第13回小説現代長編新人賞を受賞した神津凛子のデビュー作「スイート・マイホーム」が完全映画化。「家」を中心に様々な思惑と怪異が折り重なる、一筋縄ではいかないストーリーの映像化に挑んだのは、俳優であり、初長編映画作『blank13』が国内外の映画祭で8冠を獲得した監督・齊藤工。主人公・賢二は、連続ドラマ『臨床犯罪学者 火村英生の推理』で監督とバディを組んだ窪田正孝がつとめる。
齊藤監督×主演・窪田正孝のインタビューを8月31日発売の『SCREEN+Plus vol.86』より先行でちょい見せ!
(撮影/増田慶 取材・文/よしひろまさみち)

――俳優としての共演経験があるお二人ですが、監督と主演俳優という立場では初めてですね。

齊藤 はい、そうです。窪田さんにお願いする経緯に関しては、そもそもの始まりからご説明しますね。コロナ禍に入る前、2019年ごろからこの企画が始まりましたが、まずキャスティングなどを考えず、フラットな気持ちで原作を拝読しました。そのとき感じたのは、この役は演じられる俳優が非常に限られていること。それと同時に、考えていないはずなのに、不思議とこの主人公を窪田さんを想定して読んでいたんですよね。実際、撮影中の現場はもちろん、仕上げの段階でも窪田さんの画力の強さや表現力に助けてもらいましたので「窪田力」あってこその本作といっても過言ではないくらいだと思います。

窪田 僕としては、工さんが監督する作品にお声かけいただいたというだけで、純粋に嬉しくて飛び込ませていただきました。最初は、工さんが監督していることに不思議な感覚はあったんですが、そのちょっとした違和感もこの現場では逆に心地よくて。今回は共演者ではなく、監督というポジションである工さんが、広い視野をもって俳優を自由に演じさせてくれたので、今まで感じたことのない芝居ができた気がします。何度もご一緒していることもあって、心の距離感が他の人とはちょっと違うのだと思います。

――小説の映画化ではありますが、窪田さんは監督からなにか参考になりそうな作品をおすすめされました?

窪田 特に言われなかったですね。でも、工さんはあったんじゃないですか?

齊藤 家にまつわるホラーやスリラーってたくさんあるんですけど、新築物件にまつわるものってないんですよ。逆に新築の不気味さを感じますよね。清廉潔白に見えるけど笑ってない顔みたいで、内側が見えない。製作時にちょうど『ビバリウム』が公開されていたので観たんですが、生活感がない独特の雰囲気みたいなものは、住宅展示場のシーンに感じられる空気感の部分にちょっと参考にしました。あと、プロデューサーから参考に観ておいてと言われたのはAppleTV+の『サーヴァント ターナー家の子守』。M・ナイト・シャマラン監督のテレビシリーズなんですけど、普通にハマって観てしまいました(笑)。

窪田 それも家の話なんですか?

齊藤 そうそう。子供を失った若い夫婦が人形を我が子として育てているところ、メイドさんを雇って……っていうお話。

窪田 面白そう! メモしておきます。

画像: 『SCREEN+Plus』vol.86より

『SCREEN+Plus』vol.86より

――新築物件が不気味、って新鮮な視点ですよね。言われてみればたしかに。その気持ち悪さがこの作品を覆ってる。

窪田 僕が外から家の中に入って2階に上がっていくというところまでをワンカットで撮っているシーンがあるんです。家を人間にたとえると、自分の体内に入っていくようなイメージがあって、家というその自分の体の中に異物がずっと潜んでいるっていうか、吐き出したくなるようなモノというか、そういう感覚があったんです。それをあえて、顔を見せず背中だけを撮りたいって監督から言われまして。画としてイメージしていたものがあったのかなって思ったんですけど、体内に入っていくという僕のイメージとしっくりきました。

齊藤 窪田さんは本当に勉強になることの連続でした。モニターを見ていて驚かされたシーンがあって。根岸さんが演じたお母さんが窪田さん演じる賢二に背中から抱きつき、その窪田さんの表情をカメラでとらえる、っていう流れのプランだったんですよ。でも、背中で全部表現してくださってるんです。これは撮影の芦澤明子さんも同感で。そういうことが何度もあったんです。現場でのセッションを優先的にとらえようというのは戦略的に考えてはいたものの、正解はないわけですよね。その正解なき世界での正解を窪田さんは何度も起こしてくれた。ほんと同業者として……僕にはできない。と思ったくらいです。

窪田 なにをおっしゃいます(笑)!

――こんな地獄のようなマイホームはまっぴらでしょうけど、この作品に関わることで理想のマイホームとか考えました?

齊藤 まだ相手いませんけど(笑)。でも、原作に描かれていて、1番望ましいなと思うのが、あまりにも世間が精練潔白を求めすぎていることに対しての疑問を投げつけていることですよね。誰にでも純白ではない部分があるというのに、世の中の人は妙に純白を求めていて、それを求めている人たちの日常ってどうなの? と。逆にその分、それとは相反するプライベートな暗がりの部分がどんどん濃くなってしまっている気がするんです。だからこそ、理想的なパートナーシップを結ばれている方々……窪田さんのような方々は、僕にとっては希望であり、唯一の光です。

窪田 いやいやいや……(笑)。でも、僕もそう思います。こんなに「きれいじゃなければいけない」っていう風潮が当たり前になってしまったのはいつからなんでしょうね。それによってどんどん言いにくいことが増えて、個人の自由が奪われていると思うんです。日本は平等だ、なんていうふうにも言われるけど、その言葉がどんどんと薄っぺらいものに感じてしまう。だったら理想ってなんですか? って。教科書に書いてあることそのままだったらいいのか、ってことになりますから。人の本質の部分を知って理解しているからこその人生だと思うし、本音を言い合えることが理想だと思うんです。心の中にある本音を言葉にできるのはこの地球上で人間だけだから。この作品はそれが逆説的に描かれているんじゃないでしょうか。

画像: 『スイート・マイホーム』メイキング写真

『スイート・マイホーム』メイキング写真

『スイート・マイホーム』

9月1日(金)公開

画像: ©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社

©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社

雪が降り積もる極寒の地・長野県。スポーツインストラクターの清沢賢二(窪田)は、寒がりな愛する妻と娘のためにマイホームの購入を検討していた。家族と共に訪れた住宅展示場で賢二が心を奪われたのは、「まほうの家」と謳われる一軒のモデルハウス。地下には巨大な暖房設備があり、たった一台のエアコンで家全体を温めてくれるという。近代恵的なスマートホームとしての設備もさることながら、住宅会社の営業担当の誠実さに好感触を得た賢二はその衛を建てることにするが――。

出演:窪田正孝 蓮佛美沙子 奈緒 中島歩 里々佳 吉田健悟 磯村アメリ 松角洋平 岩谷健司 根岸季衣 窪塚洋介
監督:齊藤工
原作:神津凛子「スイート・マイホーム」(講談社文庫)
脚本:倉持裕
配給:日活 東京テアトル

齊藤工監督×窪田正孝さんのインタビューは、8月31日発売の『SCREEN+Plus vol.86』にて掲載。

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