我ら地獄の音楽隊①

我ら地獄の音楽隊①


 「離せンのクソ変態どもがぁ!!!」

 「ぐおっ!?」

 バキッ、という骨に響く打撃音と共に黒服が一人崩れ落ちる。即座にその下手人、「SSP」マザクラ・メグミの腹に別の黒服の拳が突き刺さった。

 「がっ……ぼっ……!!」

 「このクソアマ……手足斬り落としてやろうか!?」

 「ぐご……やっ……でみろ……ボゲッ!!」

 腹部に重い一撃を入れられたメグミは、それでもギロリと睨んで吐き捨てる。

 彼女を拘束する黒服たち……「BB海賊団」の構成員たちはその視線を受け手に込める力を強めた。

 「づっ……!!」

 「……抵抗、しない方が良いよ」

 ぼそりと呟くように言葉を発した何者かに視線を向ける。

 「痛いだけだから」

 そこには白い髪の毛を整えもせず伸ばし、恥ずかしがるでも無く裸体を晒した少女が居た。

 縫合の痕跡が見えるその右目は青白く光り、どうやら義眼である事が伺える。よくよく見れば手足も乱雑な裂傷の跡が見られるところから先がサイバネ置換されているようで、義手義足である事が分かる。

 その少女を見て、メグミはより一層その身に怒気を孕んだ。

 「テメェら……こんな子供に何してんだ!!あ゛ぁ!?」

 「何してんだって……なぁ?」

 猛るメグミの姿をきょとんとして見た黒服は、次いで周囲と視線を合わせ、プッと吹き出して笑う。

 その耳障りな音に、より一層メグミの怒りに火が点いた。

 「何笑ってんだ人でなしども!!」

 「だってお前、こんなトコでどんな扱い受けるなんて聞くほどの事か?」

 「そもそも何かしたのは客だ客、俺たちは何もしてねぇよ」

 ははははは、と笑う声が響き、メグミは目を剝くほどに瞳を開いた。

 HAL-01の表情からは、感情の動きは読み取れない。少し俯き、何処か虚空を見つめているかのような顔。

 その背後から進み出る者が一人。その顔を確認し、メグミは顔を歪ませる。

 「ブランチ……!!」

 「ハァイ!お初にお目にかかるね、招かれざるお客人。私の顔を知って頂いていて恐縮だよ」

 赤い肌に六本の指。くるりとした金の癖毛は頭に乗っているだけのようにちょこんとしており、身を包むスーツは薄暗いこの場所に似つかわしくないほどに白く輝くような色合いをしている。

 背丈は低く、何処か「おぼっちゃん」といった雰囲気のあるその男は、しかし顔面に子供では決してあり得ないだろう粘ついた笑みを浮かべていた。

 ブランチ・ブ・ローチ。この海賊団の首魁である。

 「しかしSSPの情報部は中々優秀のようだね。HAL-01の防衛を潜り抜けて情報を掴むとは……」

 「悪事なんざ何時かバレんだよボケ!好き勝手やってりゃあなぁ!!」

 「ハァイ!確かにその通り!反省しているよ、大変にね!」

 メグミからの罵倒に大きく頷いたブランチは、指を鳴らす。HAL-01の操るガードロボットが一台前に進み出ると、その寸胴めいたボディを開帳した。

 中には無数のアンプルや様々な器具……そのどれもが、メグミがこの場所の内部で使われていたのを見た、碌でもないものばかり。

 「………ッ!!!」

 「私は大いに反省している!HAL-01の才能を手に入れて調子に乗っていたのは確かな事だとも!!」

 だから。

 「君の事は、キッチリ操り人形にしておきたいんだよ。マザクラ・メグミくん」

 ただ失踪するだけならば罪の自白になる。可能な限り穏便に、そして自分たちには不利益が出ないように。

 であれば、簡単な話だ。「虚偽の報告」をさせればいい……どんな手を使っても。

 「なぁに!大丈夫さ!気持ちいいだけだ、君は気持ち良さに流されて……全て、私たちにとって都合の良いお人形さんになる」

 「……下衆が」

 「ハァイ!そうじゃないとこんな事をしていないよ!それにしても絶対に洗脳何かされない!とかは言わないんだねぇ、もう心折れてる?」

 煽るように言うブランチに、歯を鳴らすメグミ。ガードロボットの内部からアンプルを一つ取り出し、その首元へ………

 「……?待って、ボス。何か————」

 HAL-01が全てを言い終えるその前に。

 轟音、振動。

 「何か」が、その場を揺るがす勢いで突撃して来たのである。




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