わずか9年で再生可能エネルギーの比率を3割から8割へ。そんな方針をぶち上げたオーストラリア(豪州)の切り札と言えるのが、EU(欧州連合)にも”まねされた制度”である「CIS(Capacity Investment Scheme)」だ。CISはその名前の通り、安定供給に必要な電源容量を確保する制度でありながら、支援対象を再エネ・ストレージに限定。脱炭素電源の拡大にも貢献する仕組みだ。さらに、必要な設備の運転開始時期・地域・技術要件を、シミュレーションを基に政府が細かく設定することで、脱炭素に向けた電源構成獲得の最短距離を狙っている。世にもまれに見る制度だ。

(出所:123RF)
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 豪州で労働党が政権を握り、化石燃料から再エネへの大規模な転換へと舵(かじ)が切られてからまもなく2年を迎える。2021年に29%(発電電力量ベース)だった再エネを2030年に82%にするという目標は、豪州の政策転換の象徴だが、この方針は単なるかけ声に終わっていない。再エネへのシフトは、この2年間で着実に進展している。

 豪州は言わずと知れた資源大国であり、石炭や天然ガスを自給できるため、電源構成の71%を火力発電が占めている(2021年)。くしくもこの割合は日本の火力発電の割合73%(2022年度)とほぼ同じだ。火力発電に依存しているために、そのフェーズアウトに大きな反発があるという点も日豪に共通している。それどころか、豪州は燃料そのものを国内で産出するため、日本以上に火力発電の利害関係者が多いと言えるだろう。

 そうした逆境の中で豪州はどのようにエネルギーシフトを進めているのか。日本の参考になる点が大いにある。以前の連載「豪州が目指す脱炭素フロントランナー」では、主に大規模蓄電設備の急拡大について紹介したが、今回は豪州の大転換を支える再エネ・ストレージ普及策、特にファイナンス確保策について解説する。

EUも優位性を認めたCISとは

 豪州の無謀とも言われかねない再エネ拡大策の中核が、豪州政府による再エネや蓄電池などのストレージ(クリーン設備)の拡大策であるCISだ。

 この制度は、「EUの卸電力市場改革、核心は『CfD』導入義務化とPPA推進」で解説した、「上下限付き双方向CfD」と基本的に同じものであり、発電事業者へのファイナンス支援策となる。

 CISでは、新たに導入するクリーン設備について、FIP(フィードインプレミアム)制度の基準価格に似た「上限価格」と「下限価格」を設定。卸電力市場価格が下限を下回った場合には、政府が差額を発電事業者に補填し、卸電力価格が上限価格を上回った場合には、逆に超過分を政府が発電事業者から徴収する。そんな仕組みだ(図1)。

CISは上下限付き双方向CfDと基本的な仕組みは同じ
CISは上下限付き双方向CfDと基本的な仕組みは同じ
図1●CIS制度の概念図(出所:オーストラリア政府)

 発電事業者は最低収入が保証されるため、銀行からの貸し付けを受けやすくなる。一方で市場高騰時には、政府が発電事業者から超過利益を徴収して、電気料金高騰対策に活用できる。下限価格は入札によって決まるため、競争原理も働く。CISは再エネの競争的な導入促進と電気料金の安定化という2つの目的に貢献できる制度になっている。

 実はこのCISは、EUが電力市場改革で導入を決めた上下限付き双方向CfDの下敷きとなっている。つい最近まで「脱炭素に後ろ向き」と見られていた豪州が、EUにまねされるような先進的な制度を導入していることは驚きに値するだろう。

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