再会

再会


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「こんな雑魚、ただでさえ忙しい僕に押し付けないで欲しいもんだね」


目の前で塵となって散っていく呪霊を見ながらそう呟く


去年の冬に傑を殺してからもう半年以上が経った                あの時の光景は今でも脳裏に焼き付いて離れない。機能が停止した体はもううんともすんとも言ってくれない。筋肉は緩みきって表情も無くなる。触らなくても分かる、人の温かみが無くなってただの肉塊になった親友を見るのは辛かった

親友をそんな風にしたのは紛れもなく僕自身なんだけど

そんなこんなで百鬼夜行は終わり、里香の呪いも晴れて解かれた。憂太は海外へ経験を詰みに行き、高専一年生として恵が入学した。二年生の真希や棘、パンダとのコミュニケーションもバッチリで流石僕の生徒だと思う。我ながら誇らしい

自分に当てられる任務を熟しながらの教職は確かに大変だが、それでも充実した生活だ。何も無くぼーっと過ごす様な生活よりかは幾分健全だと僕は思う


今回の任務は廃墟になった屋敷に住み着いてる呪霊を祓う、といういかにもな任務である

屋敷は蔦に覆われており、割れた窓から侵入したのか知らないが床にも蔦が這っていた。日が当たらない立地に建てられた屋敷の中は大変湿っぽく不愉快な気分にさせる。踏み進めば床は毎度音を立て、ドアは一回ではスムーズに開かない。もういっその事帳も降ろしているし屋敷ごと吹き飛ばしてやろうかと思う程探索には不便だった。

屋敷の奥に進めばこれまたいかにもな雰囲気を漂わせる地下室に繋がる階段が見つかり、そこから他の呪霊とは比べ物にならない呪力を感じる。呪霊は何故こんな湿っぽい場所を好んでいるのかとか、もっと分かりやすい場所に居ろよとか色々文句が言いたくなるが地下に居る奴を祓えば今回の任務は無事完了する事を知っているので大人しく地下へ行く事にする

日照権位守ってから家は建てて欲しいものだ。六眼があるから良いものの、余りにも暗すぎて一般人が使用すれば足を踏み外しそうである。実際、何人かが屋敷に肝試しに来て怪我をしたという件を聞いた


僕からすれば肝試しなんて変な事しなければ良いのに、と思う所もある訳だけど

階段を降り続けて数分経った位だろうか、長い階段も終わりを迎えてやけに広い広場の様な場所に着いた。何とも悪趣味な匂いと呪力が漂っているそこは床や壁に誰の血か髪かも分からない物がへばりついてる。先程述べたような肝試しに来た人達の残骸だろう。幸か不幸か、死体は見当たらない

途端、背中に感じる殺意と呪力。そこまで強くない呪霊のものだ。大体二級か、甘く見積って一級。特級では無い事は確かである

振り向くのも面倒になり、適当に背後に手を翳して呪力を篭める。そうすれば大体の呪霊は簡単に祓えるので楽なものである


「____」


何を発しているかも分からない不愉快な音を立てながら塵になる音が背後から聞こえる。今回の任務が何事も無く終わった事を静かに告げた

微かに呪力は感じるものの、大した呪霊じゃない。四級にも満たない奴に一々気にしていると何にも進まないなんて嫌という程理解しているので悲惨な広場を探索する事にした。地面は階段と同じで石製であり、コツコツと靴のなる音が狭い地下に響く


床も壁に着いている血跡や髪、中途半端にちぎれて薄汚れた服や片方が見つからない可哀想な靴が散乱している。なんでこんな怪しい場所に足を踏み入れた馬鹿が居るのか、とも考えるが先程祓った呪霊は最低でも二級はある。下手に知能を持った呪霊ならば人を地下に誘い込むのも可能だろう


「おっと」


地下室の全貌を大体把握した所でコツ、と足が何かを蹴った。考え事をしながら歩いていて足元に注意が向かなかったのだろう。目を凝らして見てみれば下半身が無い女性の死体がそこにはあった。死体の状態は下半身が無い事以外は良い。服も顔も余り汚れておらず、虫が他の場所と比べてさほど飛んでいないのを見ると殺害されたのは最近だと言う事が伺える。補助監督に知らせて死体を回収して貰うか、と考え始めた所で背後から懐かしい気配を感じた





「先に死体運んでで、僕はもうちょっとこの辺りを見て回るから」


了解しました、と言って補助監督が車に乗り、高専に戻っていくのを見届けてから屋敷の方へと振り返る。木に囲まれていて、屋敷に陽が届かない様になっており昼と言うのに屋敷周辺は暗く陰湿な雰囲気だ。屋敷自体の造りは良いのに勿体ない、と素直に思う


そういや、高専時代の時も同じ様な任務をこなしたっけ              任務に出た歌姫と冥さんが二日間戻らず、僕と硝子、そして傑が駆り出されたあの任務。帳を降ろすのを忘れていて夜蛾センに拳骨された事も良く覚えている


「…あの時は心の底から笑えてたのかよ、傑」


親友が最後に吐いた本音はずっと心に残る。どんだけ生徒の前では過ぎた事の様に振る舞えど、どうにも自分の中で上手く消化が出来なくて

呪霊も居なくなり、何の気配も感じられなくなった屋敷の前で時が経つのを肌に感じながらずっと昔の事を思い出していた。澄んでいて、何者にも成れると信じてやまなかったあの日々。もう取り戻す事は出来ない、あの日々


その日は晴れていた。それはもう憎たらしくなるぐらい              積乱雲を背にして太陽に向かって向日葵が首を揺らした予感がした




宿儺の器が高専に通う事になった

名は虎杖悠仁。特級呪物回収の時に誤って指を飲み込んだ極普通、とは言い難い青年である。恵と同い年でセンスも抜群、運動神経も真希と同じかそれ以上。期待の新人だ


彼を迎えに行く途中に任務が入った。上の連中も困った奴らで参ってしまう     場所は東京の外れにある小さな町。多数の呪霊目撃情報が入っており被害者はまだ出ていないものの先に手を打つに越したことはないという事で僕に任務を手配したらしい。全く面倒臭い事をしてくれる

任務場所に向かうとそこは町とは言いがたく、どっちかと言うと村と表現した方が適切と思う様な田舎であった。村人が数人道端で雑談をしていたり、畑を耕していたりと一見とても平和な光景である。下手に情報収集して時間を潰すのも嫌だったのでさっさと目撃情報が多くあった場所へと足を運んだ


目撃情報が多数上がった場所は村の離れに植えてある大樹の下。そこは雰囲気も良く日もよく当たる。暗がりを好む呪霊がここに居るとは考えずらかったが、まぁ物好きな呪霊だと思う事にした

良く田舎の道端に咲いてあるような雑花が大樹を囲む様に咲いている。日もよく当たるそこは雨水も良く流れるのであろう。人の手入れが施されていると錯覚するほどに綺麗に咲いている。都会にこんなスポットがあったら、若者がキャーキャー騒いで映えスポットにするんだろうなと思った

大樹の方向からは特に呪力を感じない。呪霊が居る様な雰囲気も無いし、時間が惜しい。他の目撃情報があった場所を見て回ろうと大樹に背を向けた時だった


「アレ、五条チャン?」


懐かしい声が聞こえて、思わず足を止めてしまった                何年も姿を見なかったし、呪力も感じなかった。それでも間違える訳が無い

目隠しを外して、大樹へともう一度目を向けた


あの時と変わらない見た目、身長、声、呪力                    足元に咲いた色とりどりの花が風に揺れその小さな体を揺らしているのに倣って、毛の様なふわふわとした部分が微かに揺れているのが分かった


「大キクナッタネ。五条チャン」


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