欧米の政府関係者800人以上、自国のイスラエル・ガザ戦争対応を批判 声明に署名

破壊されたガザの街並み

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トム・ベイトマン、BBC米国務省担当特派員

アメリカや欧州の政府で働く公務員800人以上が、イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区での戦いに対する自国政府の政策は「深刻な国際法違反」に相当する恐れがあると警告する文書に署名した。

BBCが入手した「大西洋を超える声明」の文書に署名した公務員たちは、自分たちの政府が「今世紀最悪の壊滅的な人道上の破局」に加担する事態になりかねないものの、自分たちの専門的な意見は度外視されたと批判している。

文書には、アメリカと欧州連合(EU)の当局者のほか、イギリス、フランス、ドイツを含む欧州11カ国の公務員が署名している。

イスラエルを支える主な西側諸国の政府内で、ガザ情勢への自国の対応について、相当な異論があることが、あらためて浮き彫りになった。

アメリカ政府の国家安全保障政策分野で25年以上の経験を持つ当局者も、この文書に署名。自分たちの懸念を何度繰り返しても「捨て置かれる事態が続いている」と、BBCに話した。

「あの地域と現場の力学を理解する人たちの声は、聞き入れられていない」と、この官僚は話した。

「これまでと本当に何が違うかというと、自分たちは問題を阻止できていないというのではなく、自分たちは積極的に問題に加担している。これは自分が記憶する限り、これまでと根本的に全く異なる状態だ」と、匿名を条件に取材に応じたこの官僚は話した。

「限界のない」イスラエルの軍事作戦

欧米で800人以上の政府関係者が署名した文書はさらに、イスラエルがガザ地区で展開する軍事行動には「何の限界もない」とイスラエル自ら示していると指摘。

その行動の結果、「民間人の死は防げたはずが、何万人もの民間人が死亡している。(中略)援助物資の搬入を意図的に阻止することで、大勢の民間人を飢餓と緩慢な死の危機にさらしている」と批判している。

「国際法の深刻な違反、戦争犯罪、そして民族浄化や大量虐殺にさえ、我々の政府の政策が加担しているリスクが高い」とも、官僚たちは指摘している。

この文書に署名、あるいは支持した人たちの名前は公表されていない。BBCも名前の一覧は確認していないが、その半数近くが少なくとも10年は政府で働いている経験者だと説明を受けている。

かつてアルジェリアとシリアでアメリカ大使を務め、現在は引退しているロバート・フォード氏はBBCに、複数の政府で働き、自国政府の方針に反対する公務員たちがこれほどの規模でまとまって声を上げるのは、前例のないことだと話した。

「過去40年にわたり外交政策を見てきた経験からしても、かつてないことだ」と、フォード元大使は言う。

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フォード元大使は先例として、2003年3月に始まったイラク戦争をめぐり、開戦の根拠として入手した情報に欠陥があるのではないかと、当時のアメリカ政府内に懸念が募っていたケースを挙げる。ただし、当時と今回の違いは、今の政府の対応に批判的な当局者が沈黙を守らなかったことだとも、元大使は言う。

「(当時のアメリカ政府内には)本当はそうではないと実態を知り、自分たちの解釈に都合よく機密情報を取捨選択して政策を決めている、戦後について何も計画していないと知っている人たちがいたが、誰もそれを公言しなかった。それが深刻な問題につながった」と、元大使は説明する。

「ガザ戦争の問題はあまりに深刻で、その余波はあまりに深刻なので、(今の各国政府内には)その懸念を公表せざるを得ないと強く思う当局者たちがいたのだ」

公務員の不満高まる

800人以上の公務員が署名したこの文書は、自分たちの政府が現在、「実際には無条件に、何の説明責任も求めないまま」イスラエルを軍事的、政治的あるいは外交的に支え続けるのは、パレスチナ人の命を引き続き危険にさらすだけでなく、イスラム組織ハマスに拉致された人質の命をも危険にさらし、かつイスラエル自身の安全保障や地域の安定性をも、危険にさらしていると批判している。

「イスラエルの軍事作戦は、(アメリカへの同時多発攻撃)9/11以来積み上げられてきた、重要な対テロ知見をいっさい無視している(中略)作戦はハマス打倒というイスラエルの目標に貢献せず、むしろハマスやヒズボラやその他の敵対勢力の魅力を強化している」とも、文書は指摘する。

署名した当局者たちは、専門家としての自分たちの懸念は政府内で表明してきたものの、「政治的およびイデオロギー的な理由から、覆されてきた」とも書いている。

この文書を支持するイギリス政府高官はBBCに対して、公務員の間の「不満が高まっている」と話した。

この政府高官は、今月26日に国連の国際司法裁判所(ICJ)がイスラエルに対し、パレスチナ自治区ガザ地区でのジェノサイド(集団虐殺)を防ぐためにあらゆる対策を講じるよう、暫定的に命じたことの、余波に言及した。

南アフリカ政府が提訴したことによるICJ判断を、「この国の外相が『有益でない』と一蹴したことは、(法や規範に基づく国際社会の)秩序を脅かすものだ」と、イギリス政府高官は述べた。

「イスラエル政府が批判されると、その内容についてこの国の閣僚が、しっかりした証拠に基づいた適切な法的助言を得ないまま、批判を一蹴するような発言をしてきた。我々の現在の方針は、イギリスの国益にとっても、中東地域や国際秩序にとっても、最善とは思えない」と、匿名を条件に取材に応じたイギリス高官は話した。

「ジェノサイド・ジョー」とプラカードをつけたバイデン米大統領の人形を掲げ、イスラエルを支援するアメリカを非難する抗議者たち

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画像説明, 「ジェノサイド・ジョー」とプラカードをつけたバイデン米大統領の人形を掲げ、イスラエルを支援するアメリカを非難する抗議者たち(13日、ワシントン)

今回の声明についてイギリス外務省は、ガザでの戦闘ができるだけ速やかに終わってもらいたいと考えているとコメントした。

「外務大臣が言うように、イスラエルは国際人道法の範囲内で行動すると約束しており、そうする能力もある。しかし、ガザの民間人に対する影響を私たちは深く憂慮している」と、外務省報道官は述べた。

欧州委員会は、声明の内容を「検討」すると述べた。BBCは、米国務省にもコメントを求めている。

公務員800人以上の声明は、イスラエルの軍事作戦はガザで前例のない生命・財産の破壊を引き起こしているが、ハマスの脅威を取り除く実現可能な戦略はないように見えるし、イスラエルの安全を長期的に保障するための政治的な解決策もないように見えると指摘している。

その上で声明は、「イスラエルの作戦の後ろには、戦略的で、かつ正当性を弁護できる論拠があるかのように、国民に向けて主張し続けるのをやめる」よう、アメリカと欧州諸国の政府に呼びかけている。

イスラエルは反論続ける

イスラエル側はこうした批判に、反論を続けている。今回の声明を受けて、在ロンドンのイスラエル大使館は、自分たちは国際法に従っていると述べた。

さらに、「イスラエルは引き続き、戦争犯罪だけでなく人道に対する罪を繰り返し、大量虐殺を続けるテロ組織に対して、行動をとり続ける」と主張した。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はこれまで、人質の解放実現にはハマスに対する総力戦を続けるしか方法がないとしている。イスラエル国防軍は、ハマスが使用する地下インフラの相当部分を破壊したとしている。それには、指揮や武器保管の拠点、人質収容の拠点なども含まれるという。

イスラエル軍は1月29日の時点で、「(ガザ南部)ハンユニス全域の地上と地下で、2000人以上のテロリストを排除した」と述べている。

イスラエルはこれまで繰り返し、民間人を標的にしていないと主張。ハマスが民間インフラの中や周辺に潜伏しているのだと繰り返している。

昨年10月7日に戦闘が始まって以来、ガザでは2万6750人以上のパレスチナ人がイスラエル軍に殺され、少なくとも6万5000人が負傷したと、ハマス運営の保健省は発表している。ガザ地区は2007年以来、ハマスが実効支配し、イスラエルとエジプトが封鎖を続けている。

イスラエル側は、10月7日以来、ガザで死亡したうち9000人はハマス戦闘員だと主張するが、裏付けとなる証拠は提示していない。イスラエル軍によると、ハマスのイスラエル奇襲では1200人以上が殺され、さらにその後、負傷のため100人が死亡した。250人以上がハマスに拉致され、ガザへと連行された。

アメリカ政府は、「あまりに多くのパレスチナ人がガザで殺されている」と繰り返す一方、イスラエルは10月7日の事態が「二度と起きない」ようにする権利があるともしている。