米上院、ウクライナなどへの軍事支援法案を否決

ジョー・バイデン米大統領

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米連邦議会の上院は6日、ウクライナへの軍事支援を含む大型支出法案を51対49で否決した。野党・共和党がウクライナ支援と引き換えに求めていた、アメリカ国境の警備強化をめぐって合意に至らなかった。

1060億ドル(約15兆6000億円)の支出案には、ウクライナ支援のほか、イスラエルと台湾への軍事支援が含まれていた。

ジョー・バイデン政権は、ウクライナへの支援金が間もなく枯渇すると警告している。一方の共和党は、ウクライナへの支援は自国の移民・難民政策の大幅な改革と引き換えにするべきだとしていた。

今回の法案は、可決に60票が必要だった。支出案が否決されたことで、ウクライナ支援の先行きは不透明になった。また、議会の冬期休暇まで残り数日となる中で、議員たちは再び交渉を始めなくてはならない。

議決では、共和党議員全員が反対票を投じた。無所属のバーニー・サンダース議員も、この法案にイスラエルへの数十億ドルの軍事援助が含まれていることに懸念を表明し、反対した。

サンダース議員は長年、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を批判してきた。議員は、パレスチナ自治区ガザ地区におけるイスラエルの軍事作戦に言及し、「極右ネタニヤフ政権に現在の軍事的アプローチを続けさせるため、100億ドルを支出すべきではない」と述べた。この軍事作戦では、多数の民間人が殺害されている。

サンダース氏はさらに、「ネタニヤフ政権がしていることは道徳にもとり、国際法に違反している。アメリカはこうした行為に加担するべきではない」と述べた。

アメリカはすでに、ウクライナに装甲車などを提供している

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バイデン米大統領はこの日、支援法案を可決させるためなら「国境に関して、喜んで大きく譲歩する」と述べていた。

「この法案成立を待っている余裕はない」とバイデン氏は述べ、「下院の共和党議員は、プーチンにこれ以上ない最高のプレゼントを進んで与えるつもりだ」と付け加えた。

バイデン政権はまた、ウクライナに対して1億7500万ドル規模の新たな安全保障支援を行うと発表。これは、すでに承認されている資金が使われる。米国防総省によると、新たな包括支援にはミサイルや砲弾のほか、「重要な国家インフラを守る設備」などが含まれる。

1060億ドルの支援法案の行方は、5日の時点で不安視されていた。この日、法案への支持を固めるために行われた議員向けの機密ブリーフィングは、見事に決裂した。上院議員らは国境政策について怒鳴り合い、少なくとも十数人の共和党議員が退席した。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領もこの日、予定されていた米議会の議員らとのビデオ会議を直前になって中止。理由は明らかになっていない。

法案にはメキシコとの国境に関する条項が含まれていたものの、共和党は難民受け入れの規則変更を求め、これが民主党との交渉を複雑化させた。共和党員のほとんどはウクライナ支援に賛成しているものの、南部国境について国内で高まる懸念に取り組む姿勢を、この法案を通じて打ち出そうとする民主党議員もいる。

上院のチャック・シューマー院内総務(民主党)は議決前に気持ちのこもった演説を行い、この投票は重要な「歴史的瞬間」で、ウクライナの「民主主義を守るために急ぐべきだ」と述べた。

また、「ウラジーミル・プーチンが注視していることは間違いない」と付け加えた。

冬期休暇前に合意できるのか

法案が否決されたことで、一部の上院議員は交渉を続ける方針だが、来週から始まる連邦議会の冬期休暇前にどれだけ進展が得られるかは不透明だ。

シューマー院内総務も、バイデン氏が「力強い計画」を提示していると信じていると述べたものの、休暇前に上院が合意に達するかについては「どうだろう」と答えた。

だが、法案が上院で可決されても、下院でも苦戦を強いられる見通し。

下院のマイク・ジョンソン議長(共和党)は5日、上院に対し、国境警備の大規模な対策を新たに盛り込まない限り、ウクライナ支援案を可決することはできないと述べた。

米議会はウクライナでの戦争が始まった昨年2月以来、同国に対する1100億ドル(約16兆2000億円)以上の軍事・経済支援を承認しているが、政府は数カ月前から、すでにその大半が使われたとしている。

政府の行政管理予算局のシャランダ・ヤング局長は、今週初めに送付したジョンソン議長への公開書簡で、議会が行動しなければ、アメリカは「年内に」ウクライナに追加の武器や装備を提供できなくなると指摘している

ウクライナ政府高官は、ロシア軍に抵抗し占領地を奪還するためには、アメリカの援助が不可欠だと繰り返し強調している。

ウクライナのアンドリー・イェルマーク大統領首席補佐官は5日、米首都ワシントンのシンクタンク「米国平和研究所」で講演。アメリカの継続的な支援がなければ、ウクライナがロシアに負ける「大きなリスク」があると訴えた。

イェルマーク氏はまた、「ウクライナ軍の位置を維持することと、国民が本当に生き残ることは、難しくなる」と述べた。