本編後IF〜偉大な魔法使いの一番弟子〜プロローグ

本編後IF〜偉大な魔法使いの一番弟子〜プロローグ


 燃え盛る村。命乞いをする父と母。

父を殴り母を犯し、下卑た笑い声を上げる醜い男。

俺は、隠れながら目の前で起こる地獄を見ていた。

なんで。どうして…。さっきまではあんなに平和で楽しい日常だったのに。

駄目だ、此処に居たら俺まで殺される。

逃げなきゃ……どこか、遠くへ…。

そういえば、この辺りに廃墟があった筈。

昔肝試しに行った廃墟を思い出した瞬間、俺の脚はそこに向かって走り出していた。

母が殺され、父の断末魔が響く。

泣くな。走れ。生きろ。逃げろ。

生き延びて、彼奴等に復讐するんだ。


 決意を胸に道を走り、ようやく廃墟へ着いた。

辺りに人の気配が無い事を確認して、中へ入る。

まだ気を緩める事は出来ない。

しかし、緊張と恐怖で張り詰めていた心は「建物の中にいる」安堵でボロボロのと涙を溢し始めた。

両親が、村の人が、友人が…皆…。

「…っ、ふ…。ぐ…ぅうっ…。」

なんで、なんで。俺達が何をした。

ただ楽しく暮らしていただけなのに。

どうして…。

グルグルと思考が駆け巡り、現状を嘆いていると

「あ〜、坊や?大丈夫かい?

随分とボロボロだが…君に一体何があったんだ?」

「誰っ…?!」

唐突に聞こえてきた謎の声に体が跳ね上がる。

この廃墟には俺しかいないはず。

まさか…お化け?

「誤解しているようだが、私はお化けやその類ではない。君から見て右の…壁にかけてある小さな鏡を見てごらん?世界一素敵なハンサムが見れるぞ?」

……謎の声に従うべきなのか、疑わしい。

確かに俺から見て右の壁には鏡が掛かっている。

だが鏡を見て何になると言うんだ。

でも…、従わなければどうなるか分からない…。

両親の最期を思い出し、俺はゆっくりとその鏡に近付いた。

「…え…?」

その鏡を見て俺は驚いた。

だって、鏡の中に男の人が入っていてこっちを見ていたから。

「なんだ、反応が薄いな。もっと驚くとかなんとかして欲しかったが…まぁ良い。

それで?坊やはどうしてこんな廃墟に?」

肝試しでは無さそうだ。と笑う男の人に、俺は何て言っていいのか言葉を選ぶ。

数分迷った末、俺は正直に話した。

いつも通り過ごしていたら村が襲撃された事。

両親と村の人達は全員…。で逃げられたのは俺だけだと言う事。

俺が話し終わるまで、男の人は何も言わずに聞いてくれた。

「……そうか、それは辛かっただろう。

私も似た経験をした事があるんだ。

君のその気持ちは痛いほどよく分かる」

そう言った鏡の男の人は哀しそうな顔をしていて…どこか遠くを見つめていた。

孤独な寂しがり屋の目。

「…せっかくだ。

似た者同士と言う事で、願いを一つ叶えてやろう。特別だぞ?この魔法で私は散々痛い目を見たからな叶えるのは一つまでだ。

願いが叶ったら、私にしっかりと感謝すること。

良いな?さぁ、願いを思い浮かべるんだ」

願いを一つ叶える…?

そんなの急に言われても、困ってしまう。

そういうのが好きだった祖父の知識で、死者蘇生が禁忌なのは知っている。

なら、盗賊達への復讐?

でもそれは自分の力で成し遂げるもので、この人に頼るのは違う。

なら、他に……。

他の…願いは…。

「……一緒にいてほしいです…」

「なんだって?」

「その鏡から出て、一緒にいてほしいです。

俺はまだ…世界に詳しくないし、このまま一人で過ごすのは嫌だから…」

誰かと一緒にいたい。一人は寂しい。

子供っぽい願いだけど、今の俺にとっては大きくて壮大な願いだ。

鏡の男の人を見ると、その表情はなんとも言えないものだった。

「あの…」

「…っ…あぁ。なんでもないよ、大丈夫だ。

願いは『一緒にいてほしい』であってるね?

私がこの鏡から出て、君と一緒に…過ごす」

なぜだか焦った様子で願いを繰り返す鏡の男の人。

「…はい」

「……ならば、深く願いなさい。

この鏡から出て、君と共に過ごす私を。

ただ、その願いを想像するだけでいい」

そう言われ、俺は目を瞑りながら願う。

この人と一緒にいて、楽しく暮らす日々を。

二度と日常を奪われないように特訓する日々を。

食べ物を分け合い笑い合う、ささやかで幸せな日々を。

瞼の裏に空想の日々を写し、強く強く願う。

叶う確証なんて無いけれど少し夢を見たくて。

 暗い廃墟の中が真っ白に光った。

「…おぉ、出れた。出れたぞ!」

嬉しそうな声が聞こえ、恐る恐る目を開けるとそこには割れた鏡とその中にいた筈の男の人が。

出れた?と喜んでいるが…?何のことだろう。

「あぁ…、君の願いのお陰だ!

鏡の身体は色々と不便でね、大変なんだよ…」

肩を回しながら大袈裟に顔を歪めて見せる男の人…いや、実際不便で大変だったのだろう。

「…改めて、私の名はマグニフィコ。

世界で一番ハンサムで偉大な魔法使いだ!

これからよろしく頼むよ、坊や」

「マグニフィコ…さん。

…こちらこそ、よろしくお願いします……」

自信満々に差し出された手を握り、握手を交わす。

この日から、俺とマグニフィコの奇妙で楽しい日常が始まるのだった。

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