悟くんの不動産ミステリー〜変な家〜

悟くんの不動産ミステリー〜変な家〜


1 知人からの連絡

 ある日、知人のましろから、


「あまねさんに相談したいことがあるんです!」


 という連絡が来た。

 なんでも彼女は近々、人生初の一軒家を買う決心をしたそうだ。

 それというのも、ましろがあんまりにも分裂し過ぎたせいで虹ヶ丘邸が手狭になり、いっそ


「私たちましろんズ専用の家を買っちゃおう」


 ということになったらしい。

 資金とかどうするんだと訊いたら虹ヶ丘ましろ名義で組んだローンをましろんズみんなで分割するそうだ。

 元は一人という設定を活かした詐欺スレスレの資金調達な気もするが、まあ払うもん払えば銀行も文句は言わないだろう。

 というわけで彼女たちは毎晩遅くまで不動産情報を読み漁り、ついに理想的な物件を見つけた。


 静かな住宅街に建つ平屋建て。

 駅から近いわりに近隣に自然が多く、中古ではあるが築年数は浅い。

 

 ただひとつ、間取りに不可解な点があった。

 

 それがこれだ。

 うーむ、これは確かに不可解だ。

 しかしこの不可解さについて不動産屋に聞いてもよくわからないという。

 住む上で不都合はないが、なんとなく気味が悪いので私に相談しようと思ったらしい。


「しかしなぜ私なんだ?」

「悟くんの電話番号を教えてもらおうと思って💕」


 私に相談に乗って欲しい、ではなくて相談相手を紹介しろという話だった。なんという失礼な奴だ。お前はいったいどのましろだ、と問い詰めたら、


「私は拓悟推しのましろだよ! 相談ついでに悟くんに取材して夏コミに向けて準備だよ!」


 などとほざくので、こいつをうさぎやまに直接接触させるのは危険だと判断した私は、自分が窓口となって彼に相談に乗ってもらうことにした。

 


2 謎の部屋

 兎山には前もって間取り図のデータを送り、電話で話を聞くことにした。

 以下、兎山との会話を記載する。

 

私:久しぶりだな新品田。第8話を観たが、いろはと当たり前みたいに一緒に帰る関係だとは思わなかったぞ。品田にはなかなかできない芸当だ、あいつすぐにツンデレ発揮するからな。


兎山:あー、はい、ご視聴くださったのは、ありがとうございますというべきかなんというか……ところで送ってもらった間取り図のことですが…これ……何なんです?


私:見ての通り家の間取りだ。


兎山:見ての通り…?


私:その反応、どうやら君も気づいたようだな。そう、この間取りには不自然な点があるんだ。


兎山:そうですね。めちゃくちゃ不自然ですね。

私:そう、この家は玄関、風呂トイレ、リビングが全部同じ広さなんだ。どう思う、兎山?


兎山:はいそうですねそれも変ですけどそこじゃないと思います!


私:そこじゃ…ない…?


兎山:もっと不自然というか変というかあきらかにおかしい箇所がありますよね!?


 兎山からの指摘に私はもう一度間取りを確認してみた。他に、おかしいところ……

私:あっ!?


兎山:気づいてくれましたか。


私:ユニットバスか!


兎山:はい?


私:そうか風呂トイレが広すぎると思ったがユニットバスなら確かに広くても納得がいく……


兎山:うん確かに風呂トイレに仕切りがないのでユニットバスでしょうけど、それにしたって広すぎですから。


私:じゃあいったい何のためにこんな広いユニットバスを……?


兎山:気になりますけどそこじゃない、そこも変ですけど、もっと変なところがありますから。


私:あっ!


兎山:気づいてくれましたか。


私:ここにリビング、ここにユニットバス……ということは……


兎山:そうそう、そこです。

私:このガルガルがいる部屋──


兎山:はいそれです!


私:──を通らないとユニットバスには辿り着けない!?


兎山:通り過ぎてます! そこスルーしないでください!?


私:いやだから通り過ぎないとユニットバスには行けないってことだろう?


兎山:うんそうですけど、別にそこ通らなくても玄関を通っても行けますよね!?


私:冬場とか寒そうだな。


兎山:そうですね!


私:どうした、うさぎやま。何だかガルガルしてないか?


兎山:そうですね……ガルガルの正体もまだ不明なのにその気持ちがちょっとわかった気がします……


私:きゅーっとして欲しかったりするか?


兎山:それ言うなら、ぎゅー、です。きゅーって鳥でも締めるつもりですか。


私:ウサギは一羽二羽と数えるそうだな。


兎山:うんそうですね。つまり確信犯でボケてたんですね。さてはガルガルの部屋もわかってて無視してますね?


私:まあ君に頼めば浄化してくれるから問題ないと思って。


兎山:あの、僕プリキュアじゃないです。


私:令和の品田と呼ばれる君だ。いずれ表舞台に立つ日が来ると信じている。


兎山:品田さんも令和です……それはともかく、ガルガルの件は確かに放っては置けませんから、犬飼さんとも相談して対処したいと思います。


私:それは助かる。ありがとう、やはり君に相談してよかった。


兎山:うん、まあ、はい。


 謎も解けてスッキリした。時計を見るともう夜も遅かった。


私:すまない、すっかり長電話で引き留めてしまった。ここまでにしよう。


兎山:ええ、おやすみなさい菓彩さん。


私:おやすみ。


 電話を切り、眠ろうと思ったが、ふと間取り図を眺め直したとき、あることに気がついてしまった。

 え、まさか……そんな……

 背中に冷たいものが流れ落ち、私は慌てて電話を手に取って着信履歴から彼のアドレスをリダイヤルした。



3 残された謎

私:兎山ァァァ!!


兎山:どうしました!?


私:この家、窓なぁぁい!?


兎山:うん今さらですね、というかそもそも玄関以外に扉もないですね。


私:兎山ァァァ……この間取り怖い……ホラーやだ……


 結局、眠たくなるまで電話に付き合ってもらった。

 ありがとう兎山、そんな優しい君には10000品田ポインツを贈呈だ。

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