くいなと約束した子ゾローリアがキングと出会う話

くいなと約束した子ゾローリアがキングと出会う話


 ※閲覧注意


※【ここだけゾロがルナーリア族】のスレより


※ゾローリアIFネタ


※幼少ゾロはくいなと約束した後


※キャラエミュ自信なし


※キングがゾロに対して少々重い














あれは確か、幼なじみが死んでから数週間後の出来事だったか。


 おれは村の外を少々散歩していただけだったが、いつの間にか見知らぬ島に辿り着いていた。それだけだったらまだしも、そこは東の海でもかなり治安の悪い島だったようで、チビだったおれはゴロツキどもにあっさり捕まってしまった。  


 物珍しい姿をしたガキにゴロツキどもは大喜びしていた。やれ「人攫いに売るか」「いい小遣い稼ぎが出来たぜ」なんだのを上機嫌に話していて、酷く腹の底がムカムカしたのを覚えている。


「にしても、物騒なもん持ってんなぁ〜?刀なんざお前みたいなガキには早いっつーの」

「腕抑えられて刀抜けなくてかわいちょうでちゅね〜!!ギャハハハ!!」

「なぁこの刀も売ろうぜ。多少の金にはなるだろ」


「───っやめろ、それに触んな!!!」

「ギャア!こいつ噛み付いてきやがった!!」


 形見の刀に伸びた手に、咄嗟に噛み付いた。噛み付かれた男にギロリと睨まれた瞬間、(あぁ、これからクソほど殴られるんだろうな)と目を瞑って衝撃に備える。


 ……だが、衝撃は来なかった。

代わりに皮膚が焦げ付くような熱気を感じ、不思議に思ったおれは目を開く。



「〜〜〜〜ぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!!!熱い熱い熱い!!!も、燃えて───!!!」

「だれか助けっ…………!!あ゛ぁ!!」



 人が、燃えていた。

 俺を殴ろうとしていた男も、他のゴロツキ達も全員燃えていた。

 咄嗟に背中を見るが、この小さい火だけでこんなに人が燃えるか?多分おれじゃない。


 (じゃあこれは何なんだよ)

そう不思議に思った瞬間、


「───おい、無事か?」


 黒い翼、背中の炎。


 その日おれは産まれて初めて、自分と母以外にも黒い翼と炎の持ち主がいるのだと知った。





 黒ミイラ……キングに助けられたおれは、矢継ぎ早に質問されまくった。どこに住んでるのか?いままでどうやって生きてきたのか?両親は生きているのか?……大抵の質問に答えたあと、キングはおれに一緒に来ないかと誘ってくれた。


 最初、おれはそれを断った。

「村に帰らねぇと、なんにも言わずに出て行っちまったんだ」

「……お前、村の場所は分かるのか?」

「うぐ!!」


 図星を突かれたおれの顔を見てキングは、マスク越しでも分かる程度に笑った後、こう提案した。


「シモツキ村……だったか?その場所は俺が調べてやる」

「ほんとか?!おっさんありがとう!!」

「おっさんじゃなくてキングと呼べ。……村の場所が分かるまでは俺達の拠点に居ればいい。どうもお前はルナーリア族の事をよく知らないようだしな」

「るなーりあ?」

「俺とお前の種族の名だ。……もう絶滅寸前だがな」

「??…………よく分かんねーけど、俺とキングがいるなら絶滅してねーんじゃね?」

「────そうかもな」



 キングはそう答えると、漆黒のマスクを外した。ふわりと波風に揺れる髪の色と褐色の肌は、薄らと記憶にある母と同じ色だった。……顔立ちも、どこか似ている気がした。



「ゾロ、一緒に来い。──俺の陰にいろ。誰にも渡さねぇ」


 

 そう言って笑った男の姿に憧れたのも、もう遠い過去の話だ。



 












「───い、──ロ、おーいゾロ!!」

「……あー?」

 

 チョッパーの呼ぶ声に、目を覚ます。

 それと同時に、おれの耳には宴に興じる大勢の人間たちの音が流れ込んでくる。

 あぁ、そうだ。エニエスロビーからロビンを取り戻して、(その後色々あったが)W7で宴をしている最中だった。

 酒を飲んでいた最中に寝ていたらしいが、そう時間は経っていないようで、そげキングが高らかに寝る前に聞いた”そげキング音頭”の3番を歌っている。


────おれは過去の夢を見ていたのか。


 イヤに鮮明だった夢に脳がズキリと痛むような気がしたが、その痛みを無視してすぐ下にいるチョッパーに目線を合わせる。


「どうしたチョッパー」

「あ、ごめんな……なんかゾロが難しそうな顔して寝てたから悪い夢でも見てたんじゃないかって心配になって……」

「───そうだな、悪い夢だった。起こしてくれてありがとな」

「ほ、ほめられても嬉しくねぇよコノヤロー!!」


 照れたチョッパーは「寝付きが悪かったらいつでも言ってくれよ〜」と言って宴の輪の中に戻って行った。要らない心配をかけさせてしまったのは申し訳ない。



「……散歩でも行くか」



 背中の翼と炎がいやにソワソワする気がして、気分転換のために立ち上がる。こういう時は体を動かすに限ると、長年の経験でわかっていた。









  


 だが。

 なんとはなしにほっつき歩いて、いくらかの時間が経った頃。

 見知らぬ路地裏に入った瞬間に、悟る。



「随分と長い迷子だったなゾロ。──さぁ、一緒にカイドウさんの所へ帰ろう」



 あれは、予知夢だったのだと。

 


「鬼ヶ島を出てもう3年は経つか?こんなに長い迷子は流石に無かったから、心配したぞ。……本当に無事で良かった」

「迷子の間に随分と色々やっていたようだな?エニエスロビーの件は流石に驚いたが、正直言って感動したよ。いずれ大看板になるお前に相応しい実績ができたじゃないか」

「あぁ、だが……翼と炎を剥き出しにしていたのはいただけないな。あれほど人前で、特に政府の関係者の前では晒さないようにと言っただろう。懸賞金の写真にも写ってしまっている。肌と髪色が違うからと言って油断する癖は直せ」


 本当に安心しているのか、アイツには珍しく饒舌に話している。その口調の節々に、アイツにとってのおれがまだ”雛”なのだと嫌でも分かって腸が煮えくり返る。



「まぁ細かい話は後でしよう。ここから少し離れた島に帰還用の船を置いてある。お前の好きな銘柄の酒をたくさん積んでるからそれでも飲んで──」

「”キング”!!!」


 耐えきれなくなり、叫ぶ。

 そんな、おれの叫びにキングは目を細めた。

 

「…………”親父”、だろう?なんだ急に名前呼びなんぞして」

「元々おれとお前の関係はこうだろうが!!今までが異常だったんだ!!!」

「やれやれ、これが噂の反抗期ってやつか?俺もカイドウさんの苦労が分かる時が来たか」


 そう言っておれの苦言を意に介さない態度に、ますます脳と腹の底がグツグツと煮えたぎって来る。


「おれを連れ戻しに来たようだが……悪ぃな、もうおれはあそこに戻るつもりは無い。育ててくれた恩は感じてるが、おれはテメェらと同じ外道になりたくねぇんだよ」


 おれの言葉にキングは──笑った。顔すらレザー調の分厚いマスクで覆っているが、長年の付き合いでコイツがどんな表情をしてるのか手を取るように分かってしまう。分かってしまう自分が心底嫌になる。


「”雛”のくせに一丁前に言うじゃないか。……なら力ずくで連れて帰るまでだ」

「上等だ。──その雛呼びも撤回させてやるよ!!」


 刀を構え、斬り掛かる。

 例えそれが無謀と分かっていても、おれはルフィ達のいる船以外に乗るつもりは無かった。







 時間にして、十分持ったかどうか。

 おれは地面に倒れていた。


「ハァー……ハァー…………」

 分かっていた。

 おれの実力はまだキングの土俵に立つことすら出来ないと。けれど、こうもあっさりやられる自分が不甲斐なくて仕方ない。


「驚いたな。この3年で随分と成長したじゃないか。”覇気”を習得した時が楽しみだ」

 歯を食いしばる自分をよそに、無傷のキングは酷く上機嫌だ。


「”可愛い子には旅をさせよ”なんて反吐が出る言葉だと思っていたが成程……少しだけ理解出来た」


「───まぁ、その旅も終わりだがな。早く帰るぞゾロ」


 地面に這いつくばる視界に、キングのブーツが映り込む。おれの腕を掴んで連れて行こうとするキングに、なけなしの力を振り絞って抵抗する。


「ハァ…!やめろ離せ!!おれは、おれはルフィ達から離れる気はねぇ!!」


 例え石に食らいついてでも踏ん張って、


「じゃあ麦わら達を消せば帰るんだな?」

「────ッ?!」


 腕を離して、キングはカツカツとブーツの音を鳴らし真っ直ぐに宴の声がする方に歩いていく。


「アクア・ラグナ後の湿気た街を全て燃やすのは苦労しそうだが、仕方あるまい」

「止めろ!!!ルフィ達に手を出したらタダじゃおかねぇぞ!!」

「倒れて動けないやつが何を言っている」


 駄目だ、ルフィ達が殺されちまう。

 嘘でも着いていくと言えば止めるか?その後に逃げ出せば───いや駄目だ。もうコイツはおれを逃がす気は無い。着いて行ったが最後、何をされるか分かったもんじゃねぇ。 


 どうする、どうすればルフィ達を───!!





「そこまでにして貰おうか、”火災のキング”」

「!!」

 

 

 第三者の声と同時に、キングが素早く振り向いて跳躍する。さっきまでキングの立っていた場所が異常な早さで凍っていくのを見て、おれは驚愕した。なんでアイツがここにいるんだ?



「”青キジ”……海軍大将が何の用だ?」


 先程より明らかに声のトーンが下がっているキングの前に、あの時と同じ旅人の格好をした青キジが姿を現した。


「それはコッチのセリフだっての。ちょーっと野暮用があって寄ってみれば、なんでカイドウの右腕がこんなところにいんだ。なに?家庭の事情?」

「お前らに話すことなんざ何も無い。……それに俺とゾロの関係なんて、さっきの会話でお前ならある程度は察してるだろう?」

「いや〜……海賊狩りのゾロが”そう”なんじゃないかって噂は上層部で度々あったけどな。髪と肌の色が違うからただの能力者って結論をお上さんは出していた」

「ハッ、節穴共が。まぁ、無能のままでいてくれた方が此方としては万々歳だ」

「お上さんからしてみりゃ、お前らの種族と人間が結ばれる方が有り得ない事なんだよ。海賊狩り、お前の”人間の”親は随分と肝が据わっていたようだな」


 そう青キジは話すが、おれはこの異様な光景に何も返すことが出来なかった。


「キング、ここは引け。俺も上にお前たちのことは報告しない。だが、このままお前がW7を火の海にするっつーのなら……俺も大将として全力で止めさせてもらう」

「なんだ、麦わらの肩を持つのか?」

「一般市民も確実に巻き込まれるから言ってんだよ。それに、お前らのボスがそんなバカ騒ぎを許すとは到底思えないけどな」


キングはしばらく沈黙した後、おれの方を見た。


「────仕方ない。ゾロ、今日のところは許してやるが……必ず迎えに行く。逃げられると思うなよ」


 そう告げると、タンッと軽い音からは想像出来ないほど高く跳躍したキングは、そのまま全身を異形の形に変える。

 太古の昔に滅んだ怪物の姿になったキングは、大きく羽ばたいて月夜に紛れて消えて行った。



「ゾオン系古代種ねぇ。まだお前さんには早かったな」

「……助かった。ありがとよ」

「野暮用ついでだから気にすんな。──でも気を付けるんだな。今はまだ政府はお前の正体に気付いちゃいないが……バレたらニコ・ロビン同様に政府はお前を捕まえようとする」

「そしたら全部斬ってやるよ」

「言うねぇ。ま、せいぜい頑張んな」


 そう言って青キジは宴の声とは反対の方へ歩いて行く。


「なんだ、捕まえねぇのか」

「今日は非番なんだよ」


 月日に照らされながら去っていく青キジの背を、おれはその姿が見えなくなるまで眺めていた。

 暫くして、遠くで「ゾロー?!どうしたんだこんなところで倒れて?!!やっぱり身体の具合が悪かったのか!」と叫びながら近付いてくるチョッパーの気配に、おれはどう言い訳しようか考えていた。














 昔を、思い出す。


 小さな小さな翼を、丁寧にブラッシングするのが日課だった。柔らかな羽毛の感覚は、血塗れの海賊生活の数少ない癒しでもあって。

 俺とカイドウさん以外は入室禁止のゾロの部屋には、こだわりのブラッシング道具が多く置いてあった。(それを知って「キモイなお前」と言ってきたクイーンのクソ無能は叩き潰した)


『ゾロ、痛くないか?』

『へーき。むしろ気持ちいい!!……なぁー親父、おれも親父の羽繕いしていいか?』

『ゾロが?俺の翼はデカイから大変だぞ』

『がんばる!』

『フフ、じゃあお願いしようか』


 その後して貰った羽繕いは、傍から見れば不器用なものだったろうが、俺にとっては最高のグルーミングだった。


 無邪気に懐いてくれる雛は、カイドウさん以外を信用出来なかった俺にとって新しい救いでもあった。

  



 それなのに、雛は勝手に飛び立った。

 あれほど俺の後ろについてきた雛は、「絶縁状」とかいう訳の分からない紙1枚を残して飛んで行ってしまった。


 紙には「ワノ国でお前らがやった事を許すことが出来ない」「おれは強くなってお前たちを只っ斬ることにする」「世話になった」とか他にも色々書いてあった気がしたが、読み終えた瞬間に燃やしてしまったのでもう思い出せない。




「許すものか」



 子離れしろと馬鹿クイーンは言ったが、そんなのはこの世界で繁栄する人間だから言えることだ。

 死に絶えた種族の生き残りである俺達に、世界はどこまでも残酷だ。そしてまだアイツは降ってくる火の粉の全てを振り払える程に強くない。


 守らなければ。


「必ず、取り戻す───」


例え、それがどんな手段であろうとも。

例え、それでどれほど恨まれようと。

俺はもう、あの温もりを手放す事ができなかった。

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