声明・決議・意見書

会長声明2024.02.13

広島市長の職員研修資料への教育勅語引用に反対する会長声明

広島弁護士会 会長 坂下 宗生

第1 声明の趣旨

当会は、広島市長に対し、教育勅語の引用が誤りであったことを認め、今後、職員研修の資料として教育勅語を引用することをやめるよう求める。

 

第2 声明の理由

2023年12月、マスコミ報道で、広島市長が、就任直後から、広島市の新任職員研修において、教育勅語の「博愛」や「公益」の尊さを説いた部分を研修資料に引用し、講話を続けてきたことが明らかとなった。

広島市長は、マスコミ報道の後も、「教育勅語を再評価すべきとは考えていないが、評価してもよい部分があったという事実を知っておくことは大切。今後も使用を続ける」「民主主義的な発想の言葉が並んでいる」などと、教育勅語を肯定する内容の発言を続けている。

教育勅語は、明治天皇が、天皇の「臣民」である国民に対し、臣民が忠孝を尽くしたことで国が栄えたことを称え、教育の淵源をもここに求めたものである。かかる教育勅語は、1948年6月の衆議院の「教育勅語等排除に関する決議」及び参議院の「教育勅語等失効確認に関する決議」において、すでに廃止され、その効力は失われているものであり、その内容は、国民主権を原理とする日本国憲法および教育基本法とは、根本から矛盾する。

また、教育勅語には、「皇祖皇宗國ヲ肇󠄁ムルコト・・・」や「天壤無窮󠄁ノ皇運󠄁ヲ・・・」などの国家神道を前提とする言葉が用いられており、象徴天皇制(憲法1条)や政教分離の原則(憲法20条1、3項)とも相容れない。

したがって、憲法尊重擁護義務(憲法99条)を負う公務員である広島市長が、公務員の研修に教育勅語を用いることは明らかに誤りである。

そもそも、日本国憲法との関係だけでなく、「一旦緩急アレバ義勇公ニ奉ジ、以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スベシ」(いざという時には一身を捧げて皇室国家のために尽くせ)とあるように、教育勅語が戦時下で国民を戦争へ動員する思想統制に利用された歴史的事実からすれば、教育勅語の一部を切り取って、市長が「評価してもよい部分があった」と取り上げること自体に非常に大きな問題がある。これは、平和都市広島であり、平和首長会議の会長都市である広島市の市長が、教育勅語の内容を、評価しているととらえられかねない発言だからである。

広島では、第二次世界大戦において、1945年8月に原子爆弾が投下され、同年のうちに14万人が亡くなったと言われている。今でも、原爆後遺症に苦しむヒバクシャが多数存在する。戦争の歴史、その背景を理解し、平和都市広島の市長としてふさわしい言動がなされるべきである。

よって、教育勅語の引用が誤りであったことを認め、今後、職員研修の資料として教育勅語を引用することをやめるよう求める。

以上