【全文】辺野古代執行訴訟の判決(2023年12月20日、福岡高等裁判所那覇支部)


【全文】辺野古代執行訴訟の判決(2023年12月20日、福岡高等裁判所那覇支部) 辺野古移設を巡る代執行訴訟の判決が言い渡された福岡高裁那覇支部の法廷=20日午後1時58分、沖縄県那覇市(代表撮影)
この記事を書いた人 琉球新報社

令和5年(行ヶ) 第5号 地方自治法第245条の8第3項の規定に基づく埋立地 用途変更・設計概要変更承認命令請求事件

判決

主文

1 被告は、沖縄防衛局がした令和2年4月21日付け沖防第2056号 による普天間飛行場代替施設建設事業に係る埋立地用途変更・設計概要 変更承認申請につき、被告がこの判決の正本の送達を受けた日の翌日から起算して3日以内(ただし、行政機関の休日に関する法律1条1項の 規定による休日は、上記3日の期間から除く。)に承認せよ。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求の趣旨

 主文同旨

第2 事案の概要等

 本件は、沖縄防衛局が、普天間飛行場の代替施設を名護市辺野古沿岸域に設 置するための公有水面の埋立て(以下「本件埋立事業」 という。)に関し、公有水面埋立法42条3項において準用する同法13条/2第1項に基づき、埋 立地の用途及び設計の概要に係る変更の承認の申請(以下「本件変更申請」と いう。)をしたところ、被告が変更を承認しない旨の処分 (以下「本件変更不 承認」という。)をし、原告からこれを取り消す旨の裁決 (以下「本件裁決」 という。)や本件変更申請に係る変更の承認 (以下「本件変更承認」という。) をするよう是正の指示(以下「本件指示」という。)を受けた後も本件変更承認をしないことから、原告が、被告に対し、地方自治法245条の8第3項に基づき、本件変更申請を承認すべきことを命ずる旨の裁判を求める事案である。

1 関係法令の定め

 関係法令の定めは、別紙2のとおりである。

2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲証拠及び弁論の全趣旨によっ て容易に認められる事実)

 (1) 沖縄防衛局は、普天間飛行場の代替施設を設置するため、平成25年3月 22日、被告(沖縄県知事)に対し、沖縄県名護市辺野古に所在する辺野古崎地区に隣接する水域の公有水面の埋立ての承認を求めて願書を提出し、同年12月27日、その承認 (以下「本件承認処分」という。)を受けた。

 (2) 沖縄防衛局は、本件承認処分の後に判明した事情を踏まえ、地盤改良工事を追加して行うなどするため、令和2年4月21日付けで、被告に対し、本件変更申請をした。被告は、令和3年11月25日付けで、公有水面埋立法 42条3項において準用する同法13条ノ2第1項、並びに、同法42条3 項において準用する同法13条ノ2第2項において準用する同法4条1項1 号及び2号の各規定(以下、以上の各規定を 「本件各規定」 という。)の要 件に適合しないなどとして、本件変更不承認をした (甲24、弁論の全趣旨)。なお、本件変更申請に係る沖縄県の事務は法定受託事務である(公有 水面埋立法51条1号、地方自治法2条9項1号)。

 (3) 沖縄防衛局は、本件変更不承認を不服として、令和3年12月7日付けで、 地方自治法255条の2第1項1号に基づき、公有水面埋立法を所管する大 臣である原告に対し、審査請求をした。原告は、本件変更不承認に係る被告 の判断は裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものであって、本件各 規定に反し違法であるなどとして、令和4年4月8日付けで、本件変更不承 認を取り消す旨の本件裁決をした。(甲29、弁論の全趣旨)

 (4) 被告は本件裁決後も本件変更承認をしなかったところ、原告は、これが被 告の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものであり、「都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反している」 (地方自治法245条の 7第1項)と認められるなどとして、令和4年4月28日付けで、沖縄県に対し、本件変更承認をするよう本件指示をした。

 (5) 被告は、本件裁決及び本件指示を不服とし、地方自治法の定める国との紛争解決の制度に基づいてこれを解決することを希望して、それぞれ令和4年 5月9日及び同月30日付けで、国地方係争処理委員会に対し、地方自治法 250条の13第1項に基づく審査の申出をしたが、本件裁決については同 年7月12日付けでその申出を却下する旨の、本件指示については同年8月 19日付けで本件指示は違法でないと認める旨の審査の結果の通知を受けた (甲34、弁論の全趣旨)。

 (6) 被告は、国地方係争処理委員会の判断を不服として、本件裁決については同月12日に、本件指示については同月24日に、地方自治法の定める裁判所における国との紛争解決の制度に基づいて、これらを解決することを希望して、それぞれが違法な国の関与に当たると主張して、同法251条の5第 1項1号に基づき、その取消しを求める各訴えを提起した (前回訴訟。なお、本件裁決の取消しを求める訴えについては、令和5年8月24日、最高裁判 所において、これを不適法として却下した原審判決に対する被告の上告受理申立てを受理しない旨の決定がされた。)。(顕著な事実)

 (7) しかしながら、福岡高等裁判所那覇支部は、同年3月16日、被告の本件変更不承認が公有水面埋立法の本件各規定に違反すると実体判断をした上で、本件指示は地方自治法245条の7第1項所定の要件を満たすものとして適法である旨判示し、本件指示の取消しを求める被告の請求を棄却する旨の判決を言い渡した(甲34)。

 (8) 被告は、福岡高等裁判所那覇支部の前記判決を不服として最高裁判所に上告したが、最高裁判所は、同年9月4日、要旨、次のアからウまでのとおり判示し、被告の上告を棄却する旨の判決 (最高裁令和5年(行) 第143号同年9月4日第一小法廷判決。以下「令和5年最高裁判決」という。)を言い渡した(甲35)。

 ア 法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分について、これを取り消す裁決がされた場合、行政不服審査法の規定に基づき、都道府県知事は、上記裁決の趣旨に従って、改めて上記申請に対する処分をすべき 義務を負うというべきである。

 イ 法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分がその根拠となる法令の規定に違反するとして、これを取り消す裁決がされた場合において、都道府県知事が上記処分と同一の理由に基づいて上記申請を認容する処分をしないことは、地方自治法245条の7第1項 (是正の指示) 所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当する。

 ウ 本件の事実関係等によれば、本件裁決は被告のした本件変更不承認が公有水面埋立法の本件各規定に違反することを理由として本件変更不承認を取り消したものであるところ、沖縄県知事(被告) は本件変更不承認と同一の理由に基づいて本件変更承認をしないものといえるから、そのことは地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当する。

 (9) 前回訴訟は以上をもって終了したが、被告が令和5年最高裁判決を受けた後も本件変更申請を承認しなかったことから、原告は、地方自治法245条の8第1項に基づき、被告に対し、令和5年9月19日付けで、同月27日までに本件変更申請を承認するよう勧告したが、被告は、何ら対応せず、同日までに本件変更申請を承認しなかった。

原告は、同条2項に基づき、被告に対し、同月28日付けで、同年10月 4日までに本件変更申請を承認するよう指示したが、被告は、何ら対応せず、 同日までに本件変更申請を承認しなかった。

 (10) 原告は、令和5年10月5日、地方自治法245条の8第3項に基づき、本件訴えを提起した (顕著な事実)。

3 争点及び争点に対する当事者の主張

 前記2のとおり、代執行等につき定める地方自治法245条の8は、①各大臣の所管する法律若しくはこれに基づく政令に係る都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行(以下「管理等」という。)が法令の規定若しくは当該各大臣の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理等を怠るものがある場合 (以下、この要件を「法令違反等の要件」という。)において、②地方自治法245条の8第1項から第8項までに規定する措置以外の方法によってその是正を図ることが困難であり(以下、この要件を「補充性の要件」 という。)、かつ、③それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるとき(以下、この要件を 「公益侵害の要件」という。)であって(地方自治法245条の8第1項)、④同項所定の各大臣の勧告を経た上でした同条2項所定の各大臣の指示において定められた期限までに都道府県知事が指示された事項を行わないときは、各大臣が、高等裁判所に対し、訴えをもって、 当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判を請求することができる (3項) と規定している。

 そして、本件変更申請に係る沖縄県の事務は、原告(国土交通大臣)の所管する公有水面埋立法に係る法定受託事務であるところ、被告が本件変更申請を 承認しない旨の処分 (本件変更不承認)を行い、原告から地方自治法245条の8第1項所定の勧告及び同条2項所定の指示を受けた後も本件変更申請を承認していないこと (上記の④) については、前記前提事実のとおりである。

したがって、本件の争点は、本件変更申請に対する被告の事務 (法定受託事務)の管理等(本件変更申請を承認しないこと) について、①法令違反等の要件、②補充性の要件及び③公益侵害の要件、以上3つの各要件該当性が認められるか否かである。

(1)争点1(法令違反等の要件の該当性の有無) について

(原告の主張)

 令和5年最高裁判決は、本件変更申請を承認しない被告の事務処理が地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当するとして行われた本件指示が適法であり、被告の上記事務処理が 違法である旨の判断をしたものであって、当該判断が確定している以上、本件変更申請は本件各規定の下で承認されなければならないことが客観的に明らかであるから、本件指示を受けてもなお本件変更申請を承認しない被告の事務遂行は、同法245条の8第1項所定の「法令の規定」(本件では公有水面埋立法の本件各規定) に違反する 「法定受託事務の管理若しくは執行」 に該当するというべきである。なお、令和5年最高裁判決が確定している以上、その内容 (本件裁決があることを根拠に本件指示を適法としたもの)を理由に代執行訴訟において本件指示の適法性の内容審査が必要であるとする 被告の主張は誤りである。

 また、地方自治法245条の7の是正の指示は、法的拘束力を直接相手方に対して有するものとして同法 250条の13第1項にいう「処分」に該当するところ、当該「処分」と同法245条の8第1項の「各大臣の処分」とを別異に解する理由はないから、被告の上記事務遂行は、是正の指示である本件指示に違反するものとして、同項の「各大臣の処分に違反するものがある場合」にも該当するし、更には、本件指示によって課される義務を怠って いまだに本件変更申請を承認しないものとして、同項の「法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合」にも該当する。

(被告の主張)

 原告の指摘する令和5年最高裁判決は、被告が本件変更申請を承認しないことについて、公有水面埋立法の本件各規定の要件適合性について具体的に判断した原審の判断 (前提事実(7)) を採用せず、本件裁決の拘束力(行政不 服審査法52条参照) に違反することのみを理由に地方自治法245条の7にいう「法令の規定に違反」すると判示しただけで、本件各規定に違反するとは一切認定していないところ、裁決の拘束力そのものは本件変更申請がその申請要件を充足しているとの判断にまで及ぶものではないから、被告が本件変更申請を承認しないことが本件各規定に違反するとして地方自治法245条の8第1項の法令違反があるというためには、本件訴訟において本件変更申請が本件各規定の要件を充足することについての主張立証がされなければならず、令和5年最高裁判決を援用するだけでその主張立証をしない原告の請求は失当である。

また、地方自治法245条の7の是正の指示は、法定受託事務の処理に関する是正や改善の手段にすぎず、行政処分のような公定力や不可争力のない、一般の処分とは全く異なる形式の「公権力の行使」であるから、同法245 条の8第1項の「各大臣の処分」には当たらないし(同条と原告の指摘する 同法250条の13第1項とは制度目的が異なり、その対象となる国の関与の範囲も異なるのは当然であるから、上記「各大臣の処分」と同条の「処分その他公権力の行使」とが同一の意義であるとするのは誤りである。)、是正の指示に従わないことが 「法定受託事務の管理若しくは執行を怠るもの」に当たるものでもない。

 (2)争点2(補充性の要件の該当性の有無) について

(原告の主張)

 被告は、原告が地方自治法245条の7第1項に基づいて行った本件指示を受け、これが適法なものであることが確定してもなお本件変更申請を承認しないのであるから、被告の違法な事務遂行について同法245条の8第1項から第8項までに規定する措置以外の方法によってその是正を図ることが 困難であることは明らかである。上記方法とは、法定受託事務の適正な執行を図るための措置 (是正の指示等) を指すものであり、被告の主張する対話 (本件承認処分に基づく普天間飛行場の代替施設の設置工事の中止を前提とするもの)がされない限り補充性の要件が満たされないものではない。

(被告の主張)

地方自治法が国と地方公共団体の関係の対等性を前提として法定受託事務を地方公共団体の事務と整理し、関与の最小限度の原則等を定めていること、代執行が都道府県知事本来の地位の自主性・独立性を脅かすおそれがあること等からすれば、国による代執行は最終的な手段として謙抑的、抑制的に行われなければならず、同法245条の8第1項から第8項までに規定する措置以外の方法とは、同法上の個別関与に限らず、政治的方法を含む他のあら ゆる方法を指すものと解すべきである。そして、本件埋立事業が閣議決定に基づく事業であり、その中で国が沖縄県との対話を重視することが示唆されていることからすれば、原告は、内閣の一員あるいは法令所管大臣として被告との対話の場を設けるべき責務を負っているというべきであるから、被告からの本件埋立事業に関する問題解決に向けた対話の求めを無視し、十分な対話の場を設けないままに代執行の手続を行うことは、補充性の要件を欠くものであって、違法といわざるを得ない。

 (3)争点3(公益侵害の要件の該当性の有無) について

(原告の主張)

 本件埋立事業は、喫緊の課題である普天間飛行場の危険性の除去等の公益 性の高い目的を実現しようとするものであり、本件変更申請は、このような 目的を有する本件埋立事業に係る本件承認処分を前提に、その後に実施され た土質調査の結果を踏まえて地盤改良工事の追加やこれに伴う設計・施工の 合理化等を図るものであるから、その変更承認後の事業も同様に公益性の高 い目的を実現しようとするものである。

 沖縄防衛局は、本件変更申請が承認されないことにより地盤改良工事を伴 う大浦湾側の工事等に着手することすらできない状況にあり、このような状 況が続けば、本件埋立事業が事実上停止しかねず (その財政上の影響は軽視できず、本件埋立事業の目的に与える公益上の影響も甚大である。)、我が国 の安全保障と普天間飛行場の固定化の回避という公益上の重大な課題が達成されず、普天間飛行場の周辺住民等の生命・身体の危険を除去できない上、 日米間の信頼関係や同盟関係等にも悪影響を及ぼしかねないという外交上・ 防衛上の不利益が生ずる。本件は、申請から既に3年5か月以上が経過しており、本件指示による承認義務を負ってからで見ても1年5か月以上経過し、 さらには、最高裁判所において、承認するよう指示した本件指示が違法でないこと、すなわち、承認しない被告の事務処理が違法であるとの判断が確定し、その違法が明白になっている。それにもかかわらず、これを承認せずにいるという被告の状態を放置することは、客観的に本件埋立事業の進捗を遅延させるものにほかならず、その結果、普天間飛行場の危険性の除去の実現 を阻むものであり、被告が本件変更申請を承認しないという法令違反等を放 置することにより、「著しく公益を害することが明らか」である。

 なお、公益侵害の要件とは被告が本件変更申請を承認しないという法令違 反等を放置することによる公益侵害を問題とするものであるから、地方公共 団体や住民に係る公益や当該団体の意思決定の民主的正当性に係る公益を考 慮すべきとする被告の主張には理由がない。

(被告の主張)

 地方自治法245条の8が公益侵害の要件を定めたのは、憲法の定める地 方自治の本旨に鑑みれば代執行が最終的、例外的な関与手段であることを前 提に、その発動を許容し得るだけの公益侵害があるか否かを判定するためで あるから、住民自治、団体自治の観点からは、原告の主張する公益のみなら ず、当該地方公共団体や住民に係る公益 (当該団体や住民の福祉への影響 等)、当該地方公共団体の意思決定の民主的正統性に係る公益(民意、地域 住民の自己決定) が考慮されるべきである。そして、同条の「著しく」や 「明らか」との文言からすれば、その要件判断は厳格にされなければならないところ、原告の主張する公益侵害はいずれも抽象的なものにとどまる(本件埋立事業が本件変更申請に伴い最短でも12年かかることとなることからすれば普天間飛行場の危険性の除去等という公益の侵害は極めて抽象的なものにすぎない上、米国が辺野古移設の滞りによる日米関係への悪影響は全くないと述べるなど、普天間飛行場を先行的に閉鎖させない前提であれば何ら 安全保障上の問題に発展することはないし、中国のミサイル能力の向上を受けて米国海兵隊の作戦計画も大きく変容しつつあるため、平成8年や平成1 8年当時の安全保障環境を前提とした計画がその必要性・合理性について検 討されないまま進められるのは非合理的というほかない。軟弱地盤の判明に 伴い総事業費が更に大幅に増える可能性もある以上、一旦事業を始めたから 最後までやるというのではなく、速やかに停止した方が財政上の悪影響を防止し得る。)。

 そして、沖縄県民の民意の背景にある沖縄戦以降78年にわたる歴史的経緯等(全国の約0.6%にすぎない沖縄県に米軍専用施設の約70.3%が集中している現状やその経緯、基地騒音・航空機等の墜落や米軍による犯罪 等の基地被害の存在、国が唱える基地負担の軽減の空虚さ等)を踏まえれば、 国が普天間飛行場の危険性の除去等に真摯に対応しているように見えないとして本件埋立事業に反対している沖縄県民の民意が「公益」として考慮されるべきことは当然であり、沖縄県民や沖縄県にとって極めて重大な政策課題であり、沖縄県民の基本的人権の保障に大きく関わる本件について、沖縄県 民の真摯な同意を得ない状況で代執行をすることは認められるべきではない。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所は、法定受託事務である本件変更申請に係る沖縄県の事務について の被告の管理等は法令の規定に違反するものであり、地方自治法245条の8 所定の代執行以外の方法によってその是正を図ることが困難であり、それを放 置することにより著しく公益を害することが明らかであるから、本件訴えに係る原告の請求は理由があるものと判断する。その理由は、次のとおりである。

2 争点1(法令違反等の要件の該当性の有無)について

 (1) 地方自治法245条の8第1項の代執行とは、「普通地方公共団体の事務の処理が法令の規定に違反しているとき (中略)に、その是正のための措置を当該普通地方公共団体に代わって行うこと」 をいう(同法245条1号ト)ところ、同法245条の7第1項が是正の指示の要件について 「都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反している」 として同号トと同一の文言を用いていることからすれば、同項にいう「法令の規定に違反している」と認めるときに該当する場合には、代執行に係る同法245条の8第1項所定の法令違反等の要件の一つである 「都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定 (中略) に違反するものがある場合」 との要件に該当するものと解するのが相当である。

 (2) そこで検討するに、前記前提事実のとおり、本件裁決は、本件変更不承認が公有水面埋立法の本件各規定(公有水面埋立法42条3項において準用する同法13条ノ2第1項、並びに、同法42条3項において準用する同法1 3条ノ2第2項において準用する同法4条1項1号及び2号)に違反することを理由に本件変更不承認を取り消したものであるところ、令和5年最高裁判決においては、本件の事実関係等によれば、被告は本件変更不承認と同一 の理由に基づいて本件変更申請を承認しないものであり、「法令の規定に違反していると認めるとき」 (地方自治法245条の7第1項) に該当するとして、本件指示は適法である旨の判断がされたのであるから、被告の本件変 更不承認は公有水面埋立法の本件各規定に違反することが確定したといえる。 それにもかかわらず、被告は、令和5年最高裁判決を受けた後も何ら対応せ ず、前記のとおり主張するなどして、本件変更申請を承認していないのであ るから、本件変更申請に対する被告の事務 (法定受託事務)の管理等につい ては、公有水面埋立法の本件各規定に違反し、地方自治法245条の8第1項所定の法令違反等の要件のうち 「法令の規定(中略) に違反するものがあ る場合」との要件に該当するものと認められる。

 (3) これに対し、被告は、今和5年最高裁判決が本件裁決の拘束力に違反することのみを理由に本件指示の適法性を認めているなどと指摘した上で、被告が本件変更申請を承認しないことが本件各規定に違反するとして地方自治法 245条の8第1項の法令違反があるというためには、原告において本件変 更申請が本件各規定の要件を充足することを主張立証しなければならない旨主張する。

 しかしながら、前記前提事実(1) ないし(8) で説示したとおり、この点については、原告と被告との間で、国地方係争処理委員会、福岡高等裁判所那覇支部、最高裁判所の各所で争われたが、最終的には、前回訴訟における令和5 年最高裁判決等において、被告の本件変更不承認を公有水面埋立法の本件各 規定に違反するものとした本件裁決や本件指示が適法に確定しているのであるから、被告の主張は理由がないものといわざるを得ない。令和5年最高裁 判決の判示内容は、本件変更不承認を取り消した本件裁決が本件各規定に違反することを理由としていることを摘示した上で、被告が本件変更申請を承認しないことは 「法令の規定」 に違反していると判示するとともに、本件裁決と同様の判断過程により実体判断をして本件指示を適法とした原審(福岡 高等裁判所那覇支部) の判断を結論において是認しており、ここでいう「法令の規定」が公有水面埋立法の本件各規定を指すことは明らかであって、本件変更不承認が公有水面埋立法の本件各規定に違反することについては既にその判断が確定しているのであるから、代執行に当たって本件変更申請が本 件各規定の要件を充足することの主張立証を要するとの被告の上記主張は、独自の見解に立つものであって失当といわざるを得ない。

 (4) そうすると、その余の点は判断するまでもなく、本件変更申請に対する被 告の事務の管理等(本件変更申請を承認しないこと) については、法令違反等の要件に該当する。

3 争点2(補充性の要件の該当性の有無) について

 前記2でみたとおり、地方自治法上の「代執行」は、国の行政機関が「普通 地方公共団体の事務の処理が法令の規定に違反しているとき (中略)に、その 是正のための措置を当該普通地方公共団体に代わって行うこと」をいう(同法 245条1号ト) とされていることからすれば、地方自治法245条の8第1 項にいう「本項から第8項までに規定する措置以外の方法」とは、地方自治法 の定める法定受託事務の適正な執行を図るための措置をいい、具体的には、地方自治法245条の7の規定に基づく是正の指示等がこれに当たるものと解さ れる。

 そこで、本件につき検討するに、被告は、前記前提事実のとおり、法定受託事務に係る本件変更申請について本件変更不承認を行い、これを取り消す旨の本件裁決や本件変更承認をするよう本件指示を受けても本件変更承認をせずに、本件裁決や本件指示の取消しを求める各訴えを提起し、最高裁判所で敗訴が確定した後も何ら対応せず、前記のとおり主張するなどして本件変更承認をしない(前提事実(2)~(9))。そうすると、被告において本件変更申請を承認しない という意思は明確かつ強固であるというほかなく、地方自治法245条の8所定の代執行以外の措置により法定受託事務である本件変更申請に係る沖縄県の事務の適正な執行を図ることは困難であると認められる。

 これに対し、被告は、上記措置には地方自治法上の個別関与に限らず、政治的方法を含む他のあらゆる方法が含まれることを前提に、国が被告からの本件埋立事業に関する問題解決に向けた対話の求めを無視し、十分な対話の場を設けないままに代執行の手続を行うことは、補充性の要件を欠くものである旨主張する。しかし、地方自治法245条の8第1項にいう「本項から第8項まで に規定する措置(代執行等)以外の方法」とは地方自治法245条の7の是正の指示等をいい、被告主張の「対話」がこれに当たるとはいえない。また、この点を措くとしても、法定受託事務の適正な執行を図るための措置をいうことは既に判示したとおりであるところ、本件埋立事業に関する沖縄県の立場(政府において「辺野古移設が唯一の解決策」との固定観念にとらわれることなく、 現行移設計画を断念し、問題解決に向けた沖縄県との対話に応じるよう求めるというもの (乙20等)) に照らすと、現時点において被告が主張している対話とは、被告が本件変更申請を承認しないことを前提とするものであることは明らかであるから、本件変更申請に係る事務 (法定受託事務)の適正な執行を図るための措置に当たるものとは認められない。被告の上記主張は、以上と異なる前提に立つものであるから、採用することができない。

 そして、本件埋立事業に関し、地方自治法245条の8第1項から第8項までに規定する措置(代執行等)以外の方法によって、より早期に当該事務の適正な執行を図り得る方法があるといった事情は見当たらないから、本件変更申請に対する被告の事務の管理等 (本件変更申請を承認しないこと) については、 補充性の要件に該当する。

4 争点3(公益侵害の要件の該当性の有無) について

 (1) 地方自治法245条の8第1項にいう「それを放置することにより著しく公益を害することが明らか」 である場合とは、都道府県知事の法定受託事務の管理等が法令の規定若しくは当該各大臣の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理等を怠るものがある場合において、それを放置することによる社会公共の利益に対する侵害の程度が甚だしい場合のことをいうものと解するのが相当である。

 (2) そこで検討するに、本件変更申請は、本件承認処分当時の沖縄県知事からその周辺に学校や住宅、病院などが密集し騒音被害や航空機事故の危険性な ど、住民生活に深刻な影響を与えており、その危険性の除去が喫緊の課題である旨の指摘がされた普天間飛行場(甲4、5) の代替施設を設置するための公有水面の埋立て (本件埋立事業)に関し、本件承認処分後の事情を踏まえた地盤改良工事を追加して行うなどするためのものであるところ、このよ うに普天間飛行場の危険性が人の生命や身体に大きく関わるものであることに加え、本件変更申請から約3年半、本件裁決がされてから約1年半の期間 が既に経過していること (前提事実(2)、(3)) も踏まえると、本件変更申請に係る事務がこのまま放置された場合には、本件埋立事業の進捗が更に遅延し、ひいては上記のとおり人の生命、身体に大きく関わる普天間飛行場の危険性の除去の実現がされず又は大幅に遅延することとなるものといえるから、なおこれを放置することは社会公共の利益を侵害するものに当たるものと認められる(なお、本件変更承認以外の方法によって、上記事務の適正な執行、ひいては本件埋立事業の実現による普天間飛行場の危険性の除去を図り得る方法が見当たらないことは前記3でみたとおりである。)。

 しかも、本件においては、前記前提事実(8) のとおり、被告は、令和5年最高裁判決において、本件裁決の趣旨に従って改めて本件変更申請に対する処 分をすべき義務を負う旨や、本件の事実関係等によれば本件変更申請を承認 しないことは法令の規定に違反していると認められる旨の判断を受けている にもかかわらず、県知事たる被告が令和5年最高裁判決において法令違反と の判断を受けた後もこれを放置していることは、それ自体社会公共の利益を 害するものといわざるを得ない。

 (3) 以上の諸点を踏まえると、本件変更申請に対する被告の事務の管理等(本 件変更申請を承認しないこと) については、甚だしく社会公共の利益を害す るものと認められるから、「著しく公益を害することが明らかであるとき」 として、公益侵害の要件に該当する。

 (4) これに対し、被告は、原告の主張する公益の侵害がいずれも抽象的である旨主張するが、前記の普天間飛行場の危険性の性質や内容(騒音被害や航空機事故の危険性など、人の生命、身体に大きく関わるものであること) からすれば、今後本件変更承認がされた場合に想定される工事期間を踏まえても、本件変更申請に係る事務についての法令違反を放置することによって侵害される公益の内容が抽象的であるとは到底いえない。

 また、被告は、住民自治、団体自治の観点からは、当該地方公共団体や住民に係る公益(当該団体や住民の福祉への影響等)、当該地方公共団体の意思決定の民主的正統性に係る公益(民意、地域住民の自己決定)が考慮されるべきであるとして、本件埋立事業に反対する沖縄県民の民意の背景にある 沖縄戦以降78年にわたる歴史的経緯等を踏まえれば、沖縄県民や沖縄県にとって極めて重大な政策課題であり、沖縄県民の基本的人権の保障に大きく関わる本件について、沖縄県民の真摯な同意を得ない状況で代執行をすることは認められるべきではないなどと主張する。

 沖縄で地上戦が行われ、多くの県民がその犠牲になったことや、戦後も沖縄は米軍統治下にあり、「銃剣とブルドーザー」 により米軍基地が建設されていった歴史的経緯等を踏まえれば、沖縄県民の心情は十分に理解できるところではある。

 しかしながら、地方自治法245条の8第1項が「それを放置することにより著しく公益を害することが明らか」 であることを要件として定めていることからすれば、法律論としては、ここでいう「公益」とは法定受託事務に係る法令違反等を放置することによって害される公益を念頭に置いたものと解されることから、公益侵害の要件の判断に当たって被告の主張する「公益」を当然に考慮し得るものとはいい難い。その一方で、既にみたように、普天間飛行場の危険性は生命、身体に大きく関わるものとして現に存在しているのであり、これが現実化した場合にはその周辺地域や住民に深刻な影響が生ずるものと想定されることを踏まえると、本件において公益侵害の要件の該当性が否定されるべきものとはいえない。

 しかも、本件においては、前記のとおり、被告のした本件変更不承認をめぐる国と地方の行政機関間の紛争は、被告の申立てにより、地方自治法の定める紛争関係のための諸制度による解決が企図され、各機関により解決が示 され、最終的には、前回訴訟における令和5年最高裁判決をもって最高裁判 所によりその解決方法が確定したのであるから、地方の行政機関である被告沖縄県知事が確定した令和5年最高裁判決を放置することは、地方自治法の定める諸制度を踏みにじるものであることはもとより、憲法が基本原理とする法の支配の理念や法治主義の理念を著しく損なうものであって、社会公共の利益を甚だしく害するものといわざるを得ない。本件代執行手続については、紛争を同じくする訴訟 (前回訴訟) 等が被告沖縄県知事の申立てにより 先行しており、ここにおいて解決が既に図られている点に留意されなければならない。

 そうすると、以上と異なる前提に立つ被告の主張は、いずれも採用することができない。

 以上によれば、原告の請求は理由があるから、地方自治法245条の8第6 項に基づき、被告に対し、主文1項記載の事項を同項所定の期限内に行うべきことを命ずることとして、主文のとおり判決する。

 なお、付言するに、令和5年最高裁判決において確認された本件変更申請に係る事務について生じている法令違反の状態を解消し、普天間飛行場の危険性の除去をできる限り早期に、かつ、現実的な形で実現するためには、当面のところ代執行によらざるを得ないことは、これまでに判示したとおりであるが、今後十数年にわたって予定されている本件変更申請に係る工事を進めるに当たっては、更なる設計概要変更等の必要が生ずる可能性もあり得るところ、法定受託事務に関する国の関与についてはその目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならないとされていること (地方自治法245条の3第1項参照) も踏まえると、今後そのような事態が生じた都度、繰り返し訴訟による解決が図られることは、国と地方との関係をみた場合、必ずしも相当なものとはいい難い。被告の指摘する歴史的経緯等を背景とした本件埋立事業に対する沖縄県民の心情もまた十分に理解できるところであり、国としても、沖縄県民の心情に寄り添った政策実現が求められている。このような観点からは、普天間飛行場の代替施設をめぐる一連の問題に関しては、国と沖縄県とが相互理解に向けて対話を重ねることを通じて抜本的解決の図られることが強く望まれている。

福岡高等裁判所那覇支部民事部

裁判長裁判官 三浦隆志

裁判官 下和弘

裁判官 吉賀朝哉