歴戦のゾイド
「そりゃあ最初はね?おじさんもちょっと迷ったんだよ。ただでさえアビドスには余裕が無いし、ゴルドスなんて大っきいゾイド直せるような施設もないし。でもさ、あんな怪我でここまで歩いてきて、それを見捨てるのも可哀想だし、みんなで出来る限り修理しようって。今となっては修理して良かったって思うよ〜。この子大人しくて賢いし、シートも広くてふかふかで、お昼寝に最適なんだぁ。おまけに意外とケンカも強いんだよねぇ。ゴルドスって格闘戦は苦手だったはずなんだけど…。歴戦のゾイドってことなのかなぁ?」
(アビドス高等学校アビドス廃校対策委員会委員長 小鳥遊ホシノの発言記録より)
アビドスの学区の砂漠化は著しく進んでおり、それは学校内に足の踏み場もない場所を作り出してしまうほどである。しかし、そんな場所に一体どんな価値があるのか、不良生徒達がゾイドまで使って侵攻してくることが度々起きていた。今日もまた、ヘルメット団を名乗る集団がアビドス高校に攻め入っていた。
「なんでそうまでするかなぁ……」
ホシノは欠伸をしながらゴルドスのコックピットの中で呟いた。瞬間、並走しているアヤネのグスタフから「ホシノ先輩!集中してください!今はノノミ先輩もセリカちゃんもいないんですよ!」と通信が飛ぶ。
「わかってるよぉ」
ノノミはアイアンコングのメンテナンス。セリカはサーベルタイガーに乗り早朝からバイトに出ている。二人とも長引いているらしく、まだ戻ってきていない。今アビドスにいるのはシロコのコマンドウルフ、アヤネのグスタフ、そしてホシノが今乗っているゴルドスだ。昼下がりのこの時間に、これだけの武装集団がやってくるのは珍しく、しかも相手は二手に分かれていた。こちらの戦力が少ないのを察して戦力を分割したのか、それとも元々知っていたのか、それはわからない。
片方のゾイド達はシロコに任せておけばいい。彼女のことだ。数分もあれば追い返して戻ってくるだろう。問題はそれまでこちらが耐えられるか、ということだ。グスタフは元々武装はなく、肝心のゴルドスの武装もほぼ弾切れ。半月前から初めて、昨日ようやくゴルドスの修理が一段落し、こうして動けるまでになったばかりだというのに……。
「うへ〜、ツイてないねぇ」
だが、それでもやらなければならない。ホシノは操縦桿を握り、背部のビームガンの標準を合わせた。急遽補給したのでエネルギーは半分も無いが、威嚇くらいにはなるだろう。
「来た……!」
アヤネの緊迫した声が聞こえる。現れたのは茶色カラーのコマンドウルフ。背部にロングレンジキャノンを搭載したのが何機か見える。更に、随伴してヘルキャットもいる。ちょっとした小隊並みの数だ。思ったより数が多い。こちらは非武装のグスタフと殆ど弾切れのゴルドス。さすがのホシノもどうしたものかと顔を歪めたが、その時、ゴルドスが妙な反応をした。
「ん、んん……?」
操縦桿から伝わるゾイドの感触。ゴルドスが低く唸る。やる気だった。圧倒的に不利な状況であるにも関わらず、だ。それを見て、コマンドウルフのロングレンジキャノンが火を吹く。アヤネはグスタフを咄嗟に動かし、ゴルドスの前に出て、装甲で砲撃を受け止めた。砂煙が舞い上がって視界が妨害されると、ホシノはゴルドスのやる気に任せるように進ませた。ビームガンを発射し、砂漠を踏みしめて猛然と突進していく。アヤネはそれを見て血の気が引いたが、直後に唖然となった。
接近してきたゴルドスを迎え撃つように牙を光らせるコマンドウルフだったが、瞬間、物凄い衝撃を受けて横に吹き飛んでいた。
アヤネは目の前で起きたことが信じられなかった。大型だが、鈍重で近接戦闘では小型ゾイドにさえ遅れを取るとされる、あのゴルドスが、格闘戦に優れるコマンドウルフを尾の一撃で吹き飛ばしたのだ。他のコマンドウルフが一瞬怯んだが、猛然と襲いかかる。しかし、ゴルドスは格闘技のカウンターのごとくコマンドウルフの格闘をいなし、体当たりや尾のスパイクによる一撃でコマンドウルフを難なく蹴散らしていく。ヘルキャットが側面に回り込んで飛び掛ろうとしたが、それに気付いたアヤネがグスタフを突進させ、体当たりでヘルキャットを弾き飛ばす。残った一体のヘルキャットは、ゴルドスの牙に噛みつかれて軽々と振り回され、立ち上がろうとしたコマンドウルフに投げつけられた。
たちまち撤退していくヘルメット団のコマンドウルフとヘルキャット。ホシノはそれを追わず、コックピットの中で感心の声をあげていた。
「うへ〜、キミ強いねぇ。ホントにゴルドス?」
「え?ホシノ先輩がやったんじゃ……」
「いやいや、おじさんなぁ〜んにもしてないよ。全部この子がやっちゃった」
「はぁ……」
やがて、シロコのコマンドウルフの足音も聞こえてきた。やがて合流するだろう。……さて、この状況、どう説明したら信じてくれるか、とホシノは再び欠伸をした。