どこか変哲のある1日
夜咲太陽がなんかおかしい。珍しく2人ともお休みな日の14時。私、夜桜六美は夫の太陽の異変を感じていた。
いや、いつも通りなんだけど。なんだけど!いつもより.....くっついてくる......!!正直、心臓が持たない.....
例えば.....お昼ごはんの食器洗ってたら「俺やるよ」って言ってくれるのは(ありがたいことに)いつもなんだけど...その時後ろからぎゅって、抱きついてきたり。その後、髪とか左手にキスしてきたり。
珍しく甘えてくれてるのかな。そうだとしても違っても、嬉しいんだけど....。どうしたんだろ。なにか嫌なことがあったなら、聞きたい...
せっかくの休日。2人で映画を観ようとローテーブルの前に座ったいいものの、太陽の脚のなかにすっぽりと収められ、首元に太陽の頭の重みを感じているこの状況の中で、私が口を開く。
「.....っ、太陽....?」
「ん?」
何事もないかのように太陽が返事をする。
「なにか、嫌なこととか....あった...?」
単刀直入に聞くと、太陽がなんで、と答える。絶対にこの感じは、気のせいじゃないと思うんだけどな.....。私を抱きしめる太陽の腕にぐっと少し力が入ったのがわかる。
「.....だって、なんかいつもより太陽がくっついてくるから....」
そう言うと太陽が私の左手を取ってキスをした。
「....嫌?」
やばい。私の夫が可愛すぎる。かっこよすぎる。オーバーヒートしそうだ。たぶん私、顔赤いと思う。太陽の体温を感じてるのもあって、すごく暑い...。
「嫌なんかじゃないけど....!なんか嫌なこととかあったら聞くよ...?」
太陽が私の指輪をするりと撫でた。太陽の返事を待っていると、じゃあ、と口を開いてくれた。
「この間のパーティーで、視線を集めてたのは....自覚ある?」
この間のパーティー....?2日前の日曜日に2人で行ったパーティーのことだよね。お偉いさんたちが集まるような上品なパーティーでドレスコードもあったから、太陽もスーツを着て、私もドレスを着た。夜桜家当主だーって、見られてただけだと思うんだけど。
「....?夜桜家当主だから、でしょ?」
そう言うと太陽が少し、ほんの少しだけ呆れたような感じで再び口を開いた。
「若い男の人たちにめちゃくちゃ見られてた。背中あいたデザインのドレス、着てたから。」
そういえば、会場に入って少ししてから太陽にストールをかけるように言われたっけ。そういうことだったのかな。出かける前に殺香に似合ってるか聞いたら大絶賛してくれたから....似合ってないわけじゃなかったはずなんだけど。
「似合ってなかった?」
太陽の言いたいことがいまいち分からなくて聞いてみる。太陽が違う、と言った。
「.....俺の六美なのに。」
太陽がぽつりとそう呟いたのが聞こえた。....ん?まさか....
「太陽....妬いてる?」
と聞いてみると太陽が再びぎゅっと私を抱きしめる腕に力を入れた。
「....うん」
「....!!!」
私は驚いて目を見開く。まさか。あの太陽が?正直に言うと.....すごく可愛い。じゃあ今日1日ずーっとくっついてたのは、私が別の男の人たちに凄く見られてたのに妬いちゃって、くっつくことで私が自分のだって安心したかったってこと?
「ふふ、太陽ってば可愛い...!」
「え」
堪えきれず笑ってしまうと、太陽が困惑したようにこちらを向いた。どうやら本人には自覚がないみたい。
「私が別の男の人たちにみられてるの、嫌だったんだね」
右手で太陽のふわふわした髪をそっと撫でる。今度、露出がほぼないようなドレスを探そうかな。
「......嫌だった
だって、俺の大事な奥さん、なのに....」
あぁもう。可愛い。可愛すぎるよ私の旦那さん!!
そう静かに悶えていると、1つ腑に落ちた。
昨夜、太陽と....その、えっち、したんだけど。なんだか背中にすごくキスをしてくれたような気がするもの。そういうことだったんだ。
「じゃあ今日は、甘えてくれるの?」
珍しく甘えてくれるのは凄く嬉しいから。右手でふわふわと太陽の髪を手ぐししながら、期待も込めて太陽に聞く。
「....そうする。」
そう答える太陽の耳はかなり赤くなっていた。珍しいことがこんなに重ねがけで起きるとは。太陽が照れてる.....!!
「大丈夫だよ。私は太陽だけのものだからね。」
あやすように声をかけると、ん、と小さく返事をされた。相変わらず顔は私の首元に埋めたまま見せてくれない。どうやら本格的に照れているらしい。本当に愛しくてしょうがない。私だけの旦那さん。ほぼ初めて嫉妬を経験して、珍しく甘えてくれてる太陽が、心の底から愛しかった。抱きしめる力が油断して緩くなっている太陽の腕から逃れて、太陽の正面に座り直す。大好きだよ、愛してるよの意味を込めて唇にキスをした。太陽がびっくりした顔をしたあと、少し満足そうに微笑んだのを私は見逃さなかった。
太陽の脚の中に収まり直して、映画の再生ボタンを押す。ゆるりとした恋愛映画。
恋人繋ぎをいつもより少し強い力で握る太陽が本当に、本当に愛おしいと思った。
-fin-