キラとオウの出会い
その日は特に、教授から何か押し付けられたりだとか、用事があったわけでは無い。ヘリオポリスの学生、キラ・ヤマトは次の授業の教室へ向かう為に歩いていた、日常の一コマはこんなものだろうと、そう思うくらいには……。
『あ〜助けて〜……だーれかー?』
そんな日常を破壊した光景に、キラは固まった。自販機横のゴミ箱から、ダメージジーンズの下半身が生えてジタバタして、助けを求めていたのだ。
「あの、大丈夫ですか?」
大丈夫なわけが無い、しかして人は『大丈夫か?』と声をかけてしまうものである、それに通りかかったこのカレッジの生徒達も、関わるな我関せずと素通りして、誰一人助けないならば自分しかいないとキラは尋ねてみた。
『あーごめーん、迷惑かけるけど引っ張って欲しい……』
「わかった、よい……しょ!」
ずるりと、土から作物を抜き取る様に、上半身が出てきた。金髪の、いかにもチャラついた、このカレッジに似合わない風体の少年が、ゴミの付いた服を払ったりしながら立ち上がる。
「いやー助かった……ありがとう、キミのおかげで俺は窮地を脱したよ」
「そんな大袈裟な……」
顔を見せた金髪の少年は、同じ男のキラからしても『美男子』と思える顔をしていた、雑誌のファッションモデルとかに居そうな、そんな印象を受けるキラに、少年は笑顔を見せる。
「これも何かの縁だな、助けて貰った礼をしたい、どう?ジュース奢るぜ?」
「い、いや、そんな大した事……」
「いいからいいから、奢らせてくれよ、な?コーヒー?炭酸?」
「じゃあ、カフェオレ」
礼には礼をと、押し切られたキラのリクエストに少年は、早速自販機にカードをかざし、自販機のボタンを押してカフェオレが落ちてくれば、それを取り出し手渡した。
「どうも……えーと……」
そう言えば名前を聞いてないなと、プルタブを開けてカフェオレを飲むキラに、少年は気付く。
「あ、名乗ってないな、俺はオウ、オウ・ラ・フラガ」
「僕は、キラ・ヤマト、よろしく……というか、どうしてゴミ箱に突き刺さってたの?」
少年の名は、オウと言った。名前を聞いてキラも名乗り、何故ゴミ箱であんな事態になっていたのか尋ねた。それに対してオウは、自らも自販機のボタンを押して炭酸飲料を買ってから、質問に答えた。
「いや自業自得……6股バレちゃって、6人目の彼女に叩き込まれたんだ」
「はぁ、6股……6?2股じゃなくて?」
おかしい数だ、2なら兎も角6などと現実味が無い、しかしよく見たらオウの両頬に紅葉がしっかり出来上がっていて、キラに現実味を感じさせるのである。
「そー……あれよあれよと関係持っちゃって気付いたらさ、まぁこんな顔の良い美男子ですから断りきれなくってね?」
ナルシストでもあるのが見て取れる、しかして勘違いではない。多分、しっかり理解して言えるからそう言える自信すら持っている口ぶりに、キラは少しおかしくなって苦笑して言う。
「擁護できないよ、それは……」
「分かってるさ、てか優しいな、擁護の余地は感じてるなんて、だから自業自得ーー」
「おーい、キラー?そろそろ次の……」
そうして談笑していると、友人のトールが次の授業に遅れると呼びかけて来た。
「何してるの、そんなところで油売って……げ!?」
その彼女ミリアリアもついて来た様だが、二人してオウを見て顔を顰めた。
「え?トール?ミリィ?何かあったの?」
「おいキラ?そ、そいつと話してたのか?」
「やめときなさい、変な遊びに誘われるわよ?」
二人の棘ある言葉に対して、オウはそれでも笑顔を崩さずに言い返した。
「酷いなあ、トールにミリィ……こんなんでも旧友だろ、俺たち?てかあれからよろしくやってんだな、いいじゃない?」
「誰が旧友だ、このスケコマシ」
「あんたまたやらかしたんでしょ、いつか刺されるわよ?」
「二人と、オウは知り合いなの?」
「腐れ縁だよ、こいつは女だったら見境無く口説くし、仲良くなったら肉体関係も簡単に持つ奴なんだ」
「キラも関わるのやめときなって、ほら行こう?」
ミリアリアに手を引かれ、キラはオウから引き剥がされた。しかしオウは、色々言われても気にせずとばかりに、背を向けたキラに言い放つ。
「また見かけたら声かけてくれよ!遊びの誘いも待ってるぜー!」
鮮烈な出会いを果たした二人、ミリアリアに『関わるな』と言われたキラだったが……まるでそれを知らぬとばかりに、二人は仲良くなって行った。
やがて来る、物語の始まりの前のお話……C.E73ヘリオポリスでの出会いであった。