嘘つき侍

嘘つき侍


 私はあなたのような、立派な人じゃない

 私はただ…真実とは程遠い嘘を

 みんなを騙すための仮面をかぶっていただけ…

 全部嘘で…

 全部、私のせいで…私が偽りの仮面をかぶったせいで

 目の前にいるアイツの言う通り、私がいなければこんなことにはならなかった。

 そもそもこれに袖を通す資格も私にはない。

 私のせいで…

 


「手前さんもご存じでしょう。?会場で暴れている「無貌の形代」を生み出したのは、ユカリ。手前さん方を憎み、燃やし尽くしすべてを投げ出したいと考えた張本人。そう、あなたが立派だと口にした百花繚乱の1年生なんて最初から存在していなかったんですよぉ」

 事件の主犯者箭吹シュロは嗤う。

「ユカリさえも自分の為に手前様を騙して心優しい生徒を演じていた。あ~あ…ウソにウソを重ねた、嘘つきだらけ!そんな、ヒロインでも何でもない彼女を…地面にはいつくばってまで、一体全体、どうして助けるんですぅ?」

 勘解由小路ユカリを見下し口を開き続ける。それは攻撃が一切通用しない故の自信からか将又自分は部外者、単なる語り部でしかないという思い込みからか。

「何の価値もない嘘つきどもを、どうして」

「たしかに、嘘をついていたかもしれない。本音を知られることが怖くて、善人を演じていたかもしれない」

 先生は肯定する。

「ええ、ええ!よぉくご存じじゃないですかぁ。そう、全部嘘なんですよぉ!本心を奥底に隠して、反吐が出そうなウソばっかり並べてて」

 先生には嘘つきどもと吐き捨てる彼女の姿がどのように映ったのか。この場にいる全員は分からない。だがこう続ける

「でも、それでもいいんじゃないかな?」

「‥‥はい?」

 笑顔が消えた。

「嘘をついたって、演じるのも、悪くないよ。だって、誰にだってある普通の事だし」

「…‥‥は?」

「偽りだとしても、それを演じ続ければ本当になるし。誰だって自分を繕うものだよ。」

「誰もがやる、普通の事。」




「嘘はどこまで行っても嘘。だからこそ、多くの人間が傷つき、悲劇を招くのですよ。」 

 表情から余裕が消える。

「でもね、最初は演技だったとしても、そのおかげでナグサは誰よりも3人の事をよく知っている人になれた。ナグサが憧れていた誰かのように、ね」

「!!!!」

「演技だとしても、取り繕っていただけでもいいじゃん。」

「結果、互いを憎みあい攻撃することになっても!?傷つき、絶望に暮れ、憎みあうと分かっているのに、そんな戯言を・・・?」

 否定する。

 ここで押し負ければ自分を保てなくなると、言葉を並べ立てて対抗するが「確かに。いがみ合って傷ついて、後ろ指刺されて取り戻せなくなることもある。でも、そういうのも含めて、誰にだってあることだよ。」

「喧嘩したら仲直りすればいい。許してもらえるか分からないけど」

「分からない?ほらっやはり傷を負わなければ…」

「それでも時間をかけて解決するものだよ。あとね、嘘も悪くないって思える理由が1つある。」

 再び咲いた笑顔が瞬時に消える。血が通っているか怪しいほど紫寄りの白肌が心なしか赤みを帯びてるように見えるほどに怒りの表情を作る一方、先生は笑って今もなお逃げ遅れた市民達の為に走るバンブルビーを見つめる。

「車に擬態していたビーに、キヴォトスで初めての友達に出会えた。」

「‥‥‥なぁにそれ。くっだらな__!!」

 言いかけた瞬間、シュロを両断するように一筋の刃と青の甲冑型の装甲で身を包んだドリフトが現れる。

「__なにしてんですかぁ。人が話しているときに」

「先ほどから風流も美しさの欠片もない言葉を聞き続けていたせいで脳の回路が少しイカれてしまったらしい。それにいいだろ?どうせ攻撃は通用しないのだから」

「空気がよめないのですかぁ。貴方といいオートボットは…」

「すまない、新参者故ここでの流儀は勉強中でな。それよりユカリに用がある。」

「‥‥なんですか?無駄ですよ、彼女は無貌の形代に呑まれて」

「勘解由小路ユカリ!俺はかつてディセプティコンだった!!」

 シュロの言葉を無視し、とんでもないカミングアウトをした。

「かつて俺はディセプティコンとして様々な悪事に手を染めてきた。だが、お前と同じで尊敬に値する友人に出会った。そこから俺は変わった。変われたんだ。奴との出会いが、先生…オプティマスプライムらが俺をディセプティコンからオートボットに変えてくれた」

 ドリフトを黙らせようとシュロは百物語の怪異を放つ。しかし、それで怖気づくわけもなく、刀を振るい1秒もかからず塵芥に変えた。

「早く目を覚ませ!居場所とは他人の都合に合わせるために存在するのではない。ましてや家系を盾に戯言を抜かす存在と過ごす場所でもない。自分で探し続け、己が居てよいと思える場所、心の底から気を許せる奴らといられる空間こそが本当の居場所なのだ。お前はもう知っているはずだ。帰るべき居場所を」

 怪異の数は増え続け、ドリフトを吞み込め始めるがそれで止まるはずもなく、切り刻み続ける。 

「そしてナグサ。たかが嘘1つで嘆く必要はない。俺はディセプティコンを裏切った上に、お前達に出会うまで車やヘリコプターに擬態し人間を騙し続けていたトリプルチェンジャー。つまり、今もなお嘘を吐き続けて生きている!お前だけじゃない。俺も、ここにいる誰もが何かしらの嘘を秘めて生きている。案ずるな、そしてお前の友人アヤメもきっと嘘をついて…離せ虫けらめ!」

「黙っててくださいよ‥‥ナグサちゃんの時も本来はスムーズに事を済ませる予定だったのに黄色いのに邪魔され今度は青いの‥‥」

「ドリフトだ。覚えておくがいい、貧相な小童」

 シュロの苛立ちは募っていく反面、ドリフトは嗤っていた。

 同じオートボット、ミラージュの喜びや楽しみ、アイアンハイドの強敵と出会った時の不敵な笑みとも違う。かつて悪事の限りを尽くした時の挑発的で、人の不幸を愉しみ如何にして狩るか企んでいる悪魔の獰猛な笑みだ。


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