あの夏の香り
Altar ego仄かに本編を香らせてみたくなった
「ん?あやつは…」
「どうされましたか、お嬢様?」
メイド風の服装の女性が少女に声を掛けるが、少女は何でもない、と答えた。
「そうでしたか。どなたかお知り合いの方でも見つけたのかと」
「いや、そういうわけではない。ただ、な」
懐かしい奴らを目にした気がしてな。
少女はその言葉を飲み込んだ。そんなわけがない。あんな胡散臭そうな男と、変な前髪の男、今まで会ったことなんて一度もない。
「なぁ、黒井。いつか沖縄に行ってみたいんだが」
「沖縄に、ですか……いいですね、今年の夏も熱くなりそうですし、海水浴も楽しめると思います」
「それもそうだが、妾は美ら海水族館に行ってみたいぞ! 黒潮の海という大きな水槽に、ジンベイザメのジンタが泳いでいるらしい」
「いつの間にそんなことまで…」
女性は困ったように微笑むが、少女はそんな事を気にせず沖縄に行ってやりたいことを滔々と語る。きっとあり得ない、あの夏の香りをほのかに感じながら。