ハッピーバースデイ(※グロ)
「やっぱり俺は“そっち”じゃ生きられないからさ。オマエが“こっち”に来てくれよ」
呪力を一切込めない鈍色の刃を虎杖の肌に当てる。
刃が皮膚を裂き、肉に通る。それは本当に虎杖が受け入れてくれているからだった。
――最初で最後、虎杖を殺せる。
呪いの本能からの興奮に打ち震える。
溢れる血に舌舐めずりしながら、消える命、魂、漏れ出ていく呪力をずっとずっと見ていた――。
――――
「虎杖……」
目玉が溶け落ちがらんどうになった眼窩を見つめながら、唇にそっとキスを落とす。
肉が崩れる唇を喰む。合わせた唇の端に赤黒く甘い血が伝った。
呪いには睡眠も食事も必要はない。だから真人はずっとそうしていられた。
片時も離れず虎杖の死体を抱いたまま、それを待ちわびて。
あれからもう何日経ったろう。
ぶくぶくと膨れ、破けて汁を漏らし、人間の基準で言えば醜く腐り溶ける虎杖の体を抱きしめる。
頭を擦り付け、胸いっぱいに甘く腐った香りを吸いながら、髪に血と腐汁を浴びる。
「……まだ寝てんの?」
触れた頬に指の跡を残しながら、愛しく話しかける。
虎杖は何も答えない。だって虎杖の魂はここにないから。虎杖の魂は――。
――馴染んだ魂の存在を感じて顔を上げた。
そこにいたのは自身と同じ呪力の塊。同族である“呪い”だった。
「ハッピーバースデイ、――虎杖悠仁」
微笑んで“呪”えば、死体の汁に塗れた体を躊躇なく抱き竦められた。
感じるのは心地良い同族の呪力。
血塗れの唇、頬を拭われ、顔の継ぎ目を指で擽られる。
――今ここに在るのは呪いと呪いだけ。
同じ体温のキスをした。