A-1
「アベル様が、私のことを心配してくださっているのは…とても、嬉しいです。けれど、私はアベル様の道具。貴方の為に命を捧げられるならば、貴方を守り死ぬことができるなら…それは、本望です」
蒼い瞳が、まっすぐとアベルを見つめた。包帯の下の、赤い瞳も同じようにアベルを見つめているのだろう。決して揺らがないその眼差しに、ああ、ダメだ。とアベルは思う。視線を落とす。
そして、小さく吐き出した。
「…そうか。それが、お前の答えなんだね」
「えっ…?…!?」
ミシッ、と嫌な音がアビスの右腕から聞こえる。そちらに目を向けた瞬間、アビスの瞳が大きく見開かれる。
腕が、木材のように変わり始めていた。それは、身体を蝕むように広がっていく。
何が起こっているのか、アビスは瞬時に理解した。だって、何度も、見てきたから。困惑するような、絶望するような表情で、アビスはアベルを見る。
「アベ、ル様…!どうし、て…!」
「どうして?おかしなことを言うんだね。アビスは僕の道具なんだろう」
だから、望むようにしてあげよう。
アビスが何かを叫んでいたが、アベルの耳には届かない。だって、仕方ないだろう。最初に、アベルの言葉に耳を傾けなかったのはアビスなのだから。
傷付いてほしくないのに、道具だからと、平気で自分を傷付けるから。
やがて、アビスの声がしなくなる。部屋の中には、アベルが一人、母さんと呼ぶ人形を抱いて立っていた。
さっきまでアビスが立っていた場所には、青い髪を一つに束ね、左目を包帯で覆った木の人形があった。
「…これでもう大丈夫だ。僕がお前を…アビスを守ってあげるよ」
そう言って、木の人形の手を取り口づけを落とす。
うつろな瞳の人形が、きしりと揺れた。
<BAD END>