兄たる者
Altaregoそれは固形石鹸のような味がした。通常口にするはずのない味に舌が拒否反応を起こしたが、構わず飲み込んだ。大きさで言えば、2個繋げた卵を丸呑みしているような感覚。喉に詰まるかと思ったが、どうにか嚥下した。
まだ、あと7人。
俺以外に自我を持って産まれてきた、たった二人の弟。壊相に血塗。
もっと、生きたかっただろう。
産まれてきたものの、声を聞くことさえ叶わなかった5人の弟たち。
お前たちも、生きたかっただろう。
俺一人が今生きている。それも、もう一人の弟のお陰で。
俺は弟達のお陰でこうして生きることができている。しかし、俺はお前たちに何をしてやれた? 「兄」という立ち位置にいた俺が、守ってやらなければならないはずのお前たちを守れなかった。あまつさえ守られて生きてきた。
だが、答えてくれる者はいない。俺の兄弟はもういない。この問いには、俺自身が答えるしか無い。
「お前たちの分まで生きる……お前たちを守れなかったくせにそんな贅沢なことを言っては怒られるかもしれないが、許してくれ。決して楽な道を選んだわけじゃないことを、お前たちがもう死んでしまったことを言い訳にしているわけじゃない事を、どうかわかってくれ」
誰一人忘れない。死ぬまで忘れない、いや死んでも忘れない。向こうで弟たちに会った時、忘れていたら合わせる顔がない。
中途半端な所でお前たちに会いに行ったなら、怒って追い返してくれ。だが、最後の最後まで生きて。お前たちが生きるはずだった分まで生きて。そして死んだなら。
その時は、笑って出迎えてくれ。