チョキ宮と雪宮の対話2

チョキ宮と雪宮の対話2



※謎時空です

※原作ユッキーと花ユッキーが出会ったらという設定

※チョキ宮視点

※対話の続きです


「そういえばさっきから君にばかり話させてるね、俺に何か聞きたいことはある?」

「聞きたいこと…」

 聞きたいことがあるとすればただ一つ、彼の目がどうなっているのかだ。これまでの雪宮くんの反応を見る限り彼は凪くんとも玲王くんともそこまで関わりが無さそうだ。つまり俺が玲王くんの付き人であるばぁやさんに治して貰った目の病気は治っていないという事になる。

 でもそれを面と向かって聞くのは憚られる、だってそれはとても忌まわしい事だから。まあ目の事があったから俺は凪くんと出会えたんだけどそれは別の話だしそもそも雪宮くんが健康体の可能性だってある。判断が出来ないから目の事を聞くのは止めるべきかもしれない。

「うーん…特に無いかな、そっちのブルーロックは俺が凪くんに聞いてる話とほぼ同じみたいだし」

「そうなんだ……じゃあ俺から質問だけど君も俺だし、やっぱり目が悪いのかな?」

 息を飲む、自分の考えていたことがバレたのかと思った。どう答えるべきなのだろう、雪宮くんは目の病気を抱えながらブルーロックでサッカーをしている、俺みたいに全部諦めたりしなかったんだ。

「…無理に答えようとしなくていいよ、ごめん変なこと聞いてしまって」

「大丈夫、話せるよ」

「本当?俺に気を遣わなくても良いんだよ?」

 それでも、諦めてしまった俺でも彼に何かを託せるかもしれない、だから俺は話す事を決意した。姿勢を正して雪宮くんと…俺と向き合う。やっと分かった、これはきっと俺が俺と向き合う為の世界なんだ。

「目の事を知った俺は自棄になってしまっていたんだ、何をしても意味は無いって、どうせ全部無くなるんだって、もうどうにでもなれって世界の全てに絶望してたくらいには」

「…俺もそうなってたかもしれないね」

「雪宮くんなら大丈夫だと思う、それでしばらくは酷い生活をしてたんだ。食事は最低限だししっかり眠れなかったしもうボロボロだった、モデルの仕事と学校はそれなりに頑張ったけどサッカーからは逃げてたかな」

 自嘲気味に笑う、今更ながらかつての自分があまりにも情けなく感じてしまった。俺を拾ってくれたあの花屋さんにも感謝しなくちゃいけないかも。

「後は話した通りだよ、最後になるけど俺の目は完全に治っているんだ」

 俺の話を聞く雪宮くんの表情はとても複雑そうだ、きっと色々と言いたいことがあるんだろう。ただ俺はそれを受け止めるしか出来ないと思う。

「…話してくれてありがとう、それと無理させてごめん。でもこれで希望が持てたよ、俺の目は治るんだって希望がね」

「希望が…なら良かった」

「あ、そうだ。君を俺の世界に連れていったらこう何かよく分からない力で目も治るかもしれないね。どう?実は双子でしたみたいな感じでさ」

「い、いきなり同じ顔の人間が増えたら騒ぎになりそうだしちょっと、それに俺がいなくなったら凪くんが悲しむかもしれないし…」

「冗談だよ、君は凪くんが大好きなんだね。俺も向こうに戻ったら凪くんと話をしてみようかな」

 向こうに…そうだ、元の世界に帰る方法を見付けないといけないんだ、あれ元の世界って何だろう、この部屋から出る方法を探さないといけないのに。ぐらりと視界が揺れる、世界が回る、目の前にいる雪宮くんが近付いてくる。

「時間だ、この不思議な一時は終わる」

「な、にが…?」

「黙っててごめん、俺はここから出る方法を最初から知ってたんだよ。時間が来たら自動的に出られるんだ」

「ゆきみや、くん」

「楽しかったよ、ありがとう」

 部屋が暗くなる、違う、暗くなってるんじゃなく瞼が閉じられているんだ。思考がぼやけてろくな抵抗も出来ない、やがて完全に真っ暗になり身体が床に倒れ込む。

 俺の身体を誰かが支えてそっと寝かせてくれる、寝かされた先は硬い床ではなく柔らかい何かで、温かいそれに疑問を抱く前に意識が途切れた。



 誰かの話し声、車の音、鳥の鳴き声、色んな音が俺の耳に入ってくる中でゆっくりと意識を浮上させる。変な夢を見ていた、確か白い部屋で誰かと話をしていて…?

「雪宮くん…?」

 そうだ、白い部屋で俺は自分と話をした。でもここはあの部屋とは違う。頭の中で一つ一つ記憶を整理しつつ隣を見れば凪くんが眠っていた、ああそうか、戻れたんだ。ならもう朝だし凪くんを起こさなきゃいけない。

 凪くんを起こしたら白い部屋の話をしよう、俺と同じ顔をした同じ名前の少し違う俺の話もしよう。別の俺は元気にサッカーをしててブルーロックにもいるんだって聞いたら凪くんはどんな反応をするだろうか。少し楽しみだ。

「凪くん、もう朝だよ」

「んー、わかった…」

 いつもの朝が始まる、少し違うのは俺が不思議な夢を見たこと。もしあの夢が本当なのだとしたら雪宮くんも俺を思い出してくれてるといいな。差し出された指を咥えて軽く歯を立てれば凪くんが起き上がる、これもいつものこと。

「おはよ、ユッキー」

「おはよう、凪くん」

 カーテンから射し込む光を浴びながら朝の挨拶をした。

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