カンネ「ラヴィーネなんか嫌い」
私、ラヴィーネと幼馴染のカンネは昔から仲が良い友人であった。
幼い頃は手をつないで歩いたり、同じベッドで寝たこともあるくらいである。
成長した今では流石にいつも一緒という状態ではなくなったが、
それでも何かとべたべた触り合うことが多いということは自覚していた。
カンネの様子が何だかおかしいと思うようになったのは少し前のことである。
「ねえ、いま暇なんだけど…」
後ろから私の肩に手を置いて話しかけてきた。
ここまではよくあることだった。
「何だよめんどくせぇな…」
「え~遊んでよ、ラヴィーネも暇でしょ?」
カンネが私の背中に抱きついてきた。
私たちは昔からふざけて抱き合うことがあったが、その日の抱き方は何かが違うと感じた。
「ねぇねぇ、聞こえてる?」
身体をべったりと重ねて抱きしめながら言う。
「ねぇ、ラヴィーネさぁ」
さらにほっぺたを私の背中に擦りつけてきた。
これは明らかに友人の距離感ではない、と思った。
「あっ、アタシ用事あるからごめん」
「えっ…うん、じゃあね」
自分でもびっくりするくらいへたくそな言い訳を使って私はその場から逃げ去った。
それ以降もカンネは私に会うと抱き着いたり手を繋いだり腕を組もうとしてきて、
そのたびに私は違和感を覚えて逃げる、ということを何度か繰り返した。
「ねぇラヴィーネ、私に触られるのイヤ…だったりする?」
めちゃくちゃ落ち込んだ顔をして私に言う。
これだけ私から逃げられ続けたらそう思って当然だろう。
「いや、そんなことは…ねぇよ」
「じゃあ、いま私とハグできる?」
できる、と即答はできなかった。
カンネは何やら私に想いを抱えているらしい。
しかもいま私たちはカンネの部屋で二人きりだった。
この返答しだいで私たちの関係が変わってしまうかもしれないのだ。
「やっぱりダメ?」
「……いい、好きにしろ」
ドンッとぶつかるようなスピードで抱き着かれた。
痛みを感じるくらいの強さで思い切り抱きしめられた。
「ラヴィーネ、私…ラヴィーネのこと嫌い」
「嫌いなのかよ」
「だって私、ラヴィーネのせいで苦しくて…辛い気持ちになるから、だから嫌い」
「おいお前…」
まったくこの子は、臆病なやつなのは知っていたが
どうやら私の助けがないと自分の気持ちすら言えないらしい。
「ラヴィーネ……キス、してもいい?」
「やだ」
「えっ、なんで?」
「アタシのこと嫌いなんだろ?」
「……」
「嫌いならキスさせてやらない」
「……き…だよ」
聞こえねえよ、と言おうとした口を塞がれた。
これが私たちのファーストキスになった。