ。

 どういう突っ込み方をしたのか、眼前には岩。或いは硬い地面としか言いようがない光景が広がっていた。うーん、これはさてどうしたものか……と考えていると。

 「船長さん、少し横にズレて頂けますか?」

 シャーロットの要望に、KBはずいと身体を横にずらした。

 「えいっ☆」

 朗らかな掛け声。空を切る音。腰の入った完璧な右ストレート。それは扉の前に鎮座する物体に突き刺さり、罅を入れ、叩き壊す。

 轟音と土煙。眼前に空間が出来た。

 「よし!それではこれで進んでいきましょう!!」

 マジッスかぁ~?KBが何かを言う前に、シャーロットはガンガン眼前の障害物をぶん殴り進んでいく。なんてこったいMr.ドリラーもといMrs.クラッシャー。これで素敵なお嫁さん目指してるってんだから驚きだぜいやケツのデカさと乳のデカさは嫁さん適正SSR。

 暫くも砕き散らかすと、どうやら船はこの星の地下ドッグか何かに突っ込んでいたらしく、開けた空間に出た。見上げると突き刺さった船の船首、黄金像が音楽と共に口を開閉し歌っているかのような仕草を見せていた。

 「まぁ!歌う船ですわ船長さん!可愛らしいですわね!」

 黄金像が歌うのはむしろ不気味では?そう思いつつ、KBは地下ドッグの端から端までをササッと確認し……発見する。

 ……あの船は……自分たちに騙し討ちを仕掛けたのは偽装船!!

 シャーロットにちょいちょいと招集をかけ、船を見させる。途端にシャーロットの顔も険しく、そして悪い顔に変わっていく。こんな状況に来たら君ぃ、そりゃあ宇宙のアウトローとして……ねぇ?

 「逆襲ですわ!ボッコボコにして差し上げましょう!!」

 よく言ったそれでこそ我が船の船員よ!身体もデケェ乳もデケェケツもデケェ、そして肝っ玉もデケェと来た!!君にDKSGシャーロットの名を与えたいよ!

 そういうわけで……とKBは周囲を見回し、俄かに人が集まる気配を感じ取る。此処が普通の惑星開発企業の地下ドッグなら気にもしないが、あんなのが泊っているのだからたぶん何かアレなところなのだろう。

 ぶっ壊してヨシ!とKBは自分を納得させ、叫ぶ。

 ——————GO!!シャーロット!!GO!!

 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!」

 シャーロットが獰猛な笑みを浮かべ、機械鉞のエンジンを点火する。集まり始める黒服の男たちを、シャーロットの一振りが薙ぎ払う。

 KBも地味にバチュンバチュンと熱線銃を撃ち、偶に電磁鞭で逃げたりぶっ叩いたりしていく。だが暴れに暴れるシャーロットの破壊活動は次第にドッグの壁さえも突き破り————

 「—————げえええええ!?『流星』のシャーロットォ!?」

 「……何処かでお会いしましたっけ?」

 画して、役者は揃うのである。後に「ブレーメンテス海賊団」を名乗る宇宙海賊、その初期メンバーが集結した。

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