アメリカが安保理で拒否権行使するも、ガザ停戦求める圧力高まる=ボウエンBBC国際編集長

ジェレミー・ボウエン、BBC国際編集長(エルサレム)

Palestinians recover a wounded person from the rubble of a destroyed house following Israeli airstrikes, in Deir Al Balah, central Gaza Strip, 8 December 2023

画像提供, EPA-EFE/REX/Shutterstock

アントニオ・グテーレス国連事務総長は8日午後、パレスチナ自治区ガザ地区での戦いが「占領下のヨルダン川西岸地区やレバノン、シリア、イラク、イエメン」といった周辺地域に波及していると言及し、ガザの状況が「国際平和と安全の維持を深刻に脅かす」と述べた。

事務総長が国連憲章第99条を発動し、安全保障理事会に対し人道的な停戦を求めるよう要請したことで、8日に安保理の緊急会合が開かれた。グテーレス氏は現状について、安保理の対応を要する緊急事態だと考えたからだ。

イスラエル政府は、国連を毛嫌いしている。そして、事務総長を毛嫌いしている

ガザ情勢に関するグテーレス事務総長の表現を、イスラエル政府は拒絶し、むしろ世界平和を脅かすのはグテーレス氏の方だと反論する。今すぐ戦いを終わらせようとすることで、イスラム組織ハマスの破壊を目指す自分たちの使命を中断させようとして、ハマスににおもねっているのは事務総長だと。

グテーレス氏に対するイスラエルの悪感情は、事務総長のもうひとつの発言でさらに悪化したはずだ。グテーレス氏はリスクの一つとして、ガザ情勢があまりに悪化すれば、膨大な数のパレスチナ人が境界を越えてエジプト領内へ移動するだろうと指摘したからだ。このことをエジプト政府は、強く心配している。

「ガザの人道支援体制が完全に崩壊する」おそれが極めて高いと、事務総長は強調した。そしてパレスチナ側は、それこそがイスラエルの望むところなのだと言う。すべてのパレスチナ人をガザから追い出すことが、イスラエルの狙いなのだからと。

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イスラエル政府は、報道関係者が外からガザ地区に入ることを認めていない。そのため、私はガザで直接、取材できない。けれども、目にしている写真や動画の内容、そしてさまざまな人から聞いた話の内容に照らせば、事務総長の言っていることはかなり正確なように思える。

どのような尺度で測るとしても、ガザにいる民間人の状況はとてつもなく悲惨だ。情け容赦ない軍事作戦にさらされているのだ。イスラエルは民間人の命を守るためにできる限りのことはしていると言うが、民間人を人間の盾にしているハマスにこそ責任はあるのだと主張する。

動画説明, 国連事務総長はガザの壊滅的状況を警告、アメリカは停戦決議案に拒否権

国連では、アメリカ代表がいつも通り、停戦を求める安保理決議案に拒否権を行使した。多大な人命喪失を心配する立場からすると、空虚な対応だ。イスラエルは交戦法規を順守し不要な民間人の死亡を避けると言っているのだと、アメリカは主張する。ただし、イスラエルの言うこととやることの間には溝があるとも、アメリカは言う。

事務総長は、今回もおそらく拒否権で否決されると承知の上で、今回の安保理採決を求めた。そのねらいは、時間を早送りすることだったのだろうと私は思う。つまり、アメリカがついにイスラエルに「もう十分だろう。もうたっぷり時間をかけて、たっぷり人を殺したのだから、もう停戦の時だ」と言わざるを得ない、その避けがたい時が来るのを早めようと。

私が話をした外交官の中には、イスラエルにはあと1カ月ほど猶予を与えるかもしれないと話す人たちもいた。おそらくグテーレス氏は、それをさらに早めようとしているのだと私は思う。国際社会の圧力を高めることに加え、アメリカに恥ずかしい思いをさせることで。アメリカが自分たちの今の立場は日に日に維持できなくなり、これ以上は続けられないと思うように。

その圧力は今日、いっそう高まった。イスラエル国防軍(IDF)が大勢のパレスチナ人男性を拘束し、下着姿にしてトラックで連行する映像が明らかになったからだ。戦争の残酷な姿だ。ソーシャルメディアに流れる地元情報によると、拘束された男性は700人に上るかもしれない。

動画説明, 即時停戦かイスラエルによる支配か 人道援助届かず記者も半裸で拘束されるガザ

男性たちの家族を含む地元情報によると、男性たちは避難していた国連運営の学校で襲撃され、拘束された。逃げようとした人たちは殺されたのだという。

さらに昨日出回った別の恐ろしい動画には、男性たちが拘束されたのと同じ地域で、国連学校の近くだという路上で、6人が遺体となって倒れていた。そのうち1人は血まみれになって、白旗の上に倒れていた。おそらく本人が白旗を掲げていたものと思われる。

IDFは、誰が容疑者で、誰が10月7日の悲惨な攻撃の責任者なのか、把握しようとしているのだと説明する。そして、自分たちの行動はすべて、紛争に関する国際法に沿ってのものだと述べている。

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しかし、イスラエルのすることにほとんど共感しない人や、ガザ地区での甚大な殺害の規模のせいで共感できなくなった人にとって、遺体は語りかけている。これもまた、イスラエルがいかにパレスチナ人の尊厳と健康を、どうでもいいと思っているかを示しているのだと。

この地域はもうかなり寒い。なので動画で見たように、下着姿で、中には目隠しをされて、中には両手を後ろ手に縛られて、そうやって道を歩かされるのは、疑いようもなく不快なはずだ。

避けられないことなのだと、イスラエルは言う。かなり野蛮だと、それ以外の人たちは言う。