悪のイカれ花屋一族のとある少女をその幼馴染のモブ少年から見た書き捨て

悪のイカれ花屋一族のとある少女をその幼馴染のモブ少年から見た書き捨て

字書きA


 終わった倫理観。染まった道徳観念。

 粘着質で不穏な狂気があいつの家の壁紙やら排水溝やらにはいつもこびり付いていて、初めてあいつの家に遊びに行った時には複数人いた友達も、今は俺しか残っていない。

 何が怖いのかは深く関わり合いになるまでわからない。けれども浅い付き合いでさえ何かが怖いのはわかる。

 そういうオーラをあいつだけでなく、あいつのご家族もみんな放っていて。その毒気に呑み込まれない内に無意識か意識的にか距離を置いた友人たちは賢いと思う。

 俺は生来の怖いもの見たさが災いして、義務教育機関を卒業してからもあいつと友達のままでいる。

 全員に渡って異界の常識が染み込んだイカれポンチども、そんな連中の一部が暮らすあいつの家、将来きっとずっともっとヤバくなるであろうあいつ、全部が全部重度のドキドキで俺を捕らえて離さない。

 ──そして何より。


「ねぇ××、新しいお花だよ。綺麗でしょう? この前やっとね、人間なんかを辞めさせられたの。これでこの美しい生き物に相応しい生き方をさせてあげられるよ」


 あいつがうっとりと笑って、家に遊びに来た俺に紹介してくれた“花”。それも俺の好奇心を掻っ攫った。

 幼馴染と呼ばれるに値するだけの関係になってから、あいつは自分にとって、自分たちの血族にとって宝物でも売物でもある“花”を俺に見せてくれるようになった。

 どこからどう見たって、人形のように生気に欠けただけの美形の男女だろう……なんて正論は口に出さずに、色艶が良いとか発色が鮮やかだとか褒めそやせばあいつは喜んでくれた。

 幸せそうに、満ち足りた笑顔で、あいつは自分たちの手ずから心を破壊した美人たちを花なんて呼んで丁寧に世話している。

 綺麗な水を飲ませて、絹の服を着せてやって、髪を恭しく梳いてやって……そうして最後には客を名乗る金持ちそうな連中に売り飛ばす。

 要は人身売買なのに、あいつもあいつの家族も悪びれた様子は無かった。むしろ善いことをしたとさえ思っているだろう。


 ──だって人より花のほうが素晴らしいんだから、人を花にするのは善行だよ。もちろん人より素晴らしい存在である以上、全ての人を花にすることはできないんだけどね。やっぱり美しくないと。それは最低条件だよ。買われたお花たちも幸せだよ。だって高い価値があるものは大事にされるし、私達はちゃんと花が不幸にならないように富裕層に高額で譲り渡してるもん。そうやって得たお金でね、またとびきり綺麗なのに人なんてやってる勿体無い子たちを花にしてあげるんだ。


 なんて語っていたあいつの姿は人としてどん詰まりで、理屈の通じない法則の下で産み育てられた歪さを感じて。意思疎通ができるのに理解不能で。人を翻弄する怪異みたいで。

 だけど。それでも。やるべきだと思っていることとやりたいと思っていることが見事に一致して、それに邁進している人間特有のエネルギッシュさがあった。

 傍目には窒息しそうな閉塞感のある、新興宗教じみたルールとモラルに支配された血筋において、当人たちはそんなものは微塵も感じずひたすらに充足しているのだ。

 俺にはそれが少し羨ましい。イかれているのは事実でも、この幼馴染が俺よりイキイキしているのもまた事実なのだから。




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