対魔忍ショウセツ ~三千倍への魔鍼絶頂施術~

対魔忍ショウセツ ~三千倍への魔鍼絶頂施術~


 遊郭の一室で、正雪と丑御前は向き合う形で拘束されていた。

 両腕は板枷を嵌められて梁から吊るされ、真上に伸ばし切られている。両脚は太い竹竿の両端に左右の足首を括りつけられて、肩幅の倍ほども広げさせられていた。

 饐えた臭いが染みついた畳の上で、『人』の字を描かされた二人の距離は四尺(約一二〇センチ)程。引き伸ばされた四肢の先端部を除いて、お互いの全身がほぼ視界に収まる間合いである。色責めを受ける間中、相手にその様を見られ、相手のその様を見てしまうのだ。二人の女対魔忍の間に、強い信頼と絆があることを見抜いての、悪意に満ちた差配であった。

 敵手からの仕打ちに対しては、怒りや憎しみを燃やすことが出来る。しかし、この窮地にあって、唯一の恃みとする仲間の存在が自らを苛むとなれば、心の持ちようが定まらない。それがどれほど有効に気力を削るか。潜入調査を試みた二人を捕らえ、本物の遊女に躾けようとしているこの店の主は、海千山千の経験からそれをよく知っていた。

「丑、御前……っ」

「……正、雪ぅ」

 そんな悪辣な道理を知らぬ二人の対魔忍は、互いの名を呼び合い、励まし合ってしまう。実際には、互いを勇気づけるどころか、不安や弱気を伝播し合う嵌めになるというのに。

 正雪と丑御前の身を包む白と黒の忍装束は、捕えられた時のまま、一切手をつけられていない。小部屋に身を隠していたところを、いきなり煙に包まれて昏倒し、目覚めた時にはこの状態であったから、対魔忍の象徴であり誇りである忍装束は完全な状態である。

 ただし。その装束の上から、秘伝の製法で編まれた強靭な生地を貫いて、二人の体には『鍼』が打たれていた。

打たれていた、どころではない。打ちまくられていた。何十本ではきかない数である。

 数百本、あるいは千本に迫るか、越えるかもしれぬ無数の鍼が、二人の全身、あらゆるところに突き立てられているのだ。人の字を描いて向き合う二人は、さながら白と黒の人型をした針山であった。

「あっ、うっ、はぁぁ……」

「うっ、くっ、ぐぅぅ……」

 押し殺そうとして果たせず、乱れた吐息。食いしばった真珠の歯列から漏れる苦鳴には、明らかに甘い湿りが混じっている。言うまでもなく、全身に刺された鍼の作用であった。


 二人が意識を取り戻した時。

 この部屋には店主の他に、四人の男がいた。いずれも仙人かと疑うような老齢に見え、それでいて仙境とは真逆の卑俗な性根が即座に察せられるような連中である。そして四人とも、彼ら同士でのみ交わしていた聞き慣れぬ言葉からして、唐土の人間のようであった。

 この四人によって、正雪と丑御前は鍼を打たれたのである。

 彼らは、二人一組でどちらかを担当するのではなく、およそ気紛れとしか思えぬ様子で、施術する相手を頻繁に替えた。その間、ずっとだらしなく笑み崩れていた四人の顔からしても、女対魔忍の見事な肢体に鍼を打つことを大いに楽しんでいたのだろう。女に鍼を打ち、意図した作用を与えることが、彼らの何物にも代えがたい悦びであり、つまりは性癖に違いなかった。

 男たちの技量は人間性と反比例するように達者なもので、忍装束越しですらほとんど体に触れられることなく施術は完遂されたが、二人はひどく汚され、蹂躙された気分であった。


 そして。

 丸一昼夜が過ぎた今。

 部屋には正雪と丑御前の他に、男が一人いるだけである。

 四十手前か、やや過ぎたかという年齢に、落ち着いた物腰。真っ当なお店であれば、古株の手代か、新進の番頭にあたる身分なのだろう。

 ――ビィン!

 その男が、正雪の体に刺さった鍼の一本を弾いた。弾いたといっても、人差し指の腹でそっと触れ、揺すったか揺すらないかという動作である。だが正雪にとっては、弾いたどこから、弾き飛ばされたとしか思えぬ衝撃であった。

「んぎぃっっ!?」

「正雪っ……!」

 丑御前の案じる声も、まるで届かない。

「おっ、おおぉ……おっ、んおおぉぉ……!」

 正雪はそのときすでに、妖しい極彩色の魔天へと翔んでいたからだ。ブルブルと全身を震わせたのち、カクカクと腰を前後に振って、獣じみた唸り声を上げる。忙しなく前後するその腰部、秘伝の忍装束の生地がぴたりと貼りついた股座は、その奥から零れた蜜が染みていた。

 左の鎖骨に突き立った鍼を、触られた。それだけで、正雪は絶頂したのである。

 いや。「だけ」という言い草は、些か卑怯であり、不公平であろう。

 唐土の秘術らしき鍼は、女体の性感に突き刺さり、掘り起こして、繋げるが如き魔技であった。

 鍼を弾かれれば、その刺さった部分はどこでも、まるで陰核であるかのように、鋭敏で過大な性悦を生じさせるのだ。しかも、それらは鍼を打たれたことで励起し、覚醒させられた全身の経絡を駆け巡るのである。もちろん、鍼を突き立てられた部分はすべて女の核も同然であるから、その奔流が通過するたびに淫らな共鳴を起こして女体を沸騰させ、わななかせるのだ。

「おっ、んおっ、ほぉぉん……」

 濁り、ざらついた呻き声を漏らしながら、正雪の顔は、うっとりと蕩けていた。凛々しく整った本来の造作は、面影もない。

「しょ、正雪っ!? しっかり……しっかりするのですっ、正雪……!」

 無二の相棒が、危うい状態にあるのを察し、必死で呼びかける丑御前。

 だが――ビィン!

「おおぉっ!? おっ? おっおっ? うあぁっ……ひぃぃ!?」

 すぐに彼女の番であった。

 鼠径部をなぞるように並び立つ鍼のうち、左足の真ん中あたりに刺さる一本が弾かれる。

「な……なんのっ……! なんの、これしきぃ……!」

 傲慢なまでに勝気な丑御前である。全身の細胞が順番に破裂していくような激悦にさえ抗い、捻じ伏せて、いけ好かない中年男に不屈の意思と対魔忍の誇りを示そうとする。

 けれど――ビィン! ビンビンビンッ、ビィィンッ!

「ほぎゃ!? んほっ、おほっ、えげっ!? だ、だめ、やめ……うひぃぃ~~!?!?」

 矢継ぎ早に、あちこちの針を弾かれた。そのたび、鍛え抜かれた女対魔忍の痩身に、悍ましくも快美な稲妻が駆け巡る。

 右の太腿の内側、左の二の腕の後ろ側、背中の右上から左下、臍のすぐ傍、左乳房の外側の麓、右の尻えくぼのど真ん中と来て、最後に股間の一本。それも、女体の急所中の急所である陰核に、忍装束の上から過たず穿たれた一本を、特に強く弾かれて。

「んおっ、んおおっ!? おっほ、おっほぉぉぉんっ!?!?」

 野太い濁声を響かせ、その身で描く人の字をぐにゃぐにゃとたわませて、丑御前は呆気なく絶頂へと飛翔した。しかも、その叫び声が止まぬうちに。

「ひっ、ひえっ!? いやだっ、あっ、んあぁぁあァァ!?」

 正雪の絶叫が上がり、重なる。

 左右の乳首に突き刺さった特別太い針を、交互に弾かれ、五回目の左乳首で吹っ飛ばされてしまった。

 この男もまた、慣れているのだろう。

 類稀なる美女二人に対して、まるで焦ることなく余裕綽々。遊びながらも的確な責めを延々と続ける。

「ひっ、ひぃぃ~~……!」

「ああっ、いやだっ、あひあぁぁ!?」

 ビィン、ビィン。ビンビンビーン。

 いかに二人の女対魔忍が、強靭な心身を誇ろうとも、勝負になるはずがなかった。男はただ気紛れに針を弾くだけ、もっと言えば、弾くまでもなく触れるだけでいいのだ。それだけで、正雪と丑御前は全身を快楽の奔流に蹂躙され、容易く絶頂を極めさせられるのである。

 男の指一本で、二人は心も体も、魂までも、弦を弾けば音が鳴るように機械的に震わされるのだ。そして、男は技巧や稚気を発揮しつつも、淡々と指を動かし続けた。

 正雪と丑御前は、反駁も減らず口も許されず、ひたすら嬌声を搾られ続けた。気力が底を尽き、対魔忍にあるまじき哀願を零しそうになっても、それさえ叶わず。絶頂と絶叫を強いられ続け、ついにはこと切れるように失神してしまった。


「「っ、あぁぁぁぁっっ!?」」

 絶頂を告げる絶叫を仲良く張り上げ、正雪と丑御前は目覚めた。いや、彼女たちには微塵の主体性も許されていない。否応もなく目覚めさせられたのである。

 吊るされた自身の両腕に挟まれて、それさえ不自由に首を振れば、ぼやけた視界に男の顔が映った。

 若い。二十歳そこそこだろう。気を失う前とは、別の男である。

 だが、代わったのは責め手の男だけで、二人の状況も、受ける責めも、まるで変わらなかった。

「あっ、あぁぁ……! も、もう、もうやめっ、ひぃぃぃ!? や、やめ……あひぃ!?」

「うっ、ぐぅ……こ、これしきのこと、我ら対魔忍にはまるで矮小十、っぱぁぁぁ!? ああっ、そ、そんなぁ……! ひぅぅ……!?」

 若いだけあって、先ほどの中年男よりも、明らかに興奮していた。それは針の弾き方に露骨に表れている。緩急や虚実を用いることなく、忙しなく二人に刺さった針を弾いて、弾いて、弾きまくった。また、露骨な急所ではない部分には目もくれず、乳房や股間の針ばかり弾いてくる。

 単調でわかりやすく、事前に身構えることが出来た。けれど、身構えたところで、どうなるものでもない。ほんのわずかな針の動きで、そこから全身を駆け巡る激悦の前では、正雪と丑御前の矜持も精神力も、濁流に押し流される木の葉に等しかった。

「ひっ、ひぃっ、あひぃ!? おっ、おおっ、おごぉ……! あっ……」

「ぐひっ!? あっ、んぎぃ!? おっ、んほっ、ほぉぉん……お、おぉ……」

 二人は知る由もないが、責め手の男は一刻(二時間)ずつ担当することになっていた。この若い男による一刻の間に、正雪と丑御前はなんども失神し、こと切れたようにガクンと首を折った。しかし次の瞬間には、また魂消るような雌吠えと共に顔を上げ、苛烈な色責めの渦中に引き戻されるのである。


 さらに丸一日が過ぎた。

 対魔忍の超人的な体力が裏目に出て、正雪と丑御前は長くとも数分間意識を失うのみで、延々と魔鍼による異常快楽を味わわされ続けた。二人の体感では、もう何か月も、あるいは何年も経ったように思えた。

「あっ、あぁぁ……お願いだ……後生だ……! もう、許して……許して、くれ……」

 さしもの由井正雪も、弱音と懇願ばかり垂れ流すようになって、随分になる。

「ふぐっ、うぐぅ……うぇぇ……もういやぁ……もう、ゆるしてぇ……」

 丑御前に至っては、剛きものほど酷く折れる好例のように、子供帰りして頑是なく泣きじゃくるようになっていた。

「ふむふむ。お二人とも、なかなか『出来上がって』きましたなあ」

 責め手は、二たび店主に戻っていた。その技巧は、やはり誰よりも卓越している。二人はいとも容易く、意のままに快楽を与えられ、絶頂へと導かれた。対魔忍としての矜持も、積み上げてきた修練も、猛火に焙られた砂糖菓子のように崩れ落ち、正雪と丑御前は競い合うように嬌声を発するばかりであった。

「うぁぁっ、またっ、またぁ……! ひぃっ、ひぃぃいぃっ……!」

「んひぃっ!? おっ、おぉぉ……! うぇっ、うぇぇん……!」

「気持ちいいでしょう? 快楽とは、性の悦びとは、素晴らしいものでしょう?」

 確信に満ちた問いかけは、二人の女対魔忍を、二匹の雌へと堕とす奈落への誘いであった。

「「……気持ち、いい、ですっ……」

 二人の声は、ぴたりと揃った。

「そうでしょう。気持ちいいでしょう。ふふふ。しかも、どんどん気持ち良くなっているでしょう?」

「っ!?」

 そう言われて、はっとして見つめ合う。あられもない互いの姿を、出来るだけ見ないようにしていた。目と目が合うのは、久しぶりである。弱々しく眉尻が垂れ下がり、いっぱいに溜めた涙をぽろぽろと零している相手の変わり果てた様は、自身の鏡像でもあるのだ。重く暗い衝撃に打たれ、かえっていくらか取り戻した思考で、男の言葉を咀嚼してしまう。

 ――どんどん気持ち良くなっている。

 言われてみれば。針を弾かれるたびに全身を迸る激流は、繰り返すたびに強く、大きく、激しく、さらには速くなっていた。それによって打ち上げられる絶頂もまた、その間隔は短くなり、反対に高さはどこまでも上へ上へと昇っていくようだった。

 頻繁に責め手が入れ替わるために、その手管の差異かと思っていたが、まさか。

「この針は、ただ快楽を生じさせるだけではないのですよ。むしろ、それは副作用に過ぎません。本来は、女体の性感――快楽を生させじる機能そのものを向上させる唐土に伝わる秘術なのです」

「……そんな……それでは、ま、まさか……」

「えっ? えっと、えーっと……?」

 幼児退行を起こした丑御前は戸惑うばかりであったが、正雪は気づいてしまう。男の言葉の、意味するところを。自分たちが、本当は何をされていたのかを。

 正雪の桜色に茹で上がっていた顔が、みるみる蒼白になっていくのを見て、店主は「正解」と言葉にする代わりに、その肌に触れた。針ではなく、肌に直接である。それぞれが一寸と離れず、白磁の肌に無数に突き刺さった針の間を通して、正雪の左の乳房の下側を、そっとなぞった。

「んんんんんんんっ!? あっ、あぁ!? あっ、ああっ、ふぁあぁぁ!?」

 針には、少しも触れられていない。なのに正雪の全身を、心魂までをも震わせる激悦は、恐るべき魔鍼の術によるものではない。正雪自身の肉体に備わった機能によるものであった。

 いや、彼女の名誉のためにも、あくまで「備えさせられた」ものであり、生来のものでないことは明言しておこう。もっとも、正雪の肉体が、敏感極まる、淫ら極まるものに成り果てた事実の前では、些末なことではあった。

「この秘術を施された女体は、針によって絶頂するたびに、本来の一割ほど感度が増すのです」

「……絶頂、するたび……感度が、増す……? 一、割……?」

 快楽地獄に蕩けた脳髄を懸命に働かせ、男の言葉の意味を理解しようとする。一方で、考えるまでもなく、要するに絶望的な事態であることを本能が悟ってもいた。

「はい、はい。つまり、十回絶頂すれば、本来の二倍も感覚が鋭くなるのです。九十回なら十倍にもなるわけですね。さて、あなたたちはもう何回達したでしょうか? これまでの記録からしますと、大体十秒から十二秒に一回の割合で絶頂してきたはずです。ほぼ二日が経っていますから、まあ一万五千回は達しているでしょうなあ」

「いち、まん……ごっ、ごせん……?」

 一回につき、本来の一割ずつ増していくというのなら。では、今の自分と丑御前の感度は。

「普通の女体の、千五百倍も敏感ということになりますなあ!」

 果たして、千五百倍も敏感であるとは、どういうことなのか。言葉の意味は想像もできないが、しかし、その想像もできないことを、現実に正雪は実体験している、し続けているのである。

「やっ……やめてくれっ、もう、やめてっ……元に、元に戻してくれぇっ……!」

 悲痛な金切り声で、正雪は芯から懇願していた。

「無理ですな。この術は、一度施せば戻る方法などありません」

 あっさりと却下され、しかも気軽な調子で絶望を告げられる。

「そっ、そんなっ……う、嘘だ、ああ、こんな、こんなはずがっ……」

「あるんですなぁ~。ところでお二人とも、まだまだ音を上げている場合ではありませんぞ? 施術はまだ途中なのです」

「…………は?」

 これ以上、どうしようというのか。

「千五百倍というのは、中途半端ですからな。当店では、三千倍を基準としております。これがさらに五百足して、三千五百倍となると、すぐに使い物にならなくなるのでいけません。三千倍でしたら、対魔忍のあなたたちならまず大丈夫です。正気をわずかに残しつつ、常時万年、永世発情状態となって、使い勝手のよい商品になるでしょう」

 これ以上にしようというのだった。

「さ、さん、ぜん、ばい……? こ、この、今の、さらに倍と申すか……!?」

「ええ」

 驚愕し、信じられない、信じたくないと一縷の望みに縋ってしまう正雪に、店主は取り付く島もない。

「はい、では続けましょうね。ほいっ、ほいほい、ほーい」

 気の抜けた掛け声とは裏腹に、針を繰る技は冴えに冴えている。一見すると、正雪と丑御前の針を四本ずつ弾いたようでいて、五指を自在に使って、その実十五本ずつも振動を加えていた。

「いやだっ、あっ、ひぃぃっ……! だめだ、気を、やって、はぁ~~~!?」

「おお!? んおっ、おぉ~ん!? あっ、んひぅっ! おぐぅ……んおぉおンっ……!」

 それだけで一分半ものたうちまわっていた二人は、たっぷり二十回は頂上を極めさせられた。十秒に一回どころではない。その倍以上である。

「あらあら。いいのですか? 気持ち良いのはわかりますが、そんなに法悦を味わっても。淫らな体になるのは嫌なのでしょう? なら、達してはいけないのではないですか」

「あっ、あぁぁぁ……! はっ、はっ、あ……うぁぁ……」

 息も絶え絶えに項垂れていた正雪だが、奇跡的に男の言葉は聞こえていた。

(そうだ……気をやっては、いけない……! 我慢だ、我慢しなければ……そうすれば、これ以上は――)「んほぉぉぉぉおんっ!?!?」

 出来るわけもないのだ。頭頂部、つむじの真ん中に突き立った一本を薬指の背で触れられて、簡単に飛ばされてしまう。これでまた一割分、正雪の感度は増してしまったのだ。

 慇懃無礼な態度とは逆というべきか、むしろそのままというべきか。店主は女を嬲り者にするのが何より好きな嗜虐性癖者であった。美貌の女対魔忍というこれ以上はない獲物を堪能するべく、底意地の悪い戯れを仕掛ける。

「いいことを教えてあげましょう。この秘術ですが、生涯に一度のみ、三日間しか効果を発揮しないのです。つまり、あと一日過ぎてしまえば、後はもう、それ以上淫らな体になることはないのです」

 嘘である。けれども正雪には、外に縋るべき蜘蛛糸は垂れていない。聡明な彼女である。本心ではわかっている、わかっているのだ。それでも、縋るよりない。

「うっ、丑御前っ……! しっかり、しっかりするのだっ……あと、一日……一日、耐えればっ……! こんな針などに、浅ましい欲望などに、負けるなっ……! 我らは誇り高き対魔忍だろうっ……! そして、我が名は由井正雪っ……烈士たらんと志す者だっ……!」

「っ……正、雪っ……! ええ、ええ。そうです、私たち対魔忍は、何があろうと、絶対に屈したりなどしませんっ……!」

 男は、ほう、と心から感心し、驚愕したような顔をして。内心、ゲラゲラと笑い転げつつ、ここぞと二人の陰核に突き立つ針を摘まんで、ぶるぶると震わせた。

「んおぉおぉああぁぁぁああぁぁっ!?!?」

「ひぎぃぃいぃいぃっ!? おひっ、おひぃぃいんっ!?」

 あまりに連続した絶頂で、もはや継ぎ目がわからず、数えられるものでもなかったが、また少なくとも二十回分は天上に遊び、それだけ感度を増してしまう二人であった。

「ほらほら、どうしました? 耐えるのでしょう? 負けないのでしょう? 屈したりしないのでしょう? うふふふふっ! そらそらぁっ!」

 店主にとって、このために生きていると言える至福の瞬間であった。磨いてきた技巧を惜しげもなく使って、二人の女対魔忍に、感度三千倍への道を登らせていく。いや、降らせていくのか。

「んおっ、おおおおんっ!?」

「あひっ、あっひ! んほひぃ~~ん!?」

 店主はそれから二十四時間に渡って、片時も休むことなく、二人の体に刺さった針を爪弾き続けた。

 正雪と丑御前は、健闘したといえる。矢折れ刀尽きる大奮戦であった。全身全霊をもって抗った。その意味はまるでなく、二人は男が楽しむままに、好き放題、思い通りに魔鍼絶頂を極めさせられた。

 その回数。およそ一万五千回。合わせて約三万回。

 こうして由井正雪と丑御前、二人の女対魔忍は鍛え抜いた体を感度三千倍の異常感覚淫蕩肉へと作り変えられてしまったのである。また、それさえも、二人を奴隷遊女へと躾けるための下準備に過ぎなかった。まずは女体を水準にまで仕上げられた上で、彼女たちはこれから、男を喜ばせるための作法や技巧を仕込まれ、さらには精神を、魂までをもただ殿方に奉仕する存在としてふさわしいものへと作り変えられる予定なのである。

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